Synchronicity / the Police

シンクロニシティ / ポリス 1983年
進藤むつみのおすすめCD (vol.72)

get " Synchronicity"ロック・トリオといえば CreamEmerson, Lake & Palmer から Nirvana まで、数々の名バンドを思い浮かべる事ができると思います。それぞれに特徴があって個性的。たぶん3人って縛りの中だと、お互いに個性をぶつけ合うくらいじゃないと、バンドとして成り立たないからなのかもしれません。そんな個性的な名バンドの中でも、あたしは the Police こそ最高のロック・トリオだと思っているんです。

Copland の手数の多い独特なドラムス、複雑で誰も真似しないようなギターを弾く Summers、そして Sting のハイトーン・ヴォイス。その3つがぶつかり合って・・・っていうより、もう鬩ぎあうって言った方がいいかもしれないくらい。そうやって生み出されるサウンドは、だからこそ他にない独創的なものになったのだと思うし、あたしに一番だと思わせる要因なのかもしれません。


the PoliceCurved Air のドラムスだった Stewart Copeland が、StingHenry Padovani を誘って1977年にロンドンで結成。すぐさま "Fall Out" でシングル・デビューするものの、注目される事はありませんでした。同年、Padovani と入れ替わるように再結成 Animals にもいたベテラン・ギタリストの Andy Summers が参加。密かに、ロック史に残るトリオが結成されていたのです。

78年、パンク/ニューウェーヴのムーヴメントに乗りファースト・アルバム "Outlandos d'Amour" (全米23位) を発表。大きな驚きを持って迎えられます。そして翌79年、名作 "Reggatta de Blanc" (全米25位) をリリース。あまりにも完成度の高いこのアルバムで、the Police の人気は不動のものになりました。

まったく3人とは思えない演奏。そのベースにあるのは Copland のドラムスでしょう。あまりにも手数が多い、それなのにレゲエを意識した1拍目のないリズム。そうかと思えば、スネアを打たずにバスドラとハイハットだけでリズムを刻む。スネアが入ってくればもの凄く硬い音。更に強烈グルーヴ感を持っていて、このドラムがあるからこそ the Police サウンドになるような気がします。

音に厚みを増すのは Summers のギター。どうやって考えたんだ?っていうようなアルペジオ。気合い一発のようなディストーションにも、今までにない音の重ね方があるし、エフェクトの処理も独特。これに Sting のダイナミックなベースとハイトーン・ヴォイスが重なってくるんですね。この辺りの彼らの演奏の独特さは、95年に発表された当時の音源を含む "the Police Live !" を聞くともっとよく分かるかもしれません。

デビュー当時パンクと捉えられたのは、一番には彼らがそういう売り方をしようとしたからなんだけど、普通のロックに収まりきれない『何か』があったからだとも思います。音楽関係者は the Police を普通のロックのカテゴリーには入れたくなかったんじゃないかしら?。それと、この頃の彼らはやけに尖ってるんですよね。音も演奏も。この尖り具合が、初期の彼らの特徴だとも思うんです。


しかし、徐々に彼らのサウンドは変わって行きます。80年の "Zenyatta Mondatta" (全米5位) は共に全米10位まで上がったシングル "Don't Stand So Close to Me""De Do Do Do, De Da Da Da" に代表されるように、ポップさを押し進めています。これはツアーの合間に録音したため、細かい所を詰められなかったとも言われてるんだけど、あたしは Sting がもう一歩リーダーシップをとり始めたからだと思うんですね。

特に "When the World Is Running Down, You Make the Best of What's Still Around" の淡々とした演奏にそう思う。おそらくこの曲は、ライヴを意識して作った曲なんだと思います。だけど、Sting の頭の中には Copland のグルーヴでないサウンドがあったような気がするんです。自分の目指す先にあるサウンドが。

同じ年に CoplandKlark Kent 名義でソロ・アルバムを発表してるんだけど、これは Copland の作った曲を Sting が歌うのを拒否して、その浮いた曲を自分で録音したとも言われています。セカンド・アルバムだと StingCopland の作った曲って同じくらいの数があったのに、だんだんと Sting 主導の音作りになっていった。もちろんこの時期の Sting の成長は著しいんですけどね。

81年の "Ghost in the Machine" (全米2位) では、共同プロデューサーに名人 Hugh Padgham を迎え、更にその傾向が進んで行きます。音は確かに厚く、そして深くなっていく。3人の演奏の巧みさも極みまで高まってくる。だけど、同時に the Police の特徴だった刺がだんだん落ちてくるんです。完成度の高さと引き換えに、彼らは丸くなって行ったような気がします

そのもう一歩先にあるのが、今回ご紹介する "Synchronicity" だと思うんです。


"Synchronicity"。全米1位まで上がったこのアルバムは、前半と後半に分けて考える必要があるでしょう。まったく音が違いますから。前半は "Synchronicity I" から "Synchronicity II" に囲まれたLPだとA面に当たる6曲、後半は "Every Breath You Take" 以降のLPのB面に当たる4曲です。

前半は "Synchronicity I" の強烈な疾走感から始まります。スピード感とそれにつれて高まる緊張から、ぐいぐいと彼らの世界へと引き込まれていく。Summers 作のアバンギャルドな "Mother"、エスニックさが彼らしい Copland 作の "Miss Gradenko" などを挟んで、少しだけ落ち着いて歌う "Synchronicity II" (全米16位) までのサウンドは、まさに "Zenyatta Mondatta" 以降の彼らのサウンドの延長線上にあるものと思います。うん、良いアルバムだ。よく出来ている。しかも『らしさ』で言えば、前半部の方が圧倒的に the Police らしいと思う。

だけど、このアルバムの価値を高めてるのは、"Every Breath You Take" 以降の後半部分なんですね。


彼等最大のヒットになる "Every Breath You Take" (全米1位) は、一瞬オープンチューニングかと思えるギターのアルペジオから始まります。透明感のあるサウンド。ギター・ベース・ドラムスの3つの音しかしてないから向こう側が透けて見えるかと言えば、そうじゃない。最低限の音しか鳴っていないのに、ギッシリと密度の濃い空気がそこにあるんです。

途中からストリングスが入って、そしてピアノが入ってくる。だけど、やっぱり最低限の音だけで最後まで進んで行く。しかも淡々と。全ての楽器を耳コピーできるほどに少ない音なのに、サウンドとしては薄くない。そして、何回聴いても色あせないほどのメロディーが美しい。これが、更に一歩先に行った新しい the Police なんだと思います。

まあ、歌詞は美しくないみたいですけどね。『あなたの吐く息のすべてを、仕草を、裏切りも、歩みのすべても・・・見つめていたい』。あたしは最初に聴いた時、愛の束縛や嫉妬を詠った歌だとは思わなかったわよ。ストーカー・ソングとも言われてるけど、そこまではどうかな?と思うんですけどね。


ピアノとマリンバとフレットレス・ベースで浮遊感のあるイントロの "King of Pain" (全米17位)。コーラス部のギターのバッキングや音の重ね方、その後のブレイクで思い切って音を減らす辺りなんかは、『ああ、the Police だな』と思う。だけど、決して明るくはないこの曲が、凄くキャッチーなんですね。

蝋燭を並べたPVが印象的だった "Wrapped Around Your Finger" (全米7位) もそう。派手な曲じゃないですよね。明るくもない。それなのにやっぱりキャッチー。これらの曲がこれだけのセールスを記録してしまうのは、演奏以上に Sting の曲作りが上手くなったからだと思うんです。

そして静かな "Tea in the Sahara" で幕を下ろすまでの後半部、まったく無駄な音がないんだけど、変な言い方をすれば淡々と過ぎて行く。ただ、それは変な気合いや肩の力が入った部分がないからかもしれません。自然体でいて、それでもある存在感。やはり、この4曲があるからの "Synchronicity" だと思うし、ロック史に残る傑作になるんだと思うんです。


だけど・・・、その存在感は the Police としてのものじゃないような気がします。ソロ・ミュージシャン Sting としてのものかなと。だって、鬩ぎあうようなぶつかり合いは、もうありませんもの。徐々に Sting が主導するようになってきていても、それでも前作はやっぱりバンドとしてのサウンドだったんですね。それが、このアルバムの後半部では完全に Sting がリードしてしまった。

それは CoplandSummers の二人が一番感じた事でしょう。Copland には自分こそが the Police だという自負があったと思う。Summers は技術や知識は自分が一番のつもりだったと思う。実際、Sting だけがデビュー前のキャリアがないんですね。二人は Sting の才能を認めながらも、これほどの天才だったとは思わなかったのだと思います。

最高傑作となるアルバムをリリースしながらも、実はバンドとしての一体感はなくなっていた・・・。翌84年、the Police はその活動を停止する事になりました。


直ぐに、それぞれがソロ活動に入ります。

Sting はデビュー前に目指していたジャズ/ロックを再現するように、Branford MarsalisDarryl Jones ら一流のジャズ・ミュージシャンをバックに、ソロ・アルバム "the Dream of the Blue Turtles" (全米2位) を発表します。非常に完成度の高いアルバムで、翌年には同じメンバーで録音された2枚組ライヴ "Bring on the Night" もリリース。

このライヴで前述の "When the World Is Running Down, You Make the Best of What's Still Around" を演奏してるんだけど、もう強烈なファンクなんですよね。『そうか、彼はこういう音をやりたかったんだな』とあたしは思ったんです。the Police の活動の後半は、バンドの中の一員でありながら、頭の中ではこういう音を思っていたんだなって。

Sting はその後またジャズからも離れながら、安定した活動をして行きます。Copland は最初はソロ・アルバムを出しながら、その後次第に映画音楽の世界に移り、非常に高い評価を受ける事になります。Summers は実験的なサウンドながら、毎年のようにアルバムを発表していきます。


再び3人が集まったのは、86年のベスト・アルバム "Every Breath You Take: the Singles" で新録音した "Don't Stand So Close to Me '86" の時と、2003年に the Rock and Roll Hall of Fame 入りした時の3曲のライヴだけ。そりゃそうだよなとあたしは思った。Sting と他の二人の仲の悪さは有名ですもの。このまま決して再結成する事なく、別の道を歩んでいくんだろうなと確信していました。

・・・確信してたんですけどね。まさか再結成してワールド・ツアーまでするとは思わなかった。変な話、あたしにとって絶対に再結成して欲しくないバンドの一つだったんですよね。だけど、ビデオを見てみると巧いんだよなあ。なんとも複雑な気持ちでいるあたしなのでした。

Synchronicity
1. Synchronicity I / 2. Walking in Your Footsteps / 3. O My God / 4. Mother / 5. Miss Gradenko / 6. Synchronicity II / 7. Every Breath You Take (見つめていたい) / 8. King of Pain / 9. Wrapped Around Your Finger / 10. Tea in the Sahara (サハラ砂漠でお茶を)
produced by Hugh Padgham & the Police / recorded at AIR Studios, Montserrat & Le studio, Quebec, Canada
the Police (web site: http://www.thepolice.com/
Sting, Andy Summers & Stewart Copeland
Sting (web site: http://www.sting.com/
born Gordon Matthew Thomas Sumner on October 2, 1951 in Wallsend, UK

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posted by 進藤むつみ on Summer, 2008 in 音楽, 1980年代, ロック

comments (8)

おお!
むつみさん、直球ではありませんか。

「Synchronicity」を出して、あまりに完成されているのでこれ以上のアルバムは出せないとStingは思い解散しちゃった……んだっけかなあ(記憶いいかげん)。

「Carved Air」をよく聴いていて、このバンドのドラムが「THE POLICE」のメンバーだったというところから聴き始めたと思います。

すんばらしいアルバムですね。
ROCKの黄金糖だ!
ん……金字塔ってゆーのですか。

ビデオクリップもいいですね。
今でもときどき観てます。
Sony Music TVでやってたのを録画(VHS→Hi8→HDD)とダビングを重ねて現在まで生存。

とはいいながら、恥ずかしながらCD持ってないんですよぉ。
LPもない。
どーしちゃったんだろ。
さっそくアマゾンの源流へ探検しにいきましょう!

>osaさん♪
最後の1枚がこれだけの完成度を見せたのは、個人的にはSteely Danの"Gaucho"か"Synchronicity"かって気がしています。確かにロック・トリオthe Policeとしては、これ以上する事はなくなっちゃったかもしれませんよね。
あたしが聴いたのは"Zenyatta Mondatta"からでした。ちょうど来日して騒がれていたんですね。"De Do Do Do, De Da Da Da"の日本語バージョンがダサいって話題になって、だけどダサかったのはそれだけで、一生懸命聴き出したら"Synchronicity"がリリースされて、もう衝撃的でした。ビデオは・・・ベストヒットUSAかな?。蝋燭が一番印象的だったんだけど、当時うちにはビデオがなかったもので、最近になってYouTubeで探して見直したのでした
Curved Airは、実はあたし聴いた事ないんですよね。Coplandがいた頃はポップになってたって話なんだけど、やっぱり聴いた方がいいですか?。

Curved Airはライブ版がお奨めでございますよ。
鳥肌モンであす。
ぜしぜし。

>osaさん♪
ライヴですね?、覚えておきます・・・すぐには買えないもので(汗)。
鳥肌ものかあ・・・、どんな感じなんでしょうね。楽しみです♪。

EveryBreathYouTakeについて
> ストーカー・ソングとも
言ってる人は詞だけ読んでメロディ聴かないんでしょう。要するにゴシップ好きでお喋りばかりして歌に耳を傾けないからそういう曲解ができるんです。メロディ聴いてそういう解釈できる人がいたら人間性を疑うレベルです。

>徐さん、レス遅れてすみません。
ホントに裏のある詩を書く気なら(ストーカー)、美しいメロディーの曲の方が、そして美しいアレンジの曲の方が効果があると思うんです。まさか!・・・ってトコに落とし穴があったら引っかかる。
まあ、この歌は違うと思いますけども。

徐さんのコメントは違うようです。
スティング本人がストーカーっぽい歌だと言っているし、
アンサーソングとして、
ソロで"If You Love Somebody Set Them Free"を書いた
とまで言っていますよ。

>すちんぐさん、はじめまして♪ レス遅れてすみません。
“if You Love Somebody Set Them Free”って、そういう曲だったんですか!。知らなかった。メモメモ。改めて詩を読むとなるほど・・・ってところがありますね。

『あなたの吐く息のすべてを、仕草を、裏切りも、歩みのすべても見つめていたい』
本文でも書いてるけど、愛の束縛や嫉妬を謳ったといえば、なるほどと思う。でも、愛の情熱や狂おしいほどの想いを謳ったと言っても、そう感じられると思います。表裏一体って言えるかな。愛するって単純な事じゃない。Sting がストーカーっぽいって言ってても、その面だけで語るのも危険なような気がするんです。

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