Freeze-Frame / the J. Geils Band
フリーズ・フレイム / J. ガイルズ・バンド 1981年
進藤むつみのおすすめCD (vol.76)
(the J. Geils Band / the J. Geils Band から続く)
大きな期待を受けながら、迷宮に迷い込んだ the J. Geils Band は、心機一転EMIアメリカに移籍し、Boz Scaggs の "Silk Degrees" などを手がけた事で知られる Joe Wissert のプロデュースで "Sanctuary" を発表します。
ここで大きく変わったかといえば、実はそうでもない。ゆったりと余裕を持って演奏しているように聴こえるのは、ライヴとスタジオの違いを今まで以上に意識しただけでしょう。ギター・サウンドをベースにしたR&B色の強いロックン・ロールというのも変わらない。だけど Wissert のプロデュースに触れられたのが大きい。久々にゴールド・ディスクを獲得 (全米49位) した以上に、彼等の手応えは大きかったんだと思います。
翌80年、その経験を生かして、今度はメンバーの Seth Justman のプロデュースで "Love Stinks" (全米18位) をリリース。派手なギターがベースなのは変わらなくても、シンセサイザーが前面に出ることが多くなり、サウンドの印象は大きく変わりました。これが、古くからのファンの反発を呼び、『売るために超えてはいけなりラインを超えてしまった』と言われることになります。
しかし、そのサウンドを押し進めて発表されたのが、この "Freeze-Frame" でした。後述する "Centerfold" のヒットもあり、全米No.1を記録しました。
オープニング曲の "Freeze-Frame" (全米4位) のイントロのシンセサイザーの音色・・・、これがこのアルバムの印象を決定付けました。もう、誰が聴いても Justman としか言いようのない音。確かにキーボードが前面に出てるアルバムだけど、実はこの曲の印象ほどじゃないんですよね。この曲も the J. Geils Band としては、ゲストのブラスセクションが派手に鳴っている事の方が珍しい。それを、わずか数小節でない物にしてしまうほどの音っていうのは、あまりないような気がします。
そして "Centerfold" のイントロ・・・。音楽に興味ない人でも、間違いなくこのイントロは聴いた事があるでしょう。そして軽薄な歌詞とミュージックビデオの影響もあって、6週連続全米No.1 と大ヒットしました。だけど、曲自体は軽薄じゃない。ギターがサウンドの要にあって、更にはドゥー=ワップ風のコーラスが入ったり、結構硬派なんじゃないかと思います。サビで『ナナナ』と初めて歌うのも2コーラス終わるまで溜めてたりして、なかなか考えられてるなと思うんです。
ニューウェイヴな2曲も紹介しましょうか。"Insane, Insane Again" は強烈なビート志向。"Centerfold" が時代を作った曲だとすれば、これは時代に合わせた曲という気がします。だけど、これだけのベテランになっても、新しい事に挑戦する姿勢は素晴らしい。"Flamethrower" はいかにも the J. Geils Band 風のファンク。ずっとハードに攻めていくのかと思わせておいて、さらっと躱していくのが面白い。
バラードな Angel in Blue (全米40位) は ゲストのコーラスやブラス・セクションをバックに Wolf がソウルフルな歌を聴かせます。良いなあ。この人、声質は軽いと思うけどスゴく上手いんですよね。心の琴線に触れるような歌を、美しいメロディーに乗せて歌い上げます。シンプルながら、このアルバムのベスト・テイクはこれだと思います。
全9曲中5曲が Justman の単独作(今まではほとんどの曲が Wolf/Justman 名義だった)のせいか、Wolf がちょっと乗ってない気もするけれど、さすがに良くできている、名作だと思います。全米 No.1 でプラチナ・ディスク。大きな期待を浴びながら10年超、ようやくたどり着いた大成功と言っていいでしょう。ただ・・・古くからのファンの『売るために魂を売った』という批判はどうでしょうか?。
83年に発売されたライヴ・アルバム "Showtime" (23位) を聞けば、その評価が間違いだという事がよくわかります。だって、"Sanctuary" の強烈なスピード感、"Love Stinks" のタフなロックっぽさ、そして "Centerfold" のノリと格好良さ。超えてはいけないラインを超えてしまったり、魂を売ってしまったバンドには、こんな音楽ができるわけがない。彼等はただ、スタジオ録音とライヴとの違いを強調しただけなんだと思います。だから、多くのファンはこの勢いで全盛期が続くと思っていました。
ところが、その矢先になんと Peter Wolf がバンドを脱退します。『首になった』『彼が辞めていった』とそれぞれの話が違う。だけど、どうもバンド側が Peter を切ったのが実情のようです。『レコーディングやステージに何度も穴を開けた』『俺たちはやっと Peter 抜きでできるようになったんだ』という話も聞きました。もしかしたら "Freeze-Frame" で曲作りから Peter を外したのも、その伏線だったのかもしれません。
1984年、Peter Wolf はソロ・アルバム "Lights Out" を発表。これがイマイチ彼の魅力を表せていない。実際、全米24位という割に枚数は売れなかったようです。追うように the J. Geils Band も Seth Justman と Stephen Bladd をヴォーカルに立てて "You're Gettin' Even While I'm Gettin' Odd" をリリース。これが全米80位と大失速。そうだよなあ、ラジオで流れててもこのアルバムを買おうとは思わないよなあ。映画 <Fright Night> のテーマ曲 "Fright Night" を最後に the J. Geils Band の活動は幕を下ろしたのでした。
その後、Wolf は数年に1枚のペースでアルバムをリリースするものの、大きく注目されることはありませんでした。Justman は Blondie の Debbie Harry のソロ作をプロデュースしたくらい。J. Geils と Magic Dick は一緒にブルース・アルバムを発表しただけで、ただ時間が流れていきます。ようやく15年後の1999年から、バンドは再結成してライヴを行います。メンバーは全員参加したりしなかったり。
もったいないよなあ、まさに失われた15年。全盛期であるべき15年間は戻ってこない。もし "Freeze-Frame" があれほど売れなければ、バンドは続いていたのかも ・・・と思ったり、やっぱり一度 Peter とバンドは離れる必要はあったかも・・・と思ってみたり、あたしの中は今でもスッキリしていなかったりするんです。
- Freeze-Frame
- 1. Freeze-Frame / 2. Rage in the Cage (閉ざされた怒り) / 3. Centerfold (堕ちた天使) / 4. Do You Remember When (去って行く女) / 5. Insane, Insane Again (狂気の季節) / 6. Flamethrower (炎の女) / 7. River Blindness / 8. Angel in Blue (悲しみのエンジェル) / 9. Piss on the Wall
- produced by Seth Justman / recorded at Long View Farm, North Brookfield, MA
- the J. Geils Band
- Peter Wolf, Seth Justman, Magic Dick, J. Geils, Danny Klein & Stephen Bladd
- Peter Wolf
- born Peter Blankfield on March 7, 1946 in the Bronx, New York.
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