a Long Vacation / Eiichi Ohtaki
ロング・バケイション / 大滝詠一 1981年
進藤むつみのおすすめCD (vol.46)
このアルバムの魅力を一言で言うならば、歌手 大滝詠一 を最大限に生かしたサウンドだと思います。もちろん素晴らしい曲が並んでいます。どの曲のメロディーも詩も、ウォール・オブ・サウンドをはじめとして、フォーク調、またはロックン・ロールなど様々なアレンジも、全てが文句の付け所のないほど優れています。
だけど、これってプロデューサー 大滝詠一 が、歌手の 大滝詠一 を生かすための曲を書いて、その世界を広げるために 松本隆 を作詞家に起用して、そして曲によっての演奏も、やはり歌を生かすためのものだったと思うんですよね。過去に色んなタイプのアルバムを発表してきた人だけど、ここまで自身のヴォーカル・アルバムに拘ったのは初めてだったような気がします。
そしてもうひとつ、集大成のアルバムだったと思います。彼自身の音楽活動の集大成、そしてアナログ・レコーディングの集大成。そうして完成したこの "ロング・バケイション" は、日本のポピュラー音楽史上、最高傑作のアルバムになりました。過去にこれだけのアルバムはなかったし、これ以降もこれを越えるアルバムは創られていません。大丈夫、あたしは言い切っちゃいます。ええ、後悔しません(笑)。
大滝詠一 の音楽活動は、1969年の はっぴいえんど から始まります。大滝詠一、細野春臣、松本隆、鈴木滋。この4人が織りなすサウンドは、当時の日本では馴染みのない海外のアーティストの良さを取り入れ、現在の日本ロックの基を作った伝説のバンドといっても良いと思います。特に "風街ろまん" (71年) は必聴の名盤と言えるでしょう。
73年にバンドを解散した後は、自身でナイアガラ・レーベルを設立。ソロ作品だけでなく、シュガー・ベイブ などの作品も発表していきます。しかし、レコード会社の倒産から所属バンドの解散などがあり、彼は数年間にわたり契約を消化するための作品作りに追われる事になりました。その中でも 吉田美奈子 に "夢で逢えたら" を提供するなど、魅力的な活動をしていたように見えますが、実際はソロ活動どころではなく、レーベル経営に追われていたそうです。
契約を消化して自由になった 大滝詠一 は、しばらくは充電期間をとりました。そして、桁外れの約1年のレコーディング期間をとって作られたアルバムが、この "ロング・バケイション" なのです。
どの曲をとっても、誰でも一度は聴いた事があるのではないでしょうか。今聴いても古びない魅力的なメロディーと、心の中に風景を思い浮かべさせる詩。そして、アメリカン・ポップスを、完全に自分のものとして消化したサウンド。演奏のバランスや、サウンドの中心にある独特なヴォーカル。何ひとつ無駄なものはありません。
このアルバムの特徴のひとつである、ウォール・オブ・サウンドを堪能できる "君は天然色" は、またこのアルバムを代表する作品のひとつです。何人ものプレイヤーに一斉に同じプレイをさせて、人海戦術で厚い音の壁を作るのは Phil Spector 直系のテクニック。大滝詠一 は、そんな録音方法を得意とするプロデューサーでした。
だけど、その大袈裟なサウンドが目的ではないんですよね。サウンドに乗ったヴォーカル、『色をつけてくれ』と歌う歌詞。たぶん、これが目的なんですよ。そして、それは見事に成功しています。タイトルどおりに、カラフルなサウンドが広がっているんです。
ちなみにオープニングのチューニング風景は、極端に広い空間の中にあるけれど、イントロが始まった途端、真ん中に集まっちゃうんですよね。これって、きっとモノラルへの拘り(実際はステレオ)なんだろうけど、洒落としてとても素敵です。
さて、もう一曲ウォール・オブ・サウンドの代表的な曲をあげれば、やはり "恋するカレン" になるでしょう。この曲、イントロからスゴイです。ピアノのリフと、ギターのストローク。スゴクいい感じなんですよね。そしてヴォーカルが入った途端に、描いている世界がバ〜ッ!っと広がるような気がするんです。
歌詞の力のような気もするし、アレンジを含めた演奏の力のような気もするけど、結局は全てを合わせた総合力なんでしょうね。1曲目の "君は天然色" が最初から最後まで厚い音で迫ってくるのに比べて、この曲はコーラス部分の分厚さが、他の抑えめな部分との対比で、かえって壮大なスケールに感じると思うんです。
さて、ウォール・オブ・サウンドばかりが、このアルバムの魅力ではありません。
フォーク調でしっとりと歌い上げる "雨のウェンズディ" や "スピーチ・バルーン" 、ロックン・ロール魂が前面に出た "我が心のピンボール"、洒落やユーモア満載で楽しい "Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語" や、the Beach Boys へのリスペクト "FUN×4" など、バラエティ豊かな曲が並びます。ただ、簡単にこれだけでは説明できないんですよね。どれも一捻り、二捻りしています。ちなみにあたし的には、"雨のウェンズディ" のような胸に迫るような切なさが No.1 かしら。
アルバムの最後を閉めるのが、前年に 太田裕美 がシングルで歌った "さらばシベリア鉄道" です。名曲・・・なんだけど、この曲だけ色合いが違うんですよね。今までの9曲で描いてきた世界を、塗り替えてしまうほどの力があります。再発されたCDのによっては、この曲が収録されてないものもあるので、どういう扱いだったのか気になるトコロです。
なにしろ名曲揃い。細かく取り上げたら、それぞれで1エントリーになりそうなくらい。きっと好きな曲も、聴く人によってバラバラに分かれそうですね。ただ、誰もがアルバムを通して聴いた時に、カラフルな色を感じるアルバムだと思います。
そして集大成。大滝詠一 のそれまでの音楽活動は、日本のポップス史の歴史でもあります。自身の音楽活動をまとめる事で、日本のポップスの総まとめになったような気がするんです。そして、アメリカン・ポップスへの拘りを感じる彼の音楽趣味なのに、戦後歌謡曲の総まとめみたいに聞こえる感じがするんです。もう一度言っちゃいます。日本のポピュラー音楽史上、最高傑作のアルバムが、この "ロング・バケイション" です。
・・・と、もうひとつ。ちょうど時代だったわけなんだけど、アナログ・レコーディングの集大成だったとも思います。ただ、このアルバムは翌82年に、日本のCDの第1号になるんですよね。アナログの終焉と、デジタルの旅立ち。ホントに時代を越える名作と言えるでしょう。・・・だけど、聴くなら2001年のマスタリング盤(20th Anniversary Edition)ね、絶対に(笑)。もう音の膨らみが全然違いますから♪。
[ 大滝詠一、大瀧詠一、笛吹銅次などを区別せず、全て大滝詠一で記述しています。]
[追記: 2013年12月30日、大滝詠一さんはお亡くなりになりました。ご冥福をお祈り致します。]
- a Long Vacation
- 1. 君は天然色 / 2. Velvet Motel / 3. カナリア諸島にて / 4. Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語 / 5. 我が心のピンボール / 6. 雨のウェンズデイ / 7. スピーチ・バルーン / 8. 恋するカレン / 9. FUN×4 / 10. さらばシベリア鉄道
- produced by Eiichi Ohtaki / recorded at CBS/Sony, Roppongi & Shinanomachi, Tokyo.
- Eiichi Ohtaki
- born on July 28, 1948 in Iwate, Japan; died on Dec. 30, 2013 (age 65).
初めまして。同じアルバム繋がりでTBさせて頂きました。
私も日本の音楽史上、最高傑作だと思います。
これからの季節、また聞きたくなりますよね!
今後ともよろしくお願いします。
>Musicmanさん
やっぱり最高傑作ですよね。これからの季節といえば、このアルバムがチャート2位まで上がるのに5ヶ月かかって、2位になったのが8月ということを考えると、ホントに夏のアルバムだったんだなと思うんです。