Tango in the Night / Fleetwood Mac
タンゴ・イン・ザ・ナイト / フリートウッド・マック 1987年
進藤むつみのおすすめCD (vol.48)
なんという、甘く美しいサウンドでしょうか。そして、恐ろしいほどのハイ・クオリティ。まったく5年間も解散状態にあったバンドが、こんな音を出せるものなのでしょうか。Lindsey Buckingham, Christine McVie, Stevie Nicks。強烈な個性を持った3人が、時にバックに回る事で、フロントに立つ歌手の魅力を更に引き立てています。そして、民主主義に従うように、交代で彼等らしい完璧なアルバムの流れを作っています。
もともと Fleetwood Mac は、フロントマンをチェンジする事で作品を作ってきたバンドでした。メンバーチェンジによる新鮮な風の呼び込み、そして新しい血肉による躍動。ひとつのアルバムの中でも当然、時代ごとに作風もまったく変わっています。メンバーチェンジの多いバンドといえるでしょう。そんな彼等の歴史の中で、黄金期と呼べるメンバーによる最後のアルバムが、この "Tango in the Night" なのです。
1967年に結成した Fleetwood Mac は、John Mayall & the Blues Breakers のメンバーだった Mick Fleetwood と John McVie(参加は結成2ヶ月後)を中心に、同じくメンバーの Peter Green をフィーチャー。Jeremy Spencer を加えてダブル・ギターはゴリゴリのブルース・バンドでした。ただ、のちに Santana にカバーされる "Black Magic Woman" のように、ラテン風リズムの曲などがある辺りが、他のブルース・バンドとは違うところだったかもしれません。
その後、Danny Kirwen を加えてトリプル・ギターになる頃から、作風が変わりはじめます。Green 脱退後の "Kiln House" はフォーク・ロック風、Christine McVie とアメリカ人の Bob Welch が参加する "Future Games" からは、アメリカのマーケットを意識したサウンド作りを展開します。ただし、当時の最大のヒット・アルバムが全米34位の "Heroes Are Hard to Fine" 、シングルはチャートに送り込めなかったのですから、成功にはほど遠いものだったかもしれません。
彼等の転機が訪れたのは、Buckingham=Nicks が加入した "Fleetwood Mac" (75年) からでしょう。なんと58週かけてチャートの1位に到達したこのアルバムは、時代の空気をポップなサウンドで表したものでした。そして、次作 "Rumours" (77年) はチャート1位を31週キープしたのです。これは、Michael Jackson の "Thriller" (83年) が37週を記録するまで、単一ミュージシャンとしての記録でした。
しかし、79年 "Tusk" を最後に、一時活動停止を宣言する事になります。これには、人間関係の複雑さもあったのでしょう。Buckingham = Nicks、John & Christine McVie という、二組の元カップルがいるバンドでしたから。82年に "Mirage" を発表するものの、前後にメンバーの4人が8枚のソロ・アルバムを発表。"Mirage" から5年、誰もがすっかり解散したものと思っていました。
そこに発表されたのが、この "Tango in the Night" (全米7位) でした。そしてこのアルバムは、過去のどの作品より纏まりがあり、そして独特の魅力が溢れています。これは7曲を作り、全曲をアレンジし、プロデュースも共同で行った、Lindsey Buckingham のポップ・センスを証明するものだと思うんです。
アルバムは、Lindsey の "Big Love" (5位) で幕を開けます。独特のリズム感が気持ちのいい曲。だけど、この纏まりの良さ!。隙がないというよりも、ズッシリと詰まった無駄のないサウンド。今までになかった完成度の高さは、この1曲目だけで証明できると思います。そして、Stevie との『ため息の掛け合い』は、官能的というよりは洒落だと思いますけど、やっぱり曲の魅力を高めているんですよね。彼はソロアルバムでこれだけ魅力的な表現はできてないし、ホントにちょっとした事なんだけど、このメンバーで集まる意味はあるような気がするんです。
次の "Seven Wonders" (19位) は、Stevie のヴォーカル。もともと『妖精』とか『小悪魔』とか言われていた彼女のヴォーカル(風貌)も、この時期になると単に『悪魔』と言いたくなるほど、独特の存在感を醸し出しています(笑)。たぶん・・・他に誰も真似できない声なんですよね。真似できたとしても、彼女のように魅力的に歌い上げる事はできないでしょう。こうした唯一無二が、彼女がソロでも成功した理由なんだと思います。
Christine の "Everythere" (14位) で、バンドの民主主義が完成します(笑)。彼等3人のフロントマンは、曲調も声もそれぞれ独自のものを持っています。コーラスを取る時には引いて歌ってるんでしょうけど、それぞれのパートを一度聴いただけでコピーできるくらいの個性です。それなのに、順にヴォーカルを取っているのが、少しも不自然じゃないんですよね。アルバムの中のごく自然の流れ、当然こうあるべきという風に感じられるんです。だけど、この辺の予定調和に感じられる部分が、好きでない人には許せないかもしれませんね。
この他も、最後まで気を抜けない曲が並びます。
"Tango in the Night" のドラマチックなソロを聴くと、Lindsey のギターはもっと評価されるべきだと思うんです。そして、このアルバムからの最大のヒット "Little Lies" (4位) は、Christine の魅力を再評価したくなります。"Family Man" は Lindsey のソロ作品で聴けそうな曲だし、"Welcome to the Room...Sara" は Stevie のソロ作品ですね。バラエティ豊か。ポップな "You and I, part. II" で幕を降ろすまで、無駄な曲どころか、無駄な音ひとつないサウンドが繰り広げられます。
通して評価するならば、やはり Lindsey Buckingham の貢献の高さです。彼の頑張りがなければ、この時期の Fleetwood Mac が、これほどの作品は作れなかったでしょう。ポップで、個性的で、魅力に溢れて、纏まりがって・・・。だけど彼は、ソロでこれほどの作品は発表してないんですよね。それを思うと、やはりバンドとしての力であって、上手く整理していたのが Lindsey だったという気もするんです。
さて、実質は解散状態にあったといえ、10年以上にわたる黄金期のメンバーでの活動は、このアルバムで終わりになります。直後に Lindsey Buckingham が脱退。ツアーを含めたルーティン・ワークに疲れたとも、バンドの民主主義が嫌になったとも言われています。これほどの人材がいなくなれば、普通は解散になるでしょう。
しかし Fleetwood Mac は、Billy Burnette と Rick Vito を加えて活動を再開。90年には "Behind the Mask" を発表します。しかし、ここで Stevie Nicks が脱退。Christine McVie もツアーに出ない宣言をしました。でも・・・解散しないんですよね。Delaney & Bonnie の娘 Bekka Bramlett や、なんと Dave Mason を加えて "Time" (95年) を発表。しぶといです(笑)。
ところが残念な事に、MTV アンプラグドの特番のために、黄金期のメンバーでの再結成となりました。その時のライヴ "the Dance" (97年) が全米1位。"Time" メンバーでの活動は空中分解になってしまいました。あたし期待してたんですよ。続けていったら、面白いと思ってたんだけどなあ。
彼等の最新作 "Say You Will" (2003年) は、黄金期メンバーから Christine 抜きの4人でプレイしています。サウンドは "Tango in the Night" の流れですね。曲も演奏も魅力も、何もかも・・・それなりなんですよ。なんかね、Christine 一人いないだけで、民主主義が崩れちゃってるんですよ。Buckingham = Nicks の二人フロントだと、ちょっと物足りなく思っちゃうのは、あたしって贅沢なんでしょうか?。
- Tango in the Night
- 1. Big Love / 2. Seven Wonders / 3. Everywhere / 4. Caroline / 5. Tango in the Night / 6. Mystfied / 7. Little Lies / 8. Family Man / 9. Welcome to the Room...Sara (ウエルカム・セーラ) / 10. Isn't It Midnight (ミッドナイト・ラヴ) / 11. When I See You Again (ホワッツ・マター・ベイビー) / 12. You and I, part. II
- produced by Lindsey Buckingham & Richard Dashut / recorded at Rumbo Recorders & the Slope
- Fleetwood Mac (web site: http://www.fleetwoodmac.com/ )
- Lindsey Buckingham, Mick Fleetwood, Christine McVie, John McVie & Stevie Nicks
- Lindsey Buckingham (web site: http://lindseybuckingham.com/ )
- born on October 3, 1949 in Palo Alto, CA.
このアルバムはよろしいですよお。
あんまり有名なんで書かなかったんですけど。
きれいですよね。
うっとりしますね。
>osaさん♪
よかった、ホントに美しいアルバムですよね。
Fleetwood Mac って、マニア的には初期のブルースが命だし、一般的にはやっぱり "Rumours" のファンが多いと思うんです。"Tango in the Night" って、決して低い評価じゃないけど、評価される事が少ないアルバムだと思うんですよ。
一瞬あたしも、ひよって "Rumours" の紹介をしようかと思ったんだけど、うん、好きなアルバムのお話をして良かった。・・・もちろん、"Rumours" も嫌いじゃないんですけどね♪。
ああ、Stevie Nicks!!!
>この時期になると単に『悪魔』と言いたくなるほど、独特の存在感
って所でぶんぶんぶんとPCのこちら側で頷いてしまいましたが。
>kazooさん♪
可哀想な Stevie・・・って、そう言ったのはあたしか(笑)。
バンドに参加した頃は当然、ファースト・ソロを出した頃でさえ、こんなじゃなかったと思うんですよね。だんだん本性が出てきたのか、それとも研ぎ澄まされてきたのか、あたしにはわかりませんけれど・・・。
むつみ様、お久しぶりです。
フリートウッドマック、僕も大好きです。
初期Peter Green'sのゴリゴリのブルースロックもいいですし、 Danny Kirwenのフォークロア路線も好きです。Christine & Bob時代の"Heroes Are Hard to Fine" は傑作で、もちろん大ヒットした"Fleetwood Mac "や"Rumours"も素晴らしい作品です。
そして、"Tango in the Night"。。。僕の中では、"Big Love"、"Seven Wonders"、"Little Lies"の3曲に尽きます。それぞれ3人のベストチューンと言ってもいいぐらいの傑作だと思います。
まぁ、味わいは違うけど、どの時代のマックも素晴らしい。。ということですね。つまり。
僕も70年代以降は、Christineこそがマックの支え、マックの母だと思っていましたので、彼女がいなくなったのはとても寂しいですが、まぁこれも時代の流れなのでしょうね。
こんばんわ☆
このバンドのお名前を先日TSUTAYAで見かけていたので(実は変な名前のバンドぉ~☆と思っていた)今日借りに行ったんですが、このアルバムではありませんでした。 『噂』とか言う邦題だったんですが、それは止めてベストが一枚あったのでそっちを借りてきました♪ 『Big Love』と『Seven Wonders』が入っています。 聴きながら記事を読むとまた味わいが違いますね♪ 今聴き始めたばっかりなので感想はまた今度♪
>onomichiさん♪。ホントにお久しぶりです。うちなんか、もう忘れられてるのかと思ってました(笑)。
そりゃあ onomichi さんのレビューは拝見していますから、『大好き』というのは存じております。もちろん、"Heroes Are Hard to Fine" がお気に入りなのもね♪。間違いなく Bob の時代の最高傑作でしょうね。曲の魅力もアルバムの完成度としても。だけどね、Bob 時代であたしが一番好きなのは、"Bare Trees" だったりするんですね♪。この辺りの一筋縄ではいかない好みが、あたしの趣味の複雑さを表しています(笑)。
"Tango in the Night" を支えたのは、もちろん全てに於いて張り切った Lindsey でしょうが、楽曲として考えた時には Chiristine の頑張りだったと思うんですよ。それだけ彼女は、この時代でも輝いていると思うんです。ただ、やっぱりそれも三人揃い踏みしてだと思うんですけどね。
だけど、実際どの時代を聞いても楽しめますよね。全アルバムを押さえているあたしとしては、逆にだらだらとした紹介になってしまって恥ずかしい思いです。
機会があれば、またお寄りくださいね♪。
>usagi3さん♪
あぁっ〜!、聴きながら読むのは、恥ずかしいから止めて下さい!!。
いや、まあ、嘘は書いてないつもりですが・・・読み返してみると、曲の紹介がほとんどありませんね。欠陥レビューだな。ちょっと書き直しますか・・・って、きっとそのままになりますね(笑)。
それと説明不足で申し訳ありませんが、"Rumours" がチャート1位の記録だったという "噂" なんです。だけど、ベストだと一応は抑えられますか。
≪ロック☆スクラップ≫でのレビューを、楽しみにしています♪。
むつみさんのレビューはいつも楽しみにしていますよ。これからもぜひ続けてくださいね。
"Bare Trees"も素晴らしいですねー。僕も大好きなアルバムです。
特に最初のダニーの"Child of Mine"、ボブの"Ghost"、クリスティンの"Homeward Bound"、そしてインストの名曲"Sunny Side of Heaven"と繋がるところなんて最高です。3人のブルース&ポップフィーリングが溢れた楽曲が気持ちいいです。ボブとクリスティンの絡む"Sentimental Lady"もいいナ。ダニーの"Bare Trees"や"Dust"もクリスティンの"Spare Me a Little of Your Love"もカッコいい。
まだまだダニー健在で、この3人もバランスとしてはとても良かったんだけど、、、如何せん売れませんでしたね。。。
なんか好き勝手書いてしまいましたが、、、マックはいいです!また寄らしていただきます!
>onomichiさん♪
1,2,3・・・、えーと8曲あげられてますが、"Bare Trees" は10曲入りのアルバムなんですけど(笑)。あげてないのは・・・"Danny's Chant" と詩の朗読ですか。この2つはちょっと違いますものね(笑)。
オープニングからの4曲・・・LPでいうとA面だった4曲ですが、この流れはホントに見事でした。それぞれの個性を生かしながら、バンドとしての調和も取れているような気がします。ただ "Sentimental Lady" は、あたしは Bob がソロでセルフカバーしたイメージが強すぎちゃって。まあ、ソロは Lindsey & Christine のサポートなので、どちらが Bob らしいかは難しいところなのですが・・・。
まあ、あたしは "Bare Trees" 一曲でノックアウトされたくちです。もう、格好良すぎ!。こういう曲が好きなんですよ。今聞くとちょっと古さを感じさせますけどね。 ・・・そうか、"Tango in the Night" は古びないんだ。まあ、発売されてから、まだ18年しか経ってないからかもしれませんけど。
こちらこそ好き勝手・・・、まあ本文エントリーからしてそうですが、好き勝手やってますが、どうか、また声をかけてください♪。
ちは☆ 毎度恒例(こちらではお初ですが)の『記事を借ります♪』のご挨拶です。 よろしく♪
>usagi3さん、どういたしまして♪。
楽しませていただきました。挨拶なんて別にいらないのに・・・。
はじめまして むつみ様
フリートウッドマックの「tango in the night」を検索していましたら むつみ様のT'sな日記にたどりつきましたのでコメントさせてください。
ぼくは この「tango in the night」のアルバムをもっています。その中で「welcome to the room..sara」が一番のお気に入りです。
なんでこのwelcomeをシングル化しなかったのか不思議です。「sara」の続編とか説明書にかかれておりました。でも「sara」から「welcome」へは曲調はドラマチックにガラリと変化してます。'82年の「mirage」からのシングル「hold me」に匹敵するビルボードチャートに上昇してたと思うんですよねぇ~。
>zebraさん、はじめまして♪。コメントありがとうございます。
"Welcome to the Room...Sara"、いいですよね。ある意味、最も Stevie らしい "Sara" を踏まえていて、それでなお新しい世界やドラマを展開しているとあたしも思います。
なのに、何でシングルカットしなかったかと考えると・・・、本文でも少し触れたけど、Stevie のソロ色が強過ぎるからのような気がするんですよね・・・って、Lindsey 色が強い "Family Man" はシングルカットしてるんだよな(汗)。おかしいな。えーと、あとは、アルバム発売直後に Lindsey が脱退していて、ツアーは新メンバーを加えて行ってたわけで、早く Lindsey 色を消したかったとか・・・って、だから "Family Man" はどうなる(笑)。うーん、シングル化の経緯はまったく想像がつきません。
ただ、このアルバムって、どの曲もシングルに出来るだけのクオリティを持っていると、あたしは思うんですよね♪。
追記:様は止めてくださいませ(汗)。ビックリしちゃいます。
わかりました、むつみさん 様はナシにしますね。
ところで個人的な事ですが 私は今日は34才の誕生日です。(昭和51年6月9日生まれ)
友達と食事にいきま~す(^-^)v
welcome to the room...sara こそシングル化すべきでしたよ。
>Stevie のソロ色が強過ぎるからのような気がするんですよね だったらなおさらシングル化すべきですよ~
それこそstevie嬢のドラマチックvocalの真髄のはずです。むつみさんもそれは理解されているのでは...
ビルボードチャートではdreamsまではいかないにしても少なくともsaraより上昇しhold me やlittle liesと同じくらい売れ行きはあったと私は思いました。
>zebraさん♪
おお、お誕生日おめでとうございます☆。美味しいお食事でしたか?。歳の話はトップシークレットだから内緒ですけども、あたしのが余裕で上ですね(笑)。
"Dreams" はリアルタイムでじゃないけど、あたしが最初に Fleetwood Mac にハマった曲でありまして、この曲に関してはチョット冷静に比べる事ができなかったりします。・・・と言うより、今でも彼等の中で一番ときめく曲なんですよね。もう、良い悪いを越えて、あたしの中で存在してる。ただ・・・、全米1位になる曲かといえば、そうでもないような気がしています。
"Seven Wonders" がシングル化されたのは、あたしは間違ってはないと思うんです。キャッチーでいかにもシングル向けの曲だし、そのつもりでオープニングの3曲を並べたんだと思う。ただ、それが予想外に売れなかったのかもなと。だから、もう1曲のシングルカットが、Stevie だけ見送られたのかなと、今ふと思いました。
だけど、zebraさんにとっては、"Seven Wonders" の代わりに "Welcome to the Room...Sara" がリリースされるべきだったって話ですものね。うーん、どうだろう?。あたしにはちょっと分からないなあ。
余談だけど、前作の "Sara" って、あたしにとっての "Dreams" 以上に、Stevie の象徴って考える人が多い曲のような気がします。
益少なし。言葉が多く、多く語るほどにFleetwood Macの良さがぶち壊しになっていくようだ、このサイトは。もっと言葉を吟味して使ってほしい。
一生懸命書いてるんですけどね。まあ、これがあたしの文章力のレベルと言う事であります。参考にできるトコロだけ、抜き出してご覧くださいませ。