Carla Bley Live! / the Carla Bley Band

カーラ・ブレイ・ライヴ! / ザ・カーラ・ブレイ・バンド 1982年
進藤むつみのおすすめCD (vol.63)

get "Carla Bley Live!"年に1枚くらいは、ジャズのアルバムを紹介したいと思うんです。いえ、ホントはもっと紹介したい。だけど、去年 Michel Petrucciani の時にもお話ししたけれど、あたしって好きな割りにはジャズ界に詳しくないんですよね。だからこのアルバムは、そんなあたしでもお話したくなる、ホントに大好きな1枚なんです。

才女として名高い Carla Bley。フリー・ジャズの女王とも呼ばれたこともあり、女性のジャズ・ミュージシャンでは一番有名な人なのかもしれません。だけど、あたしが彼女の名前を知ったのは Pink FloydNick Mason のソロアルバム、"Fictitious Sports" (81年) でだったんですよね。このアルバムで彼女は全曲の作詞作曲を、そして Nick Mason と共同プロデュースをしていていたんです。

なんとも不思議なアルバムでした。時々こういったアルバムに巡り合う事があるんだけど、素面では聴けない・・・って言えばいいのかな(笑)。Soft Machine にいた Robert Wyatt の朴訥なヴォーカルも不思議。いかにも Pink Floyd っぽいサウンドもある。ただ、管楽器の使い方がジャズなんですよね。しかも、音の重ね方が普通じゃない。ライナーノートには、いかに Carla Bley が素晴らしいミュージシャンかを綴っている。あたしは俄然彼女に興味が湧いて、そこで手にしたのがこの "Carla Bley Live!" だったんです。うん、手にしてよかった。巡り合いって不思議です♪。


Carla Bley は、ピアニストとして卓越した才能があるわけではないでしょう。それよりもコンポーザー、そしてアレンジャーとしての注目が高かったと思うんです。60年代前半、当時の夫君 Paul Bley の他にも、Art FarmerGary Burton などの大物ミュージシャンにも曲を取り上げられるほど、彼女の作曲センスは高く評価されていました。

その評価を更に高めたのが、Michael Mantler が中心になって製作された "the Jazz Composer's Orchestra" (68年) と、Charlie Haden"Liberation Music Orchestra" (69年) への参加だったでしょう。フリー・ジャズの歴史に残る作品と言われるだけでなく、ジャズのアルバムでも大傑作になるこの2枚のアルバム。これらのアルバムは、Carla のアレンジなくしては作り得なかったと思うんです。そして、ここで Carla Bley は『フリー・ジャズの女王』という称号も得る事になりました。


そして72年、3年の歳月を掛けて録音された "Escalator over the Hill" が発表されました。LP3枚組み(CDは2枚組み)というジャズ・オペラ作品。それまでのスタイルを発展させた上で、Jack BruceLinda Ronstadt 等が参加するなど、新しいスタイルを試しているような気がします。この頃にはすでに『フリー・ジャズには幻滅した』という発言もあり、いろんな形を模索していたのじゃないでしょうか。

それ以降、彼女は10人以上のビッグ・バンド形式で、自己のスタイルを探る事になります。それは、Stuff のメンバーとのコラボレーション "Dinner Music" (77年) を経由して、78年の "European Tour 1977" で結実しました。彼女のベースにある『フリー』な要素が、適度にポップさの中に溶け込んだアルバムで大傑作です。楽曲もアレンジも演奏も文句ありません。しかし、このアルバムの成功をきっかけに、彼女はまた新しいスタイルを見つめはじめました。


その新しいスタイルの頂点にあるのが、81年に録音された、この "Carla Bley Live!" だと思います。まるでロックのようなリズム・セクションに乗せて、いかにも Carla らしいブラス・セクション。複雑な音の重ね方にはフリーを思わせる部分もありますが、ものすごく聴きやすいアルバム。だけど、不思議な事に、ポップでありながらフュージョンじゃないんですよね。ジャズのアルバムなんです。この辺りのバランスが、あたしが彼女にのめり込んでいった、一番の理由なんだと思います。


オープニングの "Blunt Object" を聴いた時の衝撃を、あたしは忘れられません。ピアノのバッキングに乗せて、高音で奏でるベースソロのイントロ。そして、ブラスセクションと、ドラムスが入る。このノリ、このアレンジはロックです。しかも、リズムの2人のビートが強烈なんです。ファンキーなんですよ。あたしは思いました、『これがフリー・ジャズ?』。そうじゃありませんよね。彼女は『フリー』をベースにして、新しい音楽を作っていたのですから。

だけど、あたしのようにロック・ベースの人間にも、スッと入れる聴きやすさを表面的に持ちながら、よく聴けば完全なジャズ・サウンド。Michael Mantler (tp) や Gary Valente (tb) 等の個性はプレイヤーを、上手に使いこなしているんです。10人編成のうち6人が管楽器のプレイヤーなのですが、この音使いが見事で、彼女の作曲家・編曲家としての才能に脱帽してしまいます。


そして "the Lord Is Listenin' to Ya, Hallelujah!" が続いたものだから、あたしはノックアウトされちゃったんですよね。Gary Valente のトロンボーン・ソロをフィーチャーしたこの曲。静かなオルガンの音をバックに、もう全編通してトロンボーンが『ハレルヤ!』と吠える・・・というか、泣く。あたしは元々、管楽器ではトロンボーンが一番好きなんです。だけど、こんなに素晴らしいソロって、なかなかないと思うんですよ。名曲、名演奏です。もしかしたら、このアルバムの最大のヤマになるのかもしれません。

3曲目の "Time and Us"・・・。ああ、なんて素敵な曲が続くのでしょうか。穏やかな気持ちにさせてくれる曲ってありますよね。ホッとさせてくれるのに、逆にちょっとだけ切なくもさせる。優しさと哀しさと喜びと、色々な感情を思い起こさせたあとに、穏やかな気持ちにさせてくれる曲・・・。あたしとっては、この曲が一番そう思わせる曲なんですよね。泣きたくなるくらい大好きな曲です。そして、このアルバムで唯一 Carla がピアノを弾いていて(他は全てオルガン)、このピアノの音色が彼女の心なのかな?・・・なんて、思ったりします。


前半に比べれば、後半の方がフリー的な要素は強いかもしれませんね。だけど、決して難しいと感じさせないんですよね。実際は複雑な事をしてるんですけどね。調性やメロディーやリズムを否定したフリー・ジャズを越えた、ホントに自由な世界がここにあるような気がします。

・・・うん、プレイヤーに対しては、好きにさせる部分がある代わりに、キッチリと押さえてる部分も多いと思うし、本当の意味での自由は Carla Bley 本人だけなのかもしれませんけどね。それでも、それを纏めあげが彼女の才能、彼女のバランス感覚が絶妙なこの "Carla Bley Live!" だと思うんです。


Carla Bley は、これ以降も10〜20人編成での演奏スタイルを続けていきます。それぞれにテーマを持ちながら、どれも聴き応えのある作品に仕上がっています。そして、それと平行しながら、現在公私共にパートナーの Steve Swallow とのデュオ作品も発表しているんです。ピアノとベースのコラボ。これが、また面白いんですよ。ビッグバンドと違って、素直にピアノが出てくるものだから、ちょっとしたジョークもキツク感じられたりしてね。こういう2つのスタイルを平行しているのが、彼女のバランスになっているのかもしれませんね。

さて、あたしは彼女のアルバムはほとんど持ってるんだけど、後悔した事ってないんですよね。好きになっちゃった弱みかも知れませんけどね。そんな中から、もしこのアルバム以外に1枚だけ紹介するとしたら・・・、89年の "Fleur Carnivore" をあげたいと思うんです。特にラストの "Healing Power"。イントロでパラパラと1分以上それぞれの管楽器が奏でて、ドーンとリズムが入る!。このスタイルはロックです。この曲からは、ロックのハートを感じるんです♪・・・なんて言うと、ロック好きなあたしの紹介は、信用できないって証拠になっちゃうのかもしれませんけども(笑)。

Carla Bley Live!
1. Blunt Object / 2. Lord Is Listenin' to Ya, Hallelujah! / 3. Time and Us / 4. Still in the Room / 5. Real Life Hits / 6. Song Sung Long
produced by Carla Bley / recorded at the Great American Music Hall, San Francisco, CA
the Carla Bley Band (web site: http://www.wattxtrawatt.com/
Michael Mantler, Steve Slagle, Tony Dagradi, Gary Valente, Vincent Chancey, Earl McIntyre, Carla Bley, Arturo O'Farrill, Steve Swallow & D. Sharpe
Carla Bley
born Carla Borg on May 11, 1938 in Oakland, CA.

CD vol.62 へ | CD vol.64 へ
【おすすめCD】の目次を見る

posted by 進藤むつみ on Winter, 2005 in 音楽, 1980年代, ジャズ

comments (2)

うわ、懐かしいな、昔このCD持ってました!
長年、こんなヒトがいたことも忘れてた。今、試聴で久しぶりにBlunt Object聴いてみたら、何だか立花ハジメに似てなくもない気がしました。

>Screaming Bunnyさん♪
あはっ☆、持ってたんですか?。素敵♪。いろんな人に、様々な音楽ファンに好まれたアルバムだと思います。
もちろんこのアルバムを聴く以前にも、正当派を含めて結構ジャズは聴いてきたんだけど、ホントに彼女には嵌まっちゃったんですね。だから、立花ハジメと言われても、あたしは『うーん・・・Carla Bley でしかないな』になっちゃったりするんです。

post a comment