Hot Space / Queen

ホット・スペース / クイーン 1982年
進藤むつみのおすすめCD (vol.34)

get "Hot Space"それこそ、数ある Queen のアルバムから "Hot Space" を持ち出してくるだけで、あたしの趣味が疑われるのは分かっています。なにしろ彼等のアルバムの中で異色作なのはもちろん、「82年最も期待外れだったアルバム」と音楽誌で評されたくらいですから。どうしてこのアルバムは、そんな評価を受けたのでしょう。そのあたりを考えていくのに、まずは彼等のサウンドの特徴をお話してみたいと思います。


Queen は1971年に結成、73年にデビューを飾ります。当初イギリスでは受け入れられずに、日本から火がついたのは有名な話です。その頃からオペラ・ヴォイスと呼ばれた Freddie Mercury の歌声は特徴的ですが(あたしは、世界一美しい声を持つロック・ヴォーカリストだと思っています)、サウンドとしてはストレートなロックでした。意外にハードなね。少しずつサウンドを変えていく彼等ですが、最も Queen らしいアルバムといえば、75年の "a Night at the Opera" になるでしょう。

大ヒットした収録曲 "Bohemian Rhapsody" に象徴されるように、ドラマティックに次々に新しい顔を見せるサウンド。いい意味でファンの期待を裏切るように、先の読めない曲の展開。これこそが Queen サウンドの特徴だと、あたしは思います。そして、それはひとつの曲の中だけの話ではありません。バラエティーに富み、先の読めない展開は、アルバムを通して聴いた時にも同じ事を感じるでしょう。ただ、それでも不自然さを感じないあたりが、別の意味で彼等の特徴なのでしょう。

そして、もうひとつお話しておきたいのは、彼等は同じタイプのアルバムを作ってこなかったということです。先の読めない展開・・・・って、まるで曲の特徴そのものですが、常に彼等のサウンドは変化してきました。だけど、決して突然変異はないんですよね。例えば、アメリカでの最高の成功を収めた "the Game"。その中の "Another One Bites the Dust" にしても、前作でそういうサウンドの気配を感じるんですよね。だからこそ「初めてシンセを使った」とクレジットされたり、ブラック・チャート!を駆け上がっても、ファンはついていけたのだと思います。


しかし、そんなファンさえも戸惑わせたのが、この "Hot Space" でした。

Brian May が「きちんとファンクをやっておきたかった」と言ったとおり、このアルバムはファンクです。見事なほどのダンスミュージックです。ダンスミュージックはリズムが命。そこが、ドラマティックに展開する彼等のサウンドの特徴と相反して、ファンは戸惑ったのでしょう。極端な言い方をしてしまえば、変化がなく淡々と続くリズムに聴こえますから。

だけど、本当にそれだけのアルバムでしょうか?。じっくりと聴いてみましょう。

1曲目の "Staying Power"。印象的なベースから始まり、ブラスセクションが入ったトコロで、当時のファンは腰を抜かしたそうです。このアルバムのサウンドを代表する、ダンス・チューンです。だけど、ここであたしが言いたいのは、これだけ途切れることのないリズム、これって彼等にしたら制限ですよね。あたしはこの制限の中で、よくこれほどの変化をつけられたと思うんですよ。思わず踊りたくなるような曲、それをじっと聴いていても飽きないんですよね。相当に錬られています。

先行シングルになった、"Body Language" も同じです。あたしは、粘るようにジト〜っとへばりついてくる、こんなサウンドが好き♪。そしてこの2曲共、Freddie の曲というのがスゴイですね。彼の音楽センスに脱帽です。

結局思うのは、Queen でなければ、もっと評価されたアルバムだったのでしょう。曲のクオリティも、他のアルバムに引けを取りません。いえ、逆に捨て曲がないような気がします。ぜひ Queen という先入観を捨てて、もう一度このアルバムを聴いてもらいたいと思います。まあ、ファンクがダメな人には無理ですけどね。

ただ、ファンクなのは前半だけで、後半は彼等らしい曲が続きます。ハードな "Put Out the Fire"、サブタイトルどおり Lennon 風な "Life Is Real"、しっとり歌い上げる "Las Palabras de Amor"David Bowie との競演 "under Pressure"。バラエティに富んだサウンドは、まさに Queen のもの。前半のイメージが強すぎるのかもしれないですね。あたしの一押しの "Cool Cat" のような曲もありますけどね。


この "Hot Space" は、評価はもちろんセールスとしても散々のアルバムでした。次作の "the Works" からのサウンドは、先祖帰りしていきます。このアルバムの発展形がないのが、あたしとしてはホントに残念です。

そして91年、Freddie の他界により Queen はその歴史に幕を降ろし・・・ません。95年、彼が残したヴォーカル・トラックに、残された3人の演奏をダビングした "Made in Heaven" が発表されました。最後まで、ドラマティックで先の読めない展開。このアルバムによって、本当にその歴史に幕を降ろしました。

・・・いえ、まだ降りませんでした(笑)。まさかの再結成ですね。ヴォーカルに元 Free, Bad CompanyPaul Rodgers を迎えて、来月から再結成ツアーですか?。正式には Queen + Paul Rodgers のようですが。どうなんでしょう。Rodgers は好きなんだけど・・・。うーん、このくらいタイプが違う方が、焼き直しにならなくて面白いのかもしれないなあ。

Hot Space
1. Staying Power / 2. Dancer / 3. Back Chat / 4. Body Language / 5. Action This Day / 6. Put Out the Fire / 7. Life Is Real (Song for Lennon) / 8. Calling All Girls / 9. Las Palabras de Amor (the Words of Love) / 10. Cool Cat / 11. under Pressure
produced by Queen & Mack (1-10), Queen & David Bowie (11) / recorded at Mountain Studios, Montreux, Switzerland & Musicland Studios, Munich, Germany
Queen (web site: http://queenonline.com/
Freddie Mercury, Roger Taylor, John Deacon & Brian May
Freddie Mercury
born Frederick Bulsara on September 5, 1946 in Zanzibar, Tanzania; died of AIDS on November 24, 1991 (age 45).

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posted by 進藤むつみ on Winter, 2005 in 音楽, 1980年代, ロック

comments (15)

  ほぉ~☆  ファンクですか。  ダンスミュージックはよく知らないですが興味あります。  クイーンですからね。  探してみよう♪  や、でもHIP-HOPははっきり言ってキライだし・・・(汗)  プライマルスクリームで挫けたばかりなんですよねぇ~。  でも、フレディだし。  やっぱ、トライですね、これは。  あ、先入観か、これ。  ま、ハジケるのは好きですから、クイーンもしっとりしてるから好きってわけでも無いんですよね。  バラードは好きだけど、バラードはロックではないと思っている人ですから。  訳判らない?  ま、どちらにしても探してみよう♪  聴かなきゃわからないもんね。

>usagi3さん♪
えー、はっきりと問題作です。少なくてもロックではありません。ヴォーカルが入らなければ、前半は誰が演奏してるか分からないでしょう。時代が変わると評価される事ってありますが、このアルバムは今だに再評価される気配もありません。
・・・でも、好きなんですよね(笑)。ぜひ、お試しあれ♪。
たぶんあたしって、Queen らしいオペラチックな音の方がダメなんだと思います。このアルバムじゃなくても "Jazz" とか "the Game" とか、そうでなければ初期のハードな音のが良いんだよなあ。
それとですね、Primal Scream は、ちょっと特殊なバンドだと思います。アルバムごとにスタイルをガラッと変えちゃうんですよね。いえ、Queen をはじめ、どのバンドもそんなトコがありますよ。だけど全く違うバンドに思えるくらい変わると、なんだろう?と思います。・・・でもね、"Give Out but Don't Give Up" は、いつか紹介したいほど好き♪。だけど、うーん、usagi3さんの好みじゃなさそうだなあ。
えっ、訳判らない?。また、おいおいお話しましょうか♪。

毎回あなたの筆力には感心します。
ほんと丁寧ですね。
元気になられましたか?
好きなことを好きなようにやれるときが一番幸せで、雨も降れば晴れもするので、のんびりとやってください。

まあ人それぞれだとは思うけれども、この再結成ってどうなんでしょうね??
グループでも個人でも、ミュージシャンって、「瞬間芸術」だと私は思っていて、だからこそ素晴らしいし、だからこそ残酷だとも思うんですが。
ロッキン・オンの最新号もQueenの特集号で、マジ復活ブームですね~。
このアルバムって、Queenファンの間であまり評価されてないようだけれど、それってファンクのゴリゴリとQueenの持つ華やかなイメージと背離しているせいかしら?と思っていました。でも、むつみさんの言う通り、一度Queenっての置いといて聞いてみると、とてもいいアルバムだと思います。
Freddieの顔が腫れ上がった亡くなる何日か前の写真を見た時、Queenは終わったな~と思った・・・懐かしい話になってしまいましたね~。

>osaさん♪
いえいえ、うんちくばかりで恥ずかしいです。もう少しさらっと紹介できればいいんだけど、書きはじめると止まらなくなっちゃうんですよね。うーん、あと一割はダイエットしなきゃダメかしら?。
えー、元気ですね(笑)。ホントにおかげさまです。好きなことを書くことで、バランスを取らせてもらってるような気がします。このまましばらく、のんびりとやらせてもらいたいと思います。
と、Neil Young ですよね。もちろん忘れてはいないのですが、ムズカシイ・・・。

>kazooさん♪
このアルバムって評価されてないどころか、ファンの間ではほとんど鬼っ子あつかいですよね。まだ "Flash Gordon" のサントラの方が、受け入れられてるんじゃないかしら。いいアルバムだと思うんですけどね。
それと、あたし個人としては、どのバンドも再結成後の活動は数にいれていません。良い内容のものや、必然性が感じられるのもありますけどね。
ただ、今回の再結成がとやかく言われるのは、ファンにとって Queen = Freddie Mercury だったからだと思います。彼じゃなきゃダメなんです。しかも、病気を発表した直後の死でしたから。あたしも、あの時に Queen は終わったと思うんです。
だけど Queen って、すごくバンド形式にこだわってきた人たちなんですよね。それを考えれば、まあ「アリ」かと、救いの手を出してみたりして・・・(笑)。

初めまして☆お邪魔いたします。
昨日私もこの<Hot Space>を取り上げたのでTBさせていただきました、ご了承下さい。

取り上げたと言っても、クイーンメインではなく(クイーンは愛しています)、D・ボウイメインの話なのですが・・・

私もこのアルバム大好きですよ♪
まぁクイーンのアルバム(曲)は全部好きですけどね(節操がないでしょうか、笑)

クイーンを知ったのが今から20年ほど前・・・10年ほど遅すぎましたね、生まれるのが(泣)
これだけは悔やんでも悔やみきれません・・・あはは

>ココさん♪
休暇(療養?)中の Bowieが、同じ町でレコーディングしていた Queen を訪ねた事から生まれた曲といいますから、ホントに偶然の神様に感謝です。息継ぎは・・・あたしには理解できませんでしたけど(笑)。
10年遅い分を取り戻すくらい真剣に聴いたなら、仕方ないんじゃないでしょうか。逆に当時どっぶり浸かった年代の方が、その後のロックをちゃんと聴いてないのが、あたしは残念に思います。

JL&Cでブラウズしていて辿り着いた通りすがりの者です。

当時音楽とギターが生活の大半をしめていたロック少年でした。
ロックファンからの評判は良くありませんでしたが、良く出来たポップなアルバムだと思いますし私も好きです(そう言えばジャケットの評判も悪かったですよね)

まあQueen的なサウンド(特にロック寄り)を期待したファンには不評でしたが、私はJazzの冒頭(イヴラヒ〜バイスクル)でQueenにハマったんで当時も結構許容出来ました。

Queenを知らない人に奨めるかって言われると?(GameかOperaかな?)ですが、これ以降のアルバムよりは好きです。
(初めて見た洋楽アーティストのライヴが、Hot Space発売後の西武球場でのQueenなのは良い思い出です)

>hさん、はじめまして♪ レス遅れてすみません。
あたしは “Killer Queen” 以来 Queen を聴いてきたんで、”the Game” でとりあえず顎が外れて、“Hot Space” で椅子から転げ落ちました。だけど、聴き込むうちに良さが分かってくる。良いアルバムだよなあ・・・と今でも思います。ただ、確かにホントに Queen を知らない人に Queen らしいアルバムっていうと、Opera・・・だろうなあ。個人的にはセカンドも捨てがたいですけども。
西武球場のライブ・・・ってのは良いなあ。面白そう。ライブはその場の空気を吸った人にしか分からないものだから、貴重な宝物的な体験だろうと思います。

>音楽とギターが生活の大半をしめていたロック少年
・・・今はどうなんでしょうか?。ギターを片隅に抱えたロック中年になられたんでしょうか?w

たくさんあるQueenのAlbumの中で何故このAlbumなんだろう。
これが正直な僕の感想です。
たくさんAlbumを買って聴きましたが、このAlbumは聴いていません。
"Another One Bites the Dust"のようなブラックミュージックは僕も好きです。
レビューを読んでいるうちに興味が湧いて来ましたので機会があれば聴いてみます。
Led ZeppelinやAerosmithのメンバーがJames Brownのファンであった様に、ファンクはリズムがかっこいいので僕も好きです。

>うえださん♪
まあ、このアルバムは鬼っ子ですよねえ。
あたしはかなり偏った趣味の人間でありまして、純粋なブラック・ミュージックは苦手なんです。なのに、ブルー・アイド・ソウルや白人のプレイするブルースやファンクは結構好きだったりする。そういう意味で、このアルバムや "Another One Bites the Dust" は結構ツボでありました。
えっ?『たくさんあるQueenのAlbumの中で何故このAlbumなんだろう』って?。それは Queen のアルバムから1枚を選んで紹介するんじゃなくて、"Hot Space" ってアルバムそのものを、あたしは紹介したかったからなんですね。

このAlbumをじっくり聴いてみました。
結果苦手です。
僕個人の意見ですがオシャレにまとめ過ぎてグルーブ感が足りない様に感じました。
表現に困りますが、体が自然にリズムを追いかけるあの感じが無いんです。
僕は大半ロックを主に聴いています。
ブラックミュージックはモータウンサウンドも好きです。
ソウルトレインも好きです。
新しい所ではSnoop Doggの1st Albumが名盤だと思っています。
僕の好きなJames Brownやsly and the family stoneのファンクを期待していました。
ただこの後のQueenのAlbumは全て買って聴きました。
これらは僕は気に入っています。
ただ、このAlbumこそが彼らの変化点だった事はよく分かりました。

>うえださん♪
ダメでしたか。すみません。
先のコメントでも書きましたけど、個人的にブラック・ミュージックは苦手でありまして、もう、はっきりとほとんど聴きません。今までレビューしてきた76枚のアルバムの中でも、黒人は Brenda Russell だけだと思います。なのに、白人がプレイするとちょっと違ってくる。なんていうか、隙間的な特殊な趣味なのかもしれません。ちなみに、ヨーロッパのロックも聴きませんです。
Queen も好きなのはこのアルバム以前なんですよね。このアルバム以降はだんだん離れちゃってった気がする。・・・って考えると、確かに変化点だったのかもしれないなと思います。

私はクイーンを初めて聴いたのがボディランゲージだったので違和感なくこのアルバムを聴いていました。(初めて買ったLPレコードがこのアルバムでした)私個人的には、ニューウェーブの流れが起き初めていたこともあり聴きやすかったのではと思います。当時はまだ動くフレディを見たことがなく、雑誌の写真と歌声だけでファンになりましたが、あの風貌もあり周りに理解者はいませんでした。今回の映画でクイーンが再注目されていますが、是非本物のライブエイドの映像を見て欲しいと思います、クイーンのライブは異常な盛り上がりです。

>Nanaさん、初めまして♪。レス遅くなりました。
あたしがどこからクイーンを聴いたのかといえば、ラジオから流れる "Killer Queen" が最初なんだけど、そこでアルバムを聴くって事はなかったんですね。多分、 "Another One Bites the Dust" を聴いてから、遡って聴いていったんだと思います。と、すれば、このアルバムには、あたし自身はそんなに驚いてないんですよね。だから、紹介する気になったのかも・・・。
あたしはほとんど動画を見る事はない人間でありまして、ただ、"Staying Power" を You Tube で何かの拍子に見てひっくり返りました。・・・カッコいい。しっかりロックしてるんですよね。それからしばらく Queen の動画巡りをする日が続きました。Freddie は初期より、この時期の方が良いよなあ。物凄くセクシーだと思います。

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