Trio in Tokyo / Michel Petrucciani, Steve Gadd, Anthony Jackson

ライヴ・アット・ブルーノート東京 / ミシェル・ペトルチアーニ、スティーヴ・ガッド、アンソニー・ジャクソン 1999年
進藤むつみのおすすめCD (vol.32)

get "Trio in Tokyo"ジャズ喫茶に入り浸ってたわりには、あたしはあまりジャズに詳しくありません。好きなんですよ。だけど、プレイヤーの歴史や演奏に関する知識は、何も分からないのと同じ位です。ただこんなあたしでも、どうしてもお話したいジャズのアルバムがあるんです。このアルバムはその中の1枚、Michel Petrucciani がこの世を去る約1年前、1997年11月にブルーノート東京で録音されたライヴです。最高のジャズ・トリオの演奏です。


Michel Petrucciani のピアノって、なんて暖かいんでしょう。そして、なんて情熱的なんでしょうか。これは彼が、先天性骨疾患の大理石病だった事と、無関係ではないと思います。15歳でプロ・デビュー。82年に渡米し約10年ニューヨークでの活動。常に積極的に活動を行っていたのは、20歳までの命と医者から宣告されていたからかもしれません。いつ何が起きてもおかしくない中での演奏は、彼はその時のプレイに、自分の全てをつぎ込んでいたのではないでしょうか。その情熱は93年にフランスに帰国後は、なお強くなっていったようです。そして最後に組んだこのトリオが、最高の感動を届けてくれました。

Steve Gadd (ds) と Anthony Jackson (b) の名前からは、フュージョン系のイメージを持たれる方も多いかもしれませんね。実は、あたしもそうだったんです。ロックやソウル、様々なミュージシャンのアルバムで、プレイしてるのを見てきましたから。だけど、これだけ素晴らしいスイングをするなんて驚きました。

そして素晴らしい演奏をして、支え合ってるだけじゃないんですよね。相手のプレイを、なお光らせるための演奏をしているんです。ホントに微妙な音の変化を聴き逃さず、それを高めるために自分のプレイが追いかけていく。ものすごい緊張感があります。何しろ誰が主役と言うプレイ・スタイルじゃないんです。このトリオでなければ、表現できなかった世界がここにあります。だからこそ最高のジャズ・トリオなんです。

軽快な演奏の "Training" から始まり、独特のタッチが楽しい "Little Peace in C for U"、悲しさを語りかける "Love Letters"、一度聴いたら忘れられないであろう "Cantabile"。エンディングの "So What" (Miles Davis) 以外は全てオリジナル曲で、そのメロディーの美しさにも魅了されますが、何しろプレイの素晴らしさです。ホントに聴き直してみると、完璧と思えるくらいなんですよね。

だけど、1曲だけお話させてもらうのなら、"Home" 以外には考えられません。

明るい曲なんです。遠く離れた "Home" を歌っているのでしょうか。ピアノ・ソロからスタートし、リズムが入ってくるとだんだん彼の思いが、強く感じられるようになります。そして曲半ばの強烈な力強さ。ピアノのタッチだけではなく、このあたりのスイング感は凄いです。そして、また穏やかな調子に戻って曲を終えます。この流れも素晴らしい。ストーリー楽しむ事ができるんですよね。

だけど、この明るい曲を聴きながら、涙が止まらなくなるのは何故なのでしょうか。あたしだけですか?。いえ、そんな事はないと思います。心の中に潜む悲しさや切なさを表現させたら、彼のピアノは絶品なのですから。だけど、最後に穏やかな気持ちにさせてくれるのが、彼の暖かさなのだと思います。だからこそ、安心して聴き入っていられるのかもしれません。


おそらく身の丈1mくらいの小さな体を、フルに使ってピアノを弾く Michel Petrucciani。バックから素晴らしいサポートをする Steve Gadd、そして Anthony Jackson。この中の誰が欠けたとしても、この演奏はありえなかったでしょう。Michel が亡くなった年の2月に、同じトリオでの来日が予定されてたといいます。とても残念に思います。だけど、このアルバムを残してくれただけでも、良しとしなければいけないのかもしれません。

そして精力的に活動を続けていた Michel には、多くの作品が残されています。彼のプレイそのものだけでなく、残された作品の数の多さにも「奇跡」を感じてしまうあたしなのです。

Trio in Tokyo
1. Training / 2. September 2nd / 3. Home / 4. Little Peace in C for U / 5. Love Letters / 6. Cantabile / 7. Colors / 8. So What
recorded at Blue Note, Tokyo, Japan
Michel Petrucciani
born on December 28, 1962 in Orange, France; dead on January 6, 1999 (age 36).

CD vol.31 へ | CD vol.33 へ
【おすすめCD】の目次を見る

posted by 進藤むつみ on Winter, 2004 in 音楽, 1990年代, ジャズ

post a comment