category: 音楽 > 1980年代 (22)
フリーズ・フレイム / J. ガイルズ・バンド 1981年
進藤むつみのおすすめCD (vol.76)
(the J. Geils Band / the J. Geils Band から続く)
大きな期待を受けながら、迷宮に迷い込んだ the J. Geils Band は、心機一転EMIアメリカに移籍し、Boz Scaggs の "Silk Degrees" などを手がけた事で知られる Joe Wissert のプロデュースで "Sanctuary" を発表します。
ここで大きく変わったかといえば、実はそうでもない。ゆったりと余裕を持って演奏しているように聴こえるのは、ライヴとスタジオの違いを今まで以上に意識しただけでしょう。ギター・サウンドをベースにしたR&B色の強いロックン・ロールというのも変わらない。だけど Wissert のプロデュースに触れられたのが大きい。久々にゴールド・ディスクを獲得 (全米49位) した以上に、彼等の手応えは大きかったんだと思います。
翌80年、その経験を生かして、今度はメンバーの Seth Justman のプロデュースで "Love Stinks" (全米18位) をリリース。派手なギターがベースなのは変わらなくても、シンセサイザーが前面に出ることが多くなり、サウンドの印象は大きく変わりました。これが、古くからのファンの反発を呼び、『売るために超えてはいけなりラインを超えてしまった』と言われることになります。
しかし、そのサウンドを押し進めて発表されたのが、この "Freeze-Frame" でした。後述する "Centerfold" のヒットもあり、全米No.1を記録しました。
ヒューマン・ヴォイス / ケニー・ロギンス 1985年
進藤むつみのおすすめCD (vol.73)
あたしの中に何人かの自分がいると思う事があります。いえ、音楽の好みの話でね。基本的にカントリー・ロックが好きといっても、音楽に入り込んだのはフォーク・ソングからでした。日によってはしっとりとしたブルー・アイド・ソウルが聴きたい事もあるし、ロックンロールのリズムに身を任せたい時もある。どのあたしも嘘じゃない、本当の自分だと思うんです。
まあ、あたしの場合はその日の気分で聴く音楽を変えればいいだけだし、例えプレイするにしても『今回は』ですむ事でしょう。だけど、プロのミュージシャンにとってはそうはいかないと思うんです。ファンの人を唸らせるだけの内容も必要だし、レコード会社を納得させるだけのセールスも求められると思う。だけど、だからといってもう一人の自分を抑えてしまったら、それはそれで嘘になってしまうと思うんです。
自分を、ファンの人を、スタッフを、全てを納得させながら音楽のスタイルを変えていくなんて、それは同じサウンドを続けていく以上に難しい事なのかもしれません。
シンクロニシティ / ポリス 1983年
進藤むつみのおすすめCD (vol.72)
ロック・トリオといえば Cream や Emerson, Lake & Palmer から Nirvana まで、数々の名バンドを思い浮かべる事ができると思います。それぞれに特徴があって個性的。たぶん3人って縛りの中だと、お互いに個性をぶつけ合うくらいじゃないと、バンドとして成り立たないからなのかもしれません。そんな個性的な名バンドの中でも、あたしは the Police こそ最高のロック・トリオだと思っているんです。
Copland の手数の多い独特なドラムス、複雑で誰も真似しないようなギターを弾く Summers、そして Sting のハイトーン・ヴォイス。その3つがぶつかり合って・・・っていうより、もう鬩ぎあうって言った方がいいかもしれないくらい。そうやって生み出されるサウンドは、だからこそ他にない独創的なものになったのだと思うし、あたしに一番だと思わせる要因なのかもしれません。
Tricycle / ジョニー、ルイス&チャー 1980年
進藤むつみのおすすめCD (vol.70)
偶然に生まれるサウンドがあります。時代にピッタリはまったとか、コンセプトがミュージシャンに合っていたとか、参加しているメンバーやスタッフとの相性が良かったとか、色々な要因でそうなるんだと思う。だけど、そうして完成したサウンドが素晴らしいものだった時、あたしはホントに嬉しくなってしまうんです。そして・・・それが他で聴く事ができないほど個性的なものだった時には、ますますそう思う♪。この "Tricycle" は、そんなアルバムの1枚なんです。
中学時代からスタジオミュージシャンとして活動を始めた Char。天才ギタリストと謳われ、高校時代には金子マリ、鳴瀬喜博らと伝説と呼ばれる Smoky Medicine を結成。76年にNSPの天野滋の詩によるシングル "Navy Blue"、同年にアルバム "Char" でようやくデビューを飾りますが、時代が時代、ミュージシャンとしての道は簡単ではなかったようです。
そんな彼の名を世間に知らしめたのは、翌年、歌謡曲路線に転向してからの3曲でしょう。"気絶するほど悩ましい", "逆光線", "闘牛士"。この3曲の詞は、当時最も売れっ子だった作詞家阿久悠の手によるもの。売る事を念頭に、かなり割り切って活動していたようです。しかし、77年のアルバム "Have a Wine" を経て78年にサード "Thrill" を発表する頃から、彼のその後を変えるいくつかの出来事があったんです。
カーラ・ブレイ・ライヴ! / ザ・カーラ・ブレイ・バンド 1982年
進藤むつみのおすすめCD (vol.63)
年に1枚くらいは、ジャズのアルバムを紹介したいと思うんです。いえ、ホントはもっと紹介したい。だけど、去年 Michel Petrucciani の時にもお話ししたけれど、あたしって好きな割りにはジャズ界に詳しくないんですよね。だからこのアルバムは、そんなあたしでもお話したくなる、ホントに大好きな1枚なんです。
才女として名高い Carla Bley。フリー・ジャズの女王とも呼ばれたこともあり、女性のジャズ・ミュージシャンでは一番有名な人なのかもしれません。だけど、あたしが彼女の名前を知ったのは Pink Floyd の Nick Mason のソロアルバム、"Fictitious Sports" (81年) でだったんですよね。このアルバムで彼女は全曲の作詞作曲を、そして Nick Mason と共同プロデュースをしていていたんです。
なんとも不思議なアルバムでした。時々こういったアルバムに巡り合う事があるんだけど、素面では聴けない・・・って言えばいいのかな(笑)。Soft Machine にいた Robert Wyatt の朴訥なヴォーカルも不思議。いかにも Pink Floyd っぽいサウンドもある。ただ、管楽器の使い方がジャズなんですよね。しかも、音の重ね方が普通じゃない。ライナーノートには、いかに Carla Bley が素晴らしいミュージシャンかを綴っている。あたしは俄然彼女に興味が湧いて、そこで手にしたのがこの "Carla Bley Live!" だったんです。うん、手にしてよかった。巡り合いって不思議です♪。
ブラザース・イン・アームス / ダイアー・ストレイツ 1985年
進藤むつみのおすすめCD (vol.60)
60回目になるこの『おすすめCD』ですが、今までに紹介してきた中の8割はアメリカとカナダのミュージシャンでした。イギリスだと Pink Floydと Queen・・・、彼らはイギリスとは言い切れませんよね。他には Joe Jackson と Primal Scream。Joe もニュー・ヨークに渡った後のアルバムの紹介だったし、Primal Scream で紹介したのは "Give Out but Don't Give Up" でしたから、特にアメリカ南部のサウンドを狙ったアルバムでした。
別に、国籍で音楽を聴くつもりはないんですよ。だけど、これって自然にそうなっちゃうんですよね。アメリカン・ルーツ系の音が好きで、特にカントリーがかったロックにのめり込んでいたあたしには、『イイな』と思うとアメリカのミュージシャンっていう事が多いんです。他の国の人でも、アメリカっぽいサウンドだったりね。
だから今回ご紹介する Dire Straits も、イギリス出身ながらアメリカの香りを感じられるバンドだと思います。Mark Knopfler の飄々としたヴォーカルは Bob Dylan と比べられたし、乾いたギターの音色は特にアメリカ的と言えるでしょう。それに彼らは、デビュー直後からアメリカのマーケットを見た活動をしてきたしね。だけど、そんな中にも皮肉やユーモアを感じさせてくれるのは、やっぱりイギリス人だからでしょうか。そして、そんなバランス感覚がこのバンドの魅力だなと思うんです。
パッションワークス / ハート 1983年
進藤むつみのおすすめCD (vol.59)
Heart のアルバムを1枚紹介するとしたら、普通はこの "Passionworks" ではないでしょう。傑作デビュー・アルバムの "Dramboat Annie" か、代表曲 "Barracuda" を収録した "Little Queen" か・・・。いえ、復活後の Heart を思い浮かべる人の方が多いかもしれませんね。そのものズバリのアルバム・タイトルを付けた "Heart" か、復活第2弾の "Bad Animals" か・・・。
ただ復活後の彼等は、完全に売る事を目的にしてしまったと思うんです。例えば80年代後半のヒット曲って、全て外部のライターが書いた曲なんですよね。いいえ、悪いなんて言いません。特に "Bad Animals" のズッシリと密度の濃いサウンドは、80年代後半のミュージック・シーンを代表するアルバムと言えるでしょう。だけど、Ann & Nancy Wilson 姉妹を中心に曲作りをしてきた Heart、ハードなスタイルに拘ってきた初期の彼等を知っていると、ちょっと悲しくなってしまうんです。
もっとも、低迷した時期の彼等にしてみれば、それどころじゃなかったのでしょうね。活動していくためと、完全に割り切ったのだと思います。だって、もっとも売れなかったこの "Passionworks" は、初期のサウンドとはまた違う独特な静けさを持つアルバムで、もっと高い評価を得て当然と思えるクオリティーがあったのですから。そして、この静けさこそがあたしが気に入ってるトコで、なにか復活前夜を思わせるような気がするんです。
タンゴ・イン・ザ・ナイト / フリートウッド・マック 1987年
進藤むつみのおすすめCD (vol.48)
なんという、甘く美しいサウンドでしょうか。そして、恐ろしいほどのハイ・クオリティ。まったく5年間も解散状態にあったバンドが、こんな音を出せるものなのでしょうか。Lindsey Buckingham, Christine McVie, Stevie Nicks。強烈な個性を持った3人が、時にバックに回る事で、フロントに立つ歌手の魅力を更に引き立てています。そして、民主主義に従うように、交代で彼等らしい完璧なアルバムの流れを作っています。
もともと Fleetwood Mac は、フロントマンをチェンジする事で作品を作ってきたバンドでした。メンバーチェンジによる新鮮な風の呼び込み、そして新しい血肉による躍動。ひとつのアルバムの中でも当然、時代ごとに作風もまったく変わっています。メンバーチェンジの多いバンドといえるでしょう。そんな彼等の歴史の中で、黄金期と呼べるメンバーによる最後のアルバムが、この "Tango in the Night" なのです。
出逢いのときめき / ブレンダ・ラッセル 1983年
進藤むつみのおすすめCD (vol.47)
47回目になるこのCD紹介ですが、黒人アーティストの紹介は、今回が実は初めてになります。ルーツ・ミュージック好きのあたしにとって、R&B やブルースは重要な音楽だし、スワンプ感のあるサウンドも好きなんです。だけど、黒人アーティストがストレートにシャウトすると、ちょっとあたしには濃すぎちゃうんですよね。
もちろん黒人・白人という事で、聴く音楽を変えてるつもりはありません。実際、ロックやポップスの中心にいる黒人ミュージシャンも多いし、白人でもソウル・フィーリング溢れるヴォーカルを聴かせる人もいます。例えば以前紹介した Joan Osborne みたいにね。だけど、歌が上手で強烈に黒っぽい彼女にしても、やはり白人が歌ったソウル、ブルー・アイド・ソウルなんだと思います。そのくらいが、あたしにはちょうど良いんですよね。こんな話をすると、ブラック好きの人には笑われそうですけども。
さて、そんなあたしが紹介する黒人アーティストは、だから逆に黒っぽくない人になります。この Brenda Russell は、AOR を歌うシンガー・ソング・ライターで、ブルー・アイド・ソウルの感覚で聴けるかもしれません。事実、彼女が最も影響を受けたアーティストとして名前を挙げるのは、 Laura Nyro と Carole King だそうですから。まあ Laura の歌声は、黒人にしか聞こえませんけどね。
ロング・バケイション / 大滝詠一 1981年
進藤むつみのおすすめCD (vol.46)
このアルバムの魅力を一言で言うならば、歌手 大滝詠一 を最大限に生かしたサウンドだと思います。もちろん素晴らしい曲が並んでいます。どの曲のメロディーも詩も、ウォール・オブ・サウンドをはじめとして、フォーク調、またはロックン・ロールなど様々なアレンジも、全てが文句の付け所のないほど優れています。
だけど、これってプロデューサー 大滝詠一 が、歌手の 大滝詠一 を生かすための曲を書いて、その世界を広げるために 松本隆 を作詞家に起用して、そして曲によっての演奏も、やはり歌を生かすためのものだったと思うんですよね。過去に色んなタイプのアルバムを発表してきた人だけど、ここまで自身のヴォーカル・アルバムに拘ったのは初めてだったような気がします。
そしてもうひとつ、集大成のアルバムだったと思います。彼自身の音楽活動の集大成、そしてアナログ・レコーディングの集大成。そうして完成したこの "ロング・バケイション" は、日本のポピュラー音楽史上、最高傑作のアルバムになりました。過去にこれだけのアルバムはなかったし、これ以降もこれを越えるアルバムは創られていません。大丈夫、あたしは言い切っちゃいます。ええ、後悔しません(笑)。
ガウチョ / スティーリー・ダン 1980年
進藤むつみのおすすめCD (vol.40)
美しいアルバムです。洗練された甘美なサウンドは、究極と言っても良いでしょう。一流ミュージシャンを贅沢なまでに配し、寸分の隙もないサウンドを作り上げました。更に、毒を含んだ抽象的な歌詞が、陰影に富んだ奥行きを感じさせます。
しかし、傑作と誉れ高い前作 "Aja" の躍動感や、2年後に発表される Donald Fagen のソロ、"the Nightfly" のような生っぽさがないのは何故なのでしょう。曲作りやスタッフに変わりはないのに、この "Gaucho" を聴くと息苦しい感じがします。デビュー以来進めてきた録音方法の限界、理想に到達してしまったが故の閉塞感が、漂っているのでしょうか。そのあたりを考えるには、「Steely Dan はどのようなコンセプトだったのか?」から、お話しなければなりません。
ジョージア・サテライツ / ジョージア・サテライツ 1986年
進藤むつみのおすすめCD (vol.35)
あたしは現実にアメリカに行った事はないんだけど、音楽を聴いていると、その土地ごとに特色があるのが分かります。アメリカン・ロックの中でも、そうなんですよね。東海岸、西海岸、南部なんて大ざっぱな分け方はもちろん、例えば同じカリフォルニア州でも、ロサンゼルスとサン・フランシスコの音は違います。たぶん、比べるつもりはなくても、たくさん聴けば感じる事ができると思います。
さて、この Georgea Satellites は、その名の通りジョージア州アトランタ出身のバンドです。南部の匂いをたっぷり漂わせたストレートな R&R で、ぐいぐい押してくるのが魅力的です。でもね、このバンドのメンバーへのインタビューを読んだ時に思ったんです。同じジョージア州のアトランタとアセンズだったかな、そのロックの違いは何かって。その答えは・・・「アトランタのが音がでかい」そうです(笑)。単純な答に笑ってしまったあたしですけども、ホントは R&R の聴き方なんて、そんなもんでいいのかもしれません。
ホット・スペース / クイーン 1982年
進藤むつみのおすすめCD (vol.34)
それこそ、数ある Queen のアルバムから "Hot Space" を持ち出してくるだけで、あたしの趣味が疑われるのは分かっています。なにしろ彼等のアルバムの中で異色作なのはもちろん、「82年最も期待外れだったアルバム」と音楽誌で評されたくらいですから。どうしてこのアルバムは、そんな評価を受けたのでしょう。そのあたりを考えていくのに、まずは彼等のサウンドの特徴をお話してみたいと思います。
Queen は1971年に結成、73年にデビューを飾ります。当初イギリスでは受け入れられずに、日本から火がついたのは有名な話です。その頃からオペラ・ヴォイスと呼ばれた Freddie Mercury の歌声は特徴的ですが(あたしは、世界一美しい声を持つロック・ヴォーカリストだと思っています)、サウンドとしてはストレートなロックでした。意外にハードなね。少しずつサウンドを変えていく彼等ですが、最も Queen らしいアルバムといえば、75年の "a Night at the Opera" になるでしょう。
オートアメリカン / ブロンディ 1980年
進藤むつみのおすすめCD (vol.33)
Blondie は、この時代のニューヨーク・パンク出身の中で、最高の成功を収めたバンドでしょう。ただ、ポップス/ニューウェーヴへとサウンドを変換していく中、意外に低い評価を受けているような気がします。これは、ヴォーカルの Deborah Harry がセックス・シンボルとして注目され、唇に億単位の保険をかけるなどのエピソードも、軽く見られた一因に思えます。
だけど、Deborah にとって評価なんて、たいした問題ではないのかもしれません。順調に音楽キャリアを積み重ねてきたように見える彼女ですが、1968年に別のバンドで失敗した後、ウエイトレスやバニーガールをしながら、再デビューの道を探っていたそうです。ファースト・アルバムの発売時に、すでに31歳だった彼女にとって、Blondie は敗者復活戦だったんですから。
トリニティ・セッション / カウボーイ・ジャンキーズ 1988年
進藤むつみのおすすめCD (vol.23)
彼等の地元トロントの教会で、たった1本のマイクを使ってレコーディングされた、この "the Trinity Session" は、信じられない程に静かで穏やかなアルバムです。そして無駄な音を極限まで廃した、透き通った透明感のあるサウンド。彼等の音楽を「静寂か喧騒か」と問われれば、誰もが静寂と答えるでしょう。「午前3時の音楽を目指している」と評されたと聞くと、妙に納得できるくらいですから。だけど、その穏やかなサウンドの裏に潜んだ、彼等の個性や音楽に対する情熱を感じるのには、そう時間はかからないと思うんです。