Autoamerican / Blondie

オートアメリカン / ブロンディ 1980年
進藤むつみのおすすめCD (vol.33)

get "Autoamerican"Blondie は、この時代のニューヨーク・パンク出身の中で、最高の成功を収めたバンドでしょう。ただ、ポップス/ニューウェーヴへとサウンドを変換していく中、意外に低い評価を受けているような気がします。これは、ヴォーカルの Deborah Harry がセックス・シンボルとして注目され、唇に億単位の保険をかけるなどのエピソードも、軽く見られた一因に思えます。

だけど、Deborah にとって評価なんて、たいした問題ではないのかもしれません。順調に音楽キャリアを積み重ねてきたように見える彼女ですが、1968年に別のバンドで失敗した後、ウエイトレスやバニーガールをしながら、再デビューの道を探っていたそうです。ファースト・アルバムの発売時に、すでに31歳だった彼女にとって、Blondie は敗者復活戦だったんですから。


Deborah Harrythe Wind in the Willows の一員として、1968年にデビュー。あたしはこのアルバムを聴いてないのですが、フォーク・ロック・バンドだったそうです。このバンドが不発、再デビューを探る中で、公私共に長い付き合いとなるギターの Chris Stein と出会い、74年に Blondie を結成します。当初、相当粗削りなパンク・ロックだったよう。だけど76年のデビュー時には、その後のサウンドにもつながるポップさが既に感られます。セカンドの "Plastic Letters" からは "Dennis" が全英で大ヒット。次作のレコーディングからは、ポップの魔術師と呼ばれる Mike Chapman をプロデュースに迎える事になります。

ここから Blondie の快進撃が始まります。

78年の "Parallel Lines" (全米6位) からカットされた、"Heart of Glass" が全米No.1ヒット。アルバムを通してのサウンドも、今までにないほどポップに変わります。翌79年発表の傑作 "Eat to the Beat" (17位) は、レゲエ調やディスコ調と様々な要素を取り入れながらも、バンド本来のスタイルは忘れていません。ポップでありながら、単に明るく突き抜けたサウンドでないのが面白いです。そして、80年の映画 "American Gigolo" のテーマ "Call Me" (1位) が、敗者復活戦を勝ち上がった最終試合かもしれません。


では、この "Autoamerican" は何なのでしょうか。

ここでの Deborah Harry は、自分のやりたい音楽をそのままストレートに出してきました。前作から色々な要素が出てきてるとはいえ、ここまで広い音楽性を見る事はできません。レゲエやジャズ、そしてラップ・・・。今までのバンドのイメージに捕われず、ロック色を後退させてまでの新境地が魅力的です。あたしは大好きです。ただ、それまでのファンの中には、戸惑ってしまった人もいるようです。

収録曲を聴いてみましょう。壮大なシンフォニーを思わせるインスト曲 "Europa" から、目一杯ディスコ調の "Live It Up"。オープニングからのたった2曲を聴くだけで、これまでの彼等との違いが分かるでしょう。ホントに音楽性が広がっています。

その中でもシングルカットされた2曲は、特筆すべきものです。

ファースト・シングル "the Tide Is High" はレゲエです。ジャマイカのバンドの曲のカヴァーだそうです。レゲエのリズムはこれまでも取り入れてきましたが、ここまで前面に出したのは、やはり初めてじゃないでしょうか。レゲエであってトロピカルなのかな?。もはやパンク・バンドのサウンドではありませんが、あたしの一番のお気に入りです。この曲は "Call Me" に続き、2曲連続の全米1位になりました。

"Rapture" はラップです。これって相当新しいですよね。だって、ジャスト1980年のロック・シーンですよ。彼等のイメージを塗り替えたのはもちろん、いろんなミュージシャンに影響を与えてるんじゃないかしら。初めてこの曲を聴いた時に「ヘタだなあ」と思ったのは内緒ですが、聴き込んでいくうちに彼女のヴォーカルの魅力に取りつかれてしまいます。この曲で、3曲連続全米1位を記録しました。

さて他の曲に目を向ければ、更にバラエティに富んでいる事に驚くかもしれません。

ジャズのエッセンスを感じる "Here's Looking at You""Faces" は、古き良き時代のアメリカを歌っているよう。まさにグッド・タイム・ミュージック。そして、エセ東洋な "Do the Dark"(笑)、ホット・ロッドと呼べるような "T-Birds" などを、彼等らしいナンバーの中に折り込んで、アルバムは進んでいきます。エンディングのカヴァー曲 "Follow Me" を聴くと、夢見る彼女の姿が目に浮かびます。

Blondie らしさでいえば、このアルバムが一番ではないでしょう。だけど、彼女はこんな音楽をやりたかったのか、こんな音楽を聴いてきたのかという事が理解でき、あたしとしては、"Autoamerican" が一番好きなアルバムになるのです。


この後 Blondie は、Deborah のソロを挟んで 82年に "the Hunter" を発表。しかし、セールス的な不振や Chris Stein の病気(白血病)なども重なり、このアルバムを最後に解散します。Chris の看護が必要だった事から、その後の Deborah の活動も非常に地味なものでした。だけど Blondie は復活しました。99年の "No Exit" からの活動は数ある再結成の中でも高いレベルで、単に過去の焼き直しではない、興味深いサウンドを届けてくれているのが嬉しいです。


さて、ここでもうひと言。前述の "Call Me" は、Donna Summer などを手掛けた Giorgio Moroder との競作でした。そしてこの "Autoamerican" も、彼のプロデュースで・・・という話があったそうです。これって、実現したら面白かっただろうなあ。だって "Europa" から "Live It Up" を聴くだけで、Moroder ならこうしただろうって頭に浮かびません?。それどころか、このアルバムの曲作り全てが、それつもりだったように思えてしまいます。大ヒットしているアルバムなのに、Mike Chapman も悪くはないのに、贅沢な事を望んでしまうあたしなんです。

Autoamerican
1. Europa (遙かなるヨーロッパ) / 2. Live It Up / 3. Here's Looking at You (貴方の瞳に恋してる) / 4. the Tide Is High (夢見る No.1) / 5. Angels on the Balcony (バルコニーのエンジェル) / 6. Go through It (恋はハイウェイ・ドライヴ) / 7. Do the Dark / 8. Rapture / 9. Faces (愛の面影) / 10. T-Birds (憧れのサンダーバード) / 11. Walk Like Me / 12. Follow Me (渚のデート・ウォーク)
produced by Mike Chapman / recorded at United Western Studio, Hollywood, CA.
Blondie (web site: http://www.blondie.net/
Deborah Harry, Clem Burke, Jimmy Destri, Nigel Harrison, Frank Infante & Chris Stein
Deborah Harry
born on July 1, 1945 in New York City.

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posted by 進藤むつみ on Winter, 2005 in 音楽, 1980年代, ロック

comments (14)


 ”Rapture” の
 エクステンテッド・ヴァージョン。
 これがまた最高なんですよ。
 ロミオ・ヴォイドに並んで・・・。
 じゃぁね。

>みなみまさあきさん、はじめまして♪。コメントありがとうございます。
このアルバムのリマスター盤に、ボーナスで入ってる 'Special Disco Mix' とは違うのかしら?。10分くらいのヴァージョンで、途中から違った展開をしていくのが気持ちいいんですよね♪。
ただ Romeo Void は、残念ながらあたし的にはチョットなのでした。

はじめまして
このアルバムはほんと良かったすね~
再結成後は怖くて聴けませんが、結構いいみたいですね。
また聴いてみます!

>ezeeさん、はじめまして♪。コメントありがとうございます。
ホントに傑作だと思います。確かにそれまでも面白いアルバムはあったんだけど、これを作るためにDeborahとChrisは活動してきたとさえ思っちゃうくらいにね。
それと、再結成後もなかなかですよ。あたしは基本的に再結成後は数に入れないんだけど、Blondieが一番いいんじゃないかしら?。少なくても一番真面目に、真正直に音楽してるような気がするんですよね。

このアルバムは持っていません。
amazonいっとこ!

ところで、こんなところでみなみさん?

>osaさん♪
あはっ☆、いっといてください(笑)。懐かしい・・・って、このアルバムが出た80年頃をじゃなくて、もっと昔のアメリカを何となく感じさせてくれるような気がするんですよね。手元に置いておきたいアルバムだと思います♪。
と、みなみさん、お知り合いですか?。一年半前の記事に一年くらい前にコメントをいただいたんです・・・なんて話をしてていいのかな?(笑)。

ということで、いっときました、amazon。
むつみさんとこからけっこうamazonに走ってますねえ…
ブロデイがくる…ブロデイはプロレスラーか。
ブロンディでしたね。
好きなんだけど買えなかったのですよ、この手は。
スージ・クワトロでさえ友だちのいるところではかけなかった。
たぶんイーグルスも。
肩の力も見得もなくなると音楽がもっともっと楽しめるようになっていいです。

みなみさんは、ドラマーである友人のファンの方なのです。
会ったことないけど、いつか会えるのかな。

>osaさん♪
確かにosaさんのようにBlues好きの人にとっては、聴きたいとは言っちゃいけないないミュージシャンなのかも。だけど、うーん、Eaglesもかあ・・・。ずいぶん世界を狭めちゃってましたね。まあ、あたしも日本のミュージシャンに対しては、そういったトコロがあるかもしれません。肩の力を抜けると幸せなんでしょうね。
ああ、みなみさんとはそういった関係なんですか。それならお会いする事もあるんじゃないですか?。うちにはあれ以来寄っていただいてませんけども。

てなこといってる間にブロンディちゃんがやってきました♪
歌ヘタなんだよねえ、このシト。
でも顔も歌も大好きなんだよねえ。
サンキューでした。

>osaさん♪
は、早い!。街のCDショップに買いに行くのと、あまりかわりませんね。
歌は・・・うん、ヘタですよね(笑)。"Rapture" のラップなんて、聴いてるあたしの方が恥ずかしくなるくらい。だけど、いいんですよ。心に染みるとかそういうのじゃないんだけど、なんかいいんですよね☆。・・・osaさんは彼女の顔がお好みですか?。
こちらこそ、どうもありがとうございました♪

今はPINKちゃんに夢中ですけど、フィリート・ウッド・マックの姉ちゃんもすきだなあ(どっちも)。
グレース・リックの年増になってからもいいし、アリソン・モイエなんて好物ですねえ。
おデブ最高!
ああ、ほんと女性っていいもんですねえ。

>osaさん♪
うう・・・P!nkはデビューした頃に買ったんだけど、どうにも馴染めませんでした。Stevie & Christine はOKですね。しかしStevie Nicksのデビューって衝撃だったんだろうなあ。Grace Slickは・・・年増になってからっていうと、Starshipでいいんですよね?。最近はどうしているんでしょうか。Alison Moyet・・・1枚しか持ってない。うーん、こうして並べてみると、得意不得意が表れますね。女性・・・。うーん、男性もいいんですけどね♪。

実はシャンプーなんかも好きで、ぼくの部屋のCDあさっていた友人が、「こんなん聴いてるんですかあ?」。
ほっとけ!

>osaさん♪
あはっ☆、好き好きですからね。何を聴いててもいいと思うんだけど、ブルース・マンのosaさんとしてはShampooはマズイでしょう・・・って言いながら、あたしも持っていたりして(笑)。

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