the Innocent Age / Dan Fogelberg

イノセント・エイジ / ダン・フォーゲルバーグ 1981年
進藤むつみのおすすめCD (vol.15)

get "the Innocent Age"Dan Fogelberg がデビューした時のキャッチ・コピーは、 『たったひとりの CSN&Y』だそうです。アコースティックなサウンド、美しいハーモニー。もちろん、これらを指して言ったのでしょう。

だけど、1972年にデビューした頃は、繊細でありながらも地味なイメージが付き纏いました。多くの楽器を演奏するマルチ・プレイヤーぶりも、ノリが悪いなどと言われる始末。しかし、キャリアを重ねるごとに確実に実力をつけ、そんな評価を吹き飛ばしていきます。


彼の転機になったのは、ジャズ・プレイヤーの Tim Weisberg と共同製作した、"Twin Sons of Different Mothers" (1978年) だったかもしれません。実験的なサウンドなのに、これまでの彼のアルバムでは、最高のセールスを記録。また翌年、全米2位の大ヒット曲 "Longer" を含む "Phoenix" を発表。俄然注目を浴びます。そんな経緯を踏まえて作られた、2枚組みのアルバム。また、当年30歳となる事からも、この "the Innocent Age" は、それまでの彼の音楽の集大成と言えるでしょう。

アコースティックなサウンドと、美しいハーモニー・・・。

そう、それまでの彼の音楽そのものです。だけど美しいコーラス・ワークも、よく聞けば、かなり複雑に重なり合っています。それも、一部の曲で EaglesHenley/Frey などが参加しているものの、ほとんどが本人だけの多重録音。演奏にしても、ギターは全て本人のプレイの他、ベース、シタール、ピアノ、パーカッション・・・。マルチ・プレイヤーとしての Dan Fogelberg の実力を見せつけました。

歌詞やメロディーはどうでしょうか。繊細な彼の心を感じさせる曲と、力強いサウンドに、元気を分けてもらえるような曲。統一されたアルバムの流れの中に、二つのタイプの曲が存在します。

力強さを感じさせる曲の代表は、オープニングの "Nexus" でしょう。
壮大なこの曲の構成は、過去のアルバムを踏まえて、更に成長した彼の姿が伺えます。このアルバムにはインスピレーションを受けたアーティストとして、the Beatles, the Buffalo Springfield, the Byrds など、21のアーチスト名が記述されていますが、その中の一人 Joni Mitchell が、この曲の対旋律を歌っています。

そして、彼がいかに繊細な心の持ち主か、それを教えてくれる曲には、次の3曲を挙げるのが適当でしょう。

"Run for the Roses" (全米18位)。彼が演奏するイントロのピアノから、優しい歌声が始まると、広大なアメリカの大地が思い浮かぶんですよね。彼が生まれた町の景色でしょうか。
続く "Leader of the Band" (9位) は、アコースティック弾き語りの曲です。この曲の歌詞、泣いちゃいますよ。終奏にリンクした "Washington Post March" が、この曲のイメージを更に膨らませてくれます。
そして "Same Old Lang Syne" (9位) は、再会を静かに歌います。こんな、何気ない人生の一幕を描写するのも、彼の得意とするところかもしれません。

他にも、Emmylou Harris とデュエットした "Only the Heart May Know" 、大ヒットした "Hard to Say" (7位) など、聴き所の多いこの "the Innocent Age" (全米6位)。これまでの彼の集大成というだけでなく、文句なしに最高傑作と言えます。


その後も、カントリーやロック、ジャズのエッセンスも鏤めながらも、フォーク・ソングにスタンスを置いて、彼は音楽活動を続けています。いつまでも繊細な気持ちを忘れずに、いえ、だんだんと優しさも増していく Dan Fogelberg 。彼の音楽を聴いてもらえるのなら、この "the Innocent Age" を一枚目に選んでもらいたいなと思うんです。


[追記: 2007年12月16日、Dan Fogelberg は前立腺癌により亡くなりました。ご冥福をお祈りいたします。]

the Innocent Age
1:1. Nexus (光年の果てに) / 2. the Innocent Age / 3. the Sand and the Foam (幻の旅路) / 4. in the Passage / 5. Lost in the Sun / 6. Run for the Roses (バラに向かって走れ) / 7. Leader of the Band (バンド・リーダーの贈り物) / 8. Same Old Lang Syne (懐かしき恋人の歌)
2:1. Stolen Moments / 2. the Lion's Share / 3. Only the Heart May Know (流れ星のバラッド) / 4. the Reach (妖精の港) / 5. Aireshire Lament (魂の嘆き) / 6. Times Like These (時の流れを超えて) / 7. Hard to Say (風に呼ばれた恋) / 8. Empty Cages (虚な翼) / 9. Ghosts
produced by Dan Fogelberg with Marty Lewis / recorded at Northstar Studios, Boulder, CO, Rudy Records, Hollywood, CA, Wally Heider Studio, Hollywood, CA, Sunset Sound, Hollywood, CA & Record Plant, Sarsalit, CA
Dan Fogelberg (web site: http://www.danfogelberg.com/
born on August 13, 1951 in Peoria, IL; died of prostate cancer on December 16, 2007 (age 56).

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posted by 進藤むつみ on Autumn, 2004 in 音楽, 1980年代, シンガー・ソングライター

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