Brothers in Arms / Dire Straits

ブラザース・イン・アームス / ダイアー・ストレイツ 1985年
進藤むつみのおすすめCD (vol.60)

get "Brothers in Arms"60回目になるこの『おすすめCD』ですが、今までに紹介してきた中の8割はアメリカとカナダのミュージシャンでした。イギリスだと Pink FloydQueen・・・、彼らはイギリスとは言い切れませんよね。他には Joe JacksonPrimal ScreamJoe もニュー・ヨークに渡った後のアルバムの紹介だったし、Primal Scream で紹介したのは "Give Out but Don't Give Up" でしたから、特にアメリカ南部のサウンドを狙ったアルバムでした。

別に、国籍で音楽を聴くつもりはないんですよ。だけど、これって自然にそうなっちゃうんですよね。アメリカン・ルーツ系の音が好きで、特にカントリーがかったロックにのめり込んでいたあたしには、『イイな』と思うとアメリカのミュージシャンっていう事が多いんです。他の国の人でも、アメリカっぽいサウンドだったりね。

だから今回ご紹介する Dire Straits も、イギリス出身ながらアメリカの香りを感じられるバンドだと思います。Mark Knopfler の飄々としたヴォーカルは Bob Dylan と比べられたし、乾いたギターの音色は特にアメリカ的と言えるでしょう。それに彼らは、デビュー直後からアメリカのマーケットを見た活動をしてきたしね。だけど、そんな中にも皮肉やユーモアを感じさせてくれるのは、やっぱりイギリス人だからでしょうか。そして、そんなバランス感覚がこのバンドの魅力だなと思うんです。


Dire Straits は1977年、MarkDavidKnopfler 兄弟を中心にしてロンドンで結成。翌78年に、アルバム "Dire Straits" でデビューを飾ります。だけど、当初これはまったく売れませんでした。このアルバムが注目されたのはオーストラリアからでした。それがオランダ、カナダに飛び火します。精力的なツアーを行った事もあり、アメリカでは79年に入ってからシングル "Sultans of Swing" がチャートイン (4位)。それに合わせるようにアルバムも2位まで上昇。最終的にはイギリスでも、シングル・アルバム共にベスト10入りする上々のスタートになりました。

しかし、彼らはすでに次のステップに向かって歩き出していました。イギリスでは売れないとアメリカに目を向け、Jerry Wexler & Barry Beckett のプロデュースでセカンド・アルバム "Communique" (79年) を製作。80年には David が脱退するものの "Making Movies"、82年 "Love Over Gold" と完成度の高いアルバムを次々に発表。どのアルバムもイギリスではよく売れました。だけど、アメリカでは11→ 19→ 19位、シングルも45位が最高と、彼らの思惑とは逆になってしまったようです。

そしてこの時期、バンド以上に Mark Knopfler は高く評価されていました。比べられるギタリストは J.J. CaleRy Cooder。確かに独特なピッキングで、ハートのあるギターを弾くんですよね。Bob Dylan のレコーディングに呼ばれたのは79年。83年の "Infidels" では、なんと共同プロデュースまでしています。他にも Steely Dan をはじめとして、たくさんのミュージシャンとの交流がありました。


さて、そんな彼らが、84年のライヴ "Alchemy" で活動にひと区切りつけた後に発表されたのが、この "Brothers in Arms" でした。彼らのアルバムの中でも特にアメリカ寄りの作品。それまでの反省からかストレートなロック・サウンドで、しかも、かなりルーツ寄りでした。また、多彩なゲストも迎えるなど、彼らの意気込みが感じられるアルバムになりました。


このアルバムの中の曲で、まずお話しなければいけないのは "Money for Nothing" でしょう。MTVを皮肉ったこの曲は、CGを駆使したPVがMTVでヘビー・ローテーションされる事で、全米1位を獲得します。'you play the guitar on the MTV' って歌ってるのが、自分の事になっちゃうんですよね(笑)。

彼等は Mark の曲しかプレイしてこなかったバンドなのですが(シングルにはカバー曲があり)、この曲のクレジットには Sting の名前があります。これは・・・イントロやサビに被るメロディーに、the Police"Don't Stand So Close to Me" のメロディーを拝借してるからですね。しかも Sting 本人にコーラスしてもらうという、非常に凝った洒落(笑)。ポップなアレンジも含めて、相当売る事を狙っていた曲だと思います。

それなのに評価を下げないのは、曲自体がいい上に、彼らに実力があったからだと思うんです。しかも、強烈に覚えやすいギター・リフ。あたしはこの時代で最高のリフと思っちゃうくらい♪。そして、飄々としているのに惹き付けられてしまうヴォーカルやギタープレイ、リズムの取り方など全てが彼らの形を外れていない、彼らのスタイルの延長線上にこの曲があったからだと思います。


そして、このアルバムの本当の魅力は、他の曲から見つける事ができるんです。

オープニングの "So far Away" (19位)。乾いています。ホントに、イギリス人とは思えない程のアメリカン・ロックなんです。この曲がアルバムのカラーを決めたトコはありますね。キーボードや他の曲ではサックスとかゲストも多いんだけど、この曲のストレートさが、最後までアルバムを支配するような気がするんです。

"Walk of Life" (7位) は、Dire Straits 風ロックン・ロールの代表曲でしょう。気持ち良いくらいのリズムで、投げやりな Mark のヴォーカルが逆にいい味出してたりしてね♪。しかも、ちょっとしたオブリガードも良いんですよ。徐々にルーツ系の音楽が不在になるこの時期には、こういう曲って貴重だったような気がします。


ヒットした曲でなくても、注目したい曲はあるんです。 "Why Worry"・・・なんて事のない静かなバラードなんだけど、あたし、こういう曲が好きなんですよね。緊張している日でも、こんな曲を聴くとホッとできるんです。あたしの原点にあるようなタイプの曲かしら?。

そして、"One World" の強烈なリズム感。全体に大人しめなこのアルバムの中で、ものすごいインパクトです。こういう曲が1曲あるだけで、アルバムが締まるんですよね。更にエンディングの "Brothers in Arms" の心に迫ってくるメロディーが、静かな余韻となってアルバムは終わります。


この "Brothers in Arms" には、ひとつも捨て曲がありません。メロディーにしても演奏にしてもキャッチーなのに、彼等らしさを忘れてはいません。アルバムを通した時の自然な流れも完璧。全米・全英共に1位になるのも、世界で2000万枚以上売り上げたのも、当然と思えるアルバムです。ただ、日本では・・・欧米よりは評価が低いかな?。渋すぎるのかルーツ系が弱いのか、ちょっと残念に思っています。


この後の彼等は、Mark Knopfler の個人活動の方が目立ってきます。今まで以上にいろんなミュージシャンのアルバムに参加する他、映画音楽にも興味を示していきました。また、the Nothing HIllbillies 名義でのアルバム "Missing" や、Chet Atkins とのデュオ作 "Neck and Neck" (共に90年) の発表もありました。

Dire Straits としての次のアルバムは、91年の "on Every Street" (1位) になりました。良い出来なんですよ。更に地味なアルバムだけど、曲は "Brothers in Arms" より良いんじゃないかしら?。だけど、この後2枚のライヴを発表し、96年に Mark Knopfler がソロアルバム "Golden Heart" を発表する事で、Dire Straits の活動には幕を降ろす事になりました。

良いメンバーに恵まれたバンドだったんですけどね。やっぱり、全ての曲を作るのも、歌うのもリードギターも、全て Mark Knopfler が中心だったんですよね。類い稀な才能のあるミュージシャンでしたから。だけど、彼の才能が伸びる事で、個人として求められて、そしてソロ活動が活発になる事でバンドが終焉を迎えるのは、あたし的には残念だなって思っちゃうんです。

Brothers in Arms
1. So Far Away (君にさよなら) / 2. Money for Nothing / 3. Walk of Life / 4. Your Latest Trick (愛のトリック) / 5. Why Worry / 6. Ride Across the River / 7. the Man's Too Strong / 8. One World (真実の世界) / 9. Brothers in Arms
produced by Mark Knopfler & Neil Dorfsman / recorded at Air Studios, Montserrat, W. Indies
Dire Straits
Mark Knopfler, Alan Clark, Guy Fletcher, John Illsley, Omar Hakim & Terry Williams
Mark Knopfler (web site: http://www.markknopfler.com/
born on August 12, 1949 in Glasgow, UK.

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posted by 進藤むつみ on Autumn, 2005 in 音楽, 1980年代, アメリカン・ルーツ

comments (8)

pecoは、オーストラリアでブラザーとか凝った
ソロと大きい大人しめとかをストレイツしたかった。

>peco♪
えっ、pecoってオーストラリアに行った事あるの?☆★☆。
だけどさあ、ストレイツの意味って分かってないでしょ?。海峡でもないよ(笑)。

   いや・・・・。  掃天にそびえるブリキのギター・・・・(笑い)  怪しいジャケットだと思ったんですよね。  中古品なんで帯が取り払われていて一体何のCDだか解らなかったです。  DIRE STRAITSがアーティスト名なのかBROTHER IN ARMSがそうなのかすら解らないんですよね。  おまけに『ディア・スターズ』と読んでいた(Tが欠落・汗)  この記事のお陰て漸く安心して買うことが出来ました♪  くすくす♪

>usagi3さん♪
えっ、買ってきたんですか?。どうですか?、いいでしょ☆。
"Money for Nothing" は、絶対聴いた事がある曲だと思います。アルバムの中で、この曲だけ浮いちゃってるって話もありますけどね(笑)。レビュー・・・しますよね?。楽しみにしてますね♪。
ちなみにブリキのギターは dobro (=ドブロ) という名前で、カントリー系音楽の定番楽器です。怪しいジャケットには間違いないけれど、このバンドがそこまでの音を狙うのか・・・って思いで、あたしは見ていたんですよね。

Mark Knopflerはえらい!
っていうか、丸1年このアルバムだけ聴いてた。
1年どころじゃないですよ。
CDに買いなおさなくっちゃ。
ドブロは弾いたことありますけど、ぼくの腕では鳴りません。
このアルバムがベストだと思いますね。
2枚組みのライブ版CDを買ったら、中には1枚しか入っていなかった。
レコード屋に持っていったら潰れていたのね。
とほほな思い出ですわ。

>osaさん♪
この時期ってだんだんルーツ系ロックが廃れてきていて、だからこそこのアルバムって貴重だったような気がします。Mark Knopfler らしさって意味では、初期のペナペナしたギターの方がそうだと思うんです。このアルバムは、作り込みすぎって批判もあるし。だけど、Dire Straitsの中で特にカントリー寄りのこの "Brothers in Arms" は、やっぱりあたしも大好きですね♪。
ドブロ、弾いた事あるんですか?。鳴りませんか?・・・って、楽器ってなんでも鳴らすの大変ですものね。ギター、ベース、マンドリン、バンジョー、ウクレレ、フィドル、Wベース・・・。みんな『弾いた』というより『触った事がある』程度だけど、あたしドブロは弾いた事ないや。一度触ってみたいなあ・・・。
2枚組のライヴっていうと "Alchemy" でしょうか。半分だと完結しませんね。
だけど、あたしも中味が違うのはありましたよ。後で行けるお店ならいいんですけどね。結構どこでも中古屋さんに入るタイプで、旅先でもバシバシ寄っていたんです。だから、だんだん中味を確認するようになるんだけど、時間がなくて省いちゃう時に限って中味が違う罠が・・・(笑)。まったく困ったもんです。

あの独特のペカペカしたギター(ピック使ってないよね)は独特ですねえ。
チャット・アトキンスとデュオしてるライブを観たことがあります。
CDも出てるんですけど、地味ですね。

>osaさん♪
そのライヴは見て見たいなあ♪。あたしって音さえ鳴ってればそれで満足で、あんまりビデオって見たいと思わないんですけどね。地味なんですか?。かえって興味を魅かれてしまいます(笑)。
それと、彼は指弾きの代表的なギタリストですね。そういえば Fleetwood Mac の Lindsey Buckingham も指弾きなんですよね。好きな人が二人もそうだと、あたしもそうしようかな・・・って、形だけ真似しても仕方ないんですけどね(笑)。だいたい、ギターもしばらく弾いてないんですから。

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