Nevermind / Nirvana

ネヴァーマインド / ニルヴァーナ 1991年
進藤むつみのおすすめCD (vol.22)

get " Nevermind"なにも今さら言うまでもなく、"Nevermind" は90年代の最重要アルバムである事はもちろん、ロック史上片手で数えなければならない程のアルバムでしょう。それは、単にセールス的(全米1位)な事を言ってるのではありません。オルタナティヴ・ロック、グランジのミュージック・シーンに与えた影響は、後進のミュージシャンにとどまらず、ベテラン・アーティストを唸らせ、レコード会社の姿勢をも変えさせてしまいます。もちろん、単純にとても素晴らしいアルバムなんです。しかし、何故そこまで認められるアルバムを、作り上げる事ができたのでしょうか。


リーダーの Kurt Cobain の才能が、その一番の理由でしょう。ポップ・センス溢れるメロディーは、彼が敬愛する Sonic YouthIggy Pop が絶賛したというライヴや、重くハードなアルバムの中で注目される事は少ないのですが、あたしは10年に1人の天才アーティストのものだったと思っています。

そしてこのアルバムから参加した、David Grohl のドラミングも忘れてはいけません。本当の意味で彼のドラムが生きるのは、次作の in Utero (93年) なのでしょうが、彼のパワーがバンドの音を変えたのは間違いありません。

また、その後 Garbage を結成する事になる、プロデューサーの Butch Vig との出会い(Vig は、当時シーンをリードしたプロデューサーでした)や、地元シアトルを離れてカリフォルニアでのレコーディングも、このアルバムのサウンドに影響をおよぼしたと思います。重いんですけど、決して暗くはないんですよ。・・・商業的とも言えますけどね。

他にも時代性など様々な要因も考えられますが、この先は少し曲を聴きながらお話したいと思います。

1曲目の "Smells Like Teen Spirit"(6位)が、全てを象徴しているでしょう。イントロのギターのカッティングに重なってくる、パワー溢れる強いドラムス。粗っぽく生々しいギター。ざらついたサウンド。もう、鳥肌が立つほどに衝撃的です。ところが Kurt のメロディーは、ポップなんですよ。絶望や孤立、そしてコーラスでも How Low? と歌い、重くハードなサウンドに乗せているのに暗くなってないんですよね。まったく不思議です。ただ、それはレコーディングしたカリフォルニアの明るく乾いた空気も、要因に挙げられるのでしょう。

そして "Come As You Are"(32位)などは、メロディー・メイカーとしての力を理解するのに、非常に分かりやすい曲だと思います。同じラインの繰り返しの穏やかな曲。それが逆に説得力を持つ事になります。ホント、じわじわと染み込んでくるんですよ。これはアンプラグド・ライヴを収録した "Unplugged in New York" (94年) を聴けば(必聴です!)、更に分かりやすいと思います。

他のどの曲を聴いても高いレベルで、素晴らしいサウンドなんです。Kurt のメロディーが Nirvana のサウンドと相まって、更に煌めきを増しています。「ロック史上片手で・・・」というあたしの言い方も、決して大袈裟でない事は、理解して頂けるのではないかと思います。

ただ、この "Nevermind" は、Kurt が望む以上の成功をもたらしました。彼は自ら「Beatles 以来の偉大なバンド」と言うように、成功を望んでいたんです。だけど、ここまで注目を浴び、時代の象徴と見られる事までは考えていなかったのでしょう。持病から逃れるために手を出したドラッグに逆に飲まれる事になり、そしてプレッシャーからノイローゼになります。

次作 "in Utero" のツアー中には、大量の精神安定剤を飲んで自殺を図ります。ツアーは中止。この Kurt の壊れていくさまさえ、ファンやマスコミは見つめてしまいました。そして、ドラッグの治療のために入院した病院からも脱走。最後は自宅の寝室で、ショット・ガンで自殺したところを、発見される事になります。


Kurt の死から10年・・・。生きていて欲しかったな。重圧を巧みにすり抜けるだけの、逞しさを持って欲しかった。そして2004年の現在、彼が何を歌うのかを、聴いてみたかったと思います。

Nevermind
1. Smells Like Teen Spirit / 2. in Bloom / 3. Come As You Are / 4. Breed / 5. Lithium / 6. Polly / 7. Territorial Pissings / 8. Drain You / 9. Lounge Act / 10. Stay Away / 11. on a Plain / 12. Something in the Way
produced by Butch Vig & Nirvana / recorded at Sound City, Van Nuys, CA
Nirvana
Kurt Cobain, David Grohl & Chris Novoselic
Kurt Cobain
born on February 20, 1967 in Hoquiam, WA; found dead on April 8, 1994 (age 27).

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posted by 進藤むつみ on Autumn, 2004 in 音楽, 1990年代, オルタナ

comments (6)

 こんばんは☆ 事情があってこの4.5日でようやく『ネヴァーマインド』を初めてマトモに聴いております(汗) なので、大変参考になりました♪ ありがとぉ~☆ あ、ちなみにイギー・ポップは3週間くらい前からかな? 一目惚れなんで(キャー☆) わし、おばさんでロック初心者という特殊な奴なんで、なんも知らなくて。 

 カート・コバーンさんはそんなお亡くなり方をなさったんですか。 なんか、ちょっと辛くなっちゃたな。 うん、これから本格的にニルヴァーナ聴こうと思います。

あ・・・恥ずかしい。聴いてるのなら、先に言って下さいよ。別のアルバムの紹介にしたのに(笑)。
コメントありがとうございます。だけど、"Nevermind" の魅力の1/100さえも、お伝えできなかったんじゃないかと思います。残りの99/100は、usagi3さんが実際に聴く中でつかんでもらえれば・・・って、何のためのCD紹介だ(笑)。
彼の死は、ホントに残念ですね。商業的に与えた影響も大きかったけど、Patti Smith や Neil Young は、そのショックを真正面から歌ったほどですから。
何はともあれ、じっくり聴き込んでもらいたいです。重いのに煩い音じゃないですから、全12曲が体に染みついてしまうまで、大爆音で聴く事をお勧めします。

と、Iggy Pop ですか・・・、難しいですね。彼もポップな面を合わせ持ってるんですよね。だけど、確かに一目惚れするだけの、魅力のある人です♪。

"Nevermind" が出た当時に聴いた時に受けた僕の印象はアメリカで初めてのパンクはこのAlbum、このバンドだということです。
Sex Pistols、Johnny Rottenの鋭い感性や勢いを感じました。
曲自体は非常に練られていてボリュームを上げて一気に聴くことが出来ます。
アメリカにも70年代からRamones、New York Dollsなどで初代パンクはあり実際にはアメリカで初めてのパンクで無い事は分かっています。
Sex Pistolsを含めて影響と言うより、しっくりくるのはバンドのルーツだと思います。
Ozzyがいた時の初期Black Sabbathのヘビーなリフ、John Lenonが作るBeatlesの美しいメロディーに合わせてSex Pistolsの精神といった感じです。
"Come As You Are"などこのバンドにしか無いオリジナリティーや作曲能力もあります。
NirvanaもSex Pistolsもどちらも時代と環境が生み出した本来人が持つ力以上の力が出た瞬間の記録だと僕は思っています。

>うえださん♪
ずいぶん昔なんだけど『あなたが選ぶ3人の天才ミュージシャン』っていう記事を書いたことがありまして、そこであたしは John Lennon と並べて Kurt Cobain の名前を挙げてました。
http://diary.mutsumishindo.net/etc/3.html

>Ozzyがいた時の初期Black Sabbathのヘビーなリフ、John Lenonが作るBeatlesの美しいメロディーに合わせてSex Pistolsの精神といった感じです。
これはなかなかな表現だなと思います。正直、あたしにはこういう文章は書けなかったりする。ただ、初代パンクっていうのはどうでしょうか?。うえださんの挙げられた Ramones や New York Dolls はもちろん、the Stooges に始まり Television がいて Patti Smith がいた。この時代のパンクは、やっぱりパンクの元祖に当たると思う。それが Sex Pistols に飛び火して、そしてまた一周してアメリカに戻ってきて、80年代以降の音楽へと繋がっていく。そんな歴史を顧みるとやっぱり Ramones の時代かな?・・・って思うんです。
あたしにとってはグランジであり、オルタナかなあ。そのジャンルや時代を支配したアルバム。余談ですけど、このアルバムがシアトルで録音されてたら全然違う事になっただろうな・・・と思っています。

パンクで言うとその通りですね。
僕の印象ではSex Pistolsの持つ「スピリット」を感じた事です。
パンクは元はアメリカで生まれたと僕も思っています。
僕はブルース、カントリー、Bob DylanやAC/DC、70年代パンク等幅広く好きなので色々聴きます。
パンクで特に好きだったのはNew York Dolls、Johnny Tunders、johnny thunders & the heartbreakers、初期Ramones(1st〜3rd)です。
Ramones 3rd と johnny thunders & the heartbreakersは今でもたまに聞きたくなります。

>うえださん♪
スピリットはそうかもしれませんね。
パンクから話が外れてっちゃいますけども、ご存知でしょうがオルタナカントリーというジャンルがありまして、あたしはこれに結構ハマりました。パンクからカントリーへ敬愛を持ってアプローチをする・・・。まあ、逆もあるわけだけど、一聴すると相反するようなジャンルにも、受け入れる懐がある事が嬉しいなと思っています。

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