Give Out but Don't Give Up / Primal Scream

ギヴ・アウト・バット・ドント・ギヴ・アップ / プライマル・スクリーム 1994年
進藤むつみのおすすめCD (vol.39)

get "Give Out but Don't Give Up"この Primal Scream のことは、何と言って説明すればいいのでしょう。初期のギター・ポップから、パンク、ハウスと、コロコロ変わる音楽スタイル。アルバムごとにサウンドを変えるミュージシャンはいても、まったく別のバンドと思える程スタイルを変えてしまうのはどうかなと思います。それも、全てヴァーチャルというか、偽物臭さが漂うんですよね。共通しているのは、Bobby Gillespie のヘナヘナしたヴォーカルだけ。

しかし、だからこそこのアルバムが生まれたのかもしれません。そして、このアルバムの事だけは、声を高くしてお話しなければなりません。プロデューサーに Tom DowdGeorge Drakoulias を迎え、メンフィスで録音された "Give Out but Don't Give Up"。強烈なルーツ色、南部音楽の香りがしてきます。まるで70年前後の the Rolling Stones と同じようなサウンド。そう、Stones が一番魅力的だった頃のね。・・・ただし、もっと偽物っぽいですけど(笑)。


the Jesus & Mary Chain のドラマーだった Bobby Gillespie を中心に、グラスゴーで結成された Primal Scream"Sonic Flower Groove" (1987年) でデビューした頃は、まるで初期の the Byrds を思わせる60年代のアメリカ、フォーク・ロック風のサウンドでした。ただし、異様に甘ったるい曲調とヴォーカルは、独特のギター・ポップを感じさせたものです。

ただ、これはギタリストの Jim Beattie の好みだったのかな。Jim の脱退後、サウンド・スタイルを大きく変えていきます。まずパンクへと変わったセカンドの "Primal Scram" (89年)、そして、サードの "Screamadelica" (91年) ではハウスへ。もはや、同じバンドのアルバムとは思えません。"Screamadelica" は、当時のイギリスの音楽界に与えた影響も大きかったし、内容的にはスゴかったんですけどね。そして誰もが、絶賛されたこの路線で進むと思っていました。

ところがまさかの三転目、Primal Scream はルーツ系ロックへと手を伸ばします。それも中途半端じゃないんです。メンフィスでの録音で、プロデューサーはなんと Tom Dowd!。ベテランというだけではなく、the Allman Brothers Band"Eat a Peach"Eric Clapton"461 Ocean Boulevard"Rod Stewart"Atlantic Crossing" など、数々の名盤を生み出してきた大御所です。しかも競演が、Muscle Shoals Rhythm SectionMemphis Horns!!。まったく信じられません。そしてアルバムから流れてくるサウンドは、ルーツ好きのあたしが望むそのものでした。


オープニングの "Jailbird" から、強烈に泥臭いです。前作と同じバンドとは信じられないくらい。どこか the Black Crowes を思わせるのは、彼等のデビューを手掛けた George Drakoulias が 共同プロデューサーとして支えているからでしょう。

過去の彼等のどの曲よりもワイルドな "Rocks"。いえ、ヴォーカルは相変わらずヘナヘナなんですけどね(笑)。思わず踊り出したくなるようなこの曲は、このアルバムからのファースト・シングル。そして、一番のお勧めです。ギターもドラムもホーンもコーラスも、相当ルーツっぽく泥臭いんですよ。だけど Bobby はこの曲の事を、クラブ・ミュージックのつもりでいたようです。

"(I'm Gonna) Cry Myself Blind" のサウンドは、メインストリームの Stones そのものです。生ピアノとアコースティク・ギターの絡み。このコーラスのとり方もそうですよね。「あぁ、あたしってこんな曲が好きだったんだな」と、思い出させてくれるようです。ホント、しみじみとして良いんですよ。

他にも聴き所は満載。その名の通りファンキーなリズムとホーンがご機嫌な、ダンスナンバー "Funky Jam"George Clinton が参加。また、Denise Johnson のヴォーカルをフィーチャーした "Free" は艶っぽく、アルバムの中で一番歌を聴かせているのはご愛嬌かな。最も Stones らしいサウンドを展開している、ノリの良い "Call on Me" もお勧めです。

アルバムを通して聴くと、ちょっと綺麗すぎ、纏まりすぎてると感じるかもしれません。ただ、決して中途半端な音ではありません。ゲストの多彩さに目を奪われがちですが、メンバー3人による曲作りからして、どっぷりと浸かっていると思います。彼等の中では特殊なアルバムになりますが、ルーツ系ロック好きの方は、素直にこのサウンドを楽しんでもらいたいと思うんです。


さて、ただし Primal Scream。このアルバムの後も音楽スタイルを変えています。今度はハウスやファンクをも飲み込んだ、ハードなダブって言えばいいのかな。そうなると、あたしの好みからは離れて行っちゃうんだけど、2000年の "Xtrmntr" が大傑作なあたり、ホントに評価の難しいバンドだと思うんです。


それならば、この "Give Out but Don't Give Up" は何だったのでしょう。自らのルーツを振り返るために、アメリカ南部へやって来た?。例えばサード・アルバムは、ハウスでも R&R がベースにあるのは分かりますからね。そしてこの時期、彼等は期待されるプレッシャーから、あまり良い精神状態ではなかったみたいだし。

・・・あたしは、そうじゃないと思うんです。意外と彼等って、時代の中をスイスイと泳いでいます。このアルバムにしても、単に時代の匂いを嗅ぎ分けたんじゃないかしら。決していい加減な作りではないし、ルーツにあるのも嘘じゃないにしろ、彼等としては一過性のモノだったような気がします。

アメリカ南部に行けば、こんな音を出すミュージシャンは多いし、こんな素晴らしいアルバムを作ることも出来るんですよね。だから、ルーツ好きの人間以外に、このアルバムからそういう評価が広がらなかった事が、あたしは一番残念に思うんです。

Give Out but Don't Give Up
1. Jailbird / 2. Rocks / 3. (I'm Gonna) Cry Myself Blind / 4. Funky Jam / 5. Big Jet Plane / 6. Free / 7. Call on Me / 8. Struttin' / 9. Sad and Blue / 10. Give Out but Don't Give Up / 11. I'll Be There for You
produced by Tom Dowd (4-6,8-11), Tom Dowd + George Drakoulias (1-3) & George Drakoulias (7) / recorded at Ardent Studio, Memphis, TN & Oceanway Studio, Hollywood, CA
Primal Scream (web site: http://www.primalscream.org/
Bobby Gillespie, Andrew Innes, Robert Young, Martin Duffy, Henry Olsen & Toby Tomanov
Bobby Gillespie
born on June 22, 1962 in Glasgow, UK.

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posted by 進藤むつみ on Winter, 2005 in 音楽, 1990年代, アメリカン・ルーツ

comments (6)

むつみさん、こんばんわ!
私の大好きなアルバムの紹介で寒いのに汗が出ました〜。
当時、高校生だったので(I'm Gonna) Cry Myself Blindを
聴くとその時の空気を思い出して、懐かしい気持ちになります。
クラブミュージック全盛の頃で、普段はクラブ系のを聴いてた
友達とかも、なぜかみんなこのアルバムは聴いてたので、
ある意味ボビーの考えと一致してたかも?
しかし、久々に聴こう♪と思って探したら見当たらない・・・
アマゾンで千円、買ってしまいそうです。

>まろさん♪
やったね、ピッタリはまりました?。当時が高校生とは許せませんけど(笑)。
(I'm Gonna) Cry Myself Blind なんて、きっとクラブ系から一番遠いトコにある音楽ですよね。それでも聴かせるなんていうのは、Bobby の時代を見る目が正しかったんだろうと思います。一致しちゃったかも?ですね♪。
だけど、CDはあるはずなんですよね?。それって、買った瞬間に見つかりそうな予感。・・・って、足を引っ張っちゃいけないか(笑)。

読み返してみたら、全然「おすすめCD」になってないことに気が付きました。うーん、少し書き直すかな・・・。

  再び記事を引用させていただきました♪  それにしてもやっぱりむつみさんの音楽エントリは整理が行き届いていて使いやすいですね(←ゲンキンなヤツ)

  ところで!  これ以外は聴かないとは言ったものの気になるのがパンクテイストのアルバムの事☆  なんていう名前のアルバムなんですか?  ちょっと聴きたいかもぉ~☆

>usagi3さん♪、ご自由にお持ち下さい(笑)。
目次ページって、存在を知ってる方には良いと思いますが、やっぱり一見さんには分かり難いかもしれませんね。目次へのリンクって、あちこちに置いてあるんですけどね。記事中のリンクを、もっと上手く使う必要があるのかもしれません。
彼等のアルバムで一番パンクっぽいのは、89年のセカンド "Primal Scream" です。結構荒めだし、素直にロックしてます。だけど、どのアルバムも Primal Scream になってるのが面白い♪。コロコロとスタイルを変えてみても、ベースに同じモノがあるからだと思うんですよね。usagi3さんの嫌いな "Screamadelica" にしても・・・

僕も発売当時結構聴きました。
イギリスのバンドがアメリカの南部国旗にサザンロック、なのにリズムが出だしからファンク風ロック。
本物で無さそうだけどそれぞれの良い所取りして上手く表現している。
当時の印象はインチキ臭いのか?
それとももしかして、これが新しいのか?
理屈は置いておいて単純にかっこいい。
このAlbumで初めて知ったので当時結構楽しみました。
このレビューを見て久しぶりに聴きました。
やっぱりいいけど最初の3曲ばっかり聴いてしまいました。
今になってプロデューサーやゲストを見るとこうなるのは納得です。

>うえださん♪
まあ、the Rolling Stones にしても Eric Crapton にしてもイギリス人なわけだから、サザンロックに憧れてプレイするのは可笑しくはないんだけど、どうにも Primal Scream だけはフェイクくさいんですよね。どっぷりと南部に浸かって録音してるわけで、結構本格的なはずなのにそう思う。不思議だなあ。それでも単純に楽しめるサウンドですけどね。
ちなみに買うかどうか悩んだ時の決め手は、あたしはプロデューサーだったりします。・・・っていうか、アルバム自体がプロデューサーの作品でもあると思ってます。

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