the J. Geils Band / the J. Geils Band

デビュー! / J. ガイルズ・バンド 1970年
進藤むつみのおすすめCD (vol.75)

get "the J. Geils Band"成功を約束されていたと言っては、言い過ぎでしょうか。だけど、the Butterfield Blues Band 以来の最高の白人ブルース・バンドと呼ばれ、プレイもハートも申し分ない。ブラック・ミュージックの名門アトランティックからデビューを果たし、ローリング・ストーン誌でベスト・ニュー・バンドにも選ばれている。他にこんな話もあるんですよね。

ロックの殿堂的なライヴ・ハウス、フィルモア・イーストに初めて出演した時、オーナーの Bill Graham はこう言って彼らを紹介したそうです。『メイン・アクトにしか興味がなく、このバンドにチャンスを与えてやるだけの忍耐力を持ち合わせていないというお客さんは、申し訳ないが会場から出ていってくれないか?。とりあえず静かにして、このバンドにチャンスをやってほしいんだ』・・・すごい期待の大きさですよね。

そう、約束とまでは言えなくても、誰もがこのバンドに期待していたんだと思います。そんな the J. Geils Band の物語を今日はお話ししたいと思うんです。


1967年、J. Geils (g), Danny Klein (b), Magic Dick (harmonica) の3人で活動していた the J. Geils Blues BandPeter Wolf (vo)と Stephen Bladd (ds) が加入した事から物語は始まります。Wolf は地元ボストンでDJもしていて、ラップ調のマシンガン・トークや百科事典並みのR&Bの知識が有名だったそうです。翌68年、 Seth Justman (kyd) が加入する頃には、バンド名から Blues を外して the J. Geils Band としての活動が始まりました。

Peter Wolf のソウルフルなヴォーカルと、Magic Dick のブルース・ハープの2枚看板を得たバンドは、Jerry Wexler の後押しを得てアトランティック・レコードと契約。この頃バンドはウッドストック・フェスティバルの出演依頼を受けたものの、黒人音楽に憧れていた彼等にステージはフォーマルな場であって『泥に塗れて演奏するのなんて真っ平だ』と断ったそうです。

そしてレコーディング・・・になるはずが、プロデューサーの用意した曲を気に入らないとことごとく拒否。自分達のカラーでないと分かっていたんでしょうね。そこで、ライブ・バンドとして定評のある彼等の、全てのレパートリーを演奏してみせた中から選ばれた11曲で録音されたのが、この "the J. Geils Band" でした。慣れた曲ばかりだったためか、録音時間はわずか18時間だとか。


アルバムはルーズなブルース・ロック "Wait" から幕を開けます。そんなにスゴく良い曲かというと、実はそれほどでもない。だけど、Peter のしゃがれたヨレた声が入った途端に息が吹き込まれる。すごいよなあ、いつの間にかと引き込まれちゃうんですよね。Magic Dick のヴォーカル以上に物言うブルース・ハープも生きてるし、ちょっとゴリ押しってトコもあるけれど、バンド一丸となってるサウンドは必聴です。

次の "Ice Breaker" は強力なインストロメンタル。ギターとブルース・ハープのユニゾンでグイグイと押してきます。インストの曲だということを忘れちゃうくらい。わずか2分ちょっとなんだよなあ。あたし的には10分くらい演奏して欲しいレベル。ギター、ブルース・ハープ、キーボード(この曲だとオルガン)の三者で間奏を分け合う彼等の定番スタイルも、すでにここで聴く事ができます。

"Hard Drivin' Man" の曲調は、後のスタイルのベースになっているような気がします。R&Bの影響が強い、ポップなロックン・ロール。多分、この曲が数年後のアルバムに入っていたとしても、全く違和感がないと思う。そして、J. Geils の大したことをしてないのにやけに派手なギターを聴くと、このバンドのサウンドの基本はギターなんだよな・・・と思います。

John Lee Hooker のカバー "Serves You Right to Suffer" がこのアルバムのベスト・テイク。Hooker のスタイルを踏襲したスローな・ブギは、聴いてて震えがくるくらい。もうね、好きなように演奏してる。カバー曲をここまで自分達のサウンンドにできているのは、彼等の地力が高い事の証明になると思います。この曲も3人で間奏を分け合っていて、それぞれのプレイも聴きごたえがあります。


この他にも Otis RushAlbert Collins 等のカバー曲がありながら、半分以上は彼等のオリジナル曲で占められているのが、このデビュー・アルバムの特徴だと思います。カバー曲がもっと多かったら、ただのセンスの良いカバー・バンドで終わった可能性もある。セールス的には全米195位と不発だったものの、今後の the J. Geils Band のスタートとしては上々の、男臭さに満ち溢れたアルバムだったと思います。 ・・・ミスも多いし、勢いで誤魔化してるトコロはありますけどね。


the J. Geils Band は、翌71年にブルース・ハープの名曲 "Whammer Jammer" をフィーチャーした "the Morning after" (全米64位) をリリース。フィルモア・イーストの最終日の舞台にも立ちました。彼らの演奏の醍醐味を楽しめる72年のライヴ盤 "Full House" (全米54位) はゴールド・ディスクを獲得、73年にはブルース色を後退させ軽快なロックン・ロール・アルバム "Bloodshot" (10位)を発表。期待に応えるように、成功への階段を駆け上って行きます。

ところが、全曲オリジナルで固めた73年の "Ladies Invited" が全米51位と、思ったように売り上げが伸びません。それぞれの曲のレベルは高いしバラエティーに富んでるし、悪いアルバムじゃないんですよね。74年の "Nightmares...and Other Tales from the Vinyl Jungle" は26位と持ち直すものの、彼等の求めてる結果とは違っていたのかもしれません。次作 "Hotline" (36位) は、ファースト・アルバム以来のカバー曲が半分近くを占める曲構成を取ったりもします。

ライブ盤 "Blow Your Face Out" (40位) を挟んで、彼等はバンド名を Geils に変更し "Monkey Island" をリリース。プロデュースも初めてバンドとして行い、洗練されたロックサウンドを繰り広げますが、やはり51位と結果が出ません。マジソン・スクエア・ガーデンのヘッドライナーを務めるなど、ライブ・バンドとしての評価は相変わらず高いものの、スタジオでは良い作品を作りながら報われない彼等は、もう迷宮にでも迷い込んだような心境だったのかもしれません。

次の手を失った the J. Geils Band は、長年住み慣れたアトランティック・レコードを離れ、心機一転EMIアメリカに移籍します。超えてはいけない一線に向かい歩き出したとか、魂を売り渡したと言われる事になります。

Freeze-Frame / the J. Geils Band へ続く)

the J. Geils Band
1. Wait / 2. Ice Breaker (for the Big "M") / 3. Crusin' for a Love / 4. Hard Drivin' Man / 5. Serves You Right to Suffer / 6. Homework / 7. First I Look at the Purse / 8. What's Your Hurry / 9. on Borrowed Time / 10. Pack Fair and Square / 11. Sno-Cone
produced by Dave Crawford & Brad Shapiro / recorded at A&R Studios, New York, NY
the J. Geils Band
Peter Wolf, Seth Justman, Magic Dick, J. Geils, Danny Klein & Stephen Bladd
Peter Wolf
born Peter Blankfield on March 7, 1946 in the Bronx, New York.

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posted by 進藤むつみ on Winter, 2016 in 音楽, 1970年代, アメリカン・ルーツ

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