Gaucho / Steely Dan

ガウチョ / スティーリー・ダン 1980年
進藤むつみのおすすめCD (vol.40)

get "Gaucho"美しいアルバムです。洗練された甘美なサウンドは、究極と言っても良いでしょう。一流ミュージシャンを贅沢なまでに配し、寸分の隙もないサウンドを作り上げました。更に、毒を含んだ抽象的な歌詞が、陰影に富んだ奥行きを感じさせます。

しかし、傑作と誉れ高い前作 "Aja" の躍動感や、2年後に発表される Donald Fagen のソロ、"the Nightfly" のような生っぽさがないのは何故なのでしょう。曲作りやスタッフに変わりはないのに、この "Gaucho" を聴くと息苦しい感じがします。デビュー以来進めてきた録音方法の限界、理想に到達してしまったが故の閉塞感が、漂っているのでしょうか。そのあたりを考えるには、「Steely Dan はどのようなコンセプトだったのか?」から、お話しなければなりません。


学生時代からのコンビの Donald FagenWalter Becker は、「作曲チーム」を目指していて、バンドとして活動をするつもりはなかったといいます。しかし「誰も取り上げてくれない」から、「自分たちの曲を演奏するため」に Steely Dan を結成したそうです。72年のデビュー・アルバム "Can't Buy a Thrill" では、彼等のセンスや無二のスタイルを感じさせるものの、普通のロック・バンドとしての形態でした。

バンド形式が崩れたのは、サードの "Pretzel Logic" (74年) からでした。ゲストの起用が多くなり、オリジナル・メンバーの Jeff Baxterthe Doobie Brothers に加入するために脱退。同じく Doobies に移籍する事になる Michael McDonald や、後に TOTO を結成する Jeff Porcaro らを補充するものの(サブ・メンバー?)、76年の "the Royal Scam" では『FagenBecker、プロデューサーが Gary Katz、エンジニアに Roger Nichols。あとは一流のスタジオミュージシャンを、要所要所に配置したプロジェクト』へと変わりました。

そして、彼等が辿り着いたのは "Aja" (77年) でした。ハイ・センスで無駄のないサウンド。ゲストの起用も贅沢を極めました。例えば "Peg" のソロは、7人(8人?)のギタリストの演奏の中から Jay Graydon のテイクを選んだと言われています。Larry CarltonRobben Ford らの没テイクがあるというんですから、ミュージシャンの使い方の贅沢さ、そして、彼等がどこまで拘っていたかが分かると思います。


その録音方法や拘りの延長線上に、この "Gaucho" があります。見事なほどに美しく洗練された、そして甘いサウンドに触れる事ができます。例えば、オープニングの "Babylon Sisters" を聴いて下さい。・・・完璧です。もう何の説明も要りません。

そういう訳にもいかないので(笑)少しお話しますが、複雑な和音はジャズからのもの。しかしベースにある R&B を含めて、様々な要素が溶け合っています。ロックでなくフュージョン系AORと呼んだ方が、しっくり来るかもしれません。ただ、そう簡単に言ってしまえない難しさが彼等の音楽にはあります。しかも退廃的な歌詞が、それに輪を掛けて複雑に感じさせています。

そしてなにより、研ぎ澄まされた無駄のないサウンド。例えば、ドラムのフィル・インから始まり、ベースとエレピ、左から小さくリズム・ギターが聴こえています。1回パーカッションが鳴ってから元に戻り、今度はホーンが入り、最後の2小節だけ右からギターのカッティングが入る。そして、歌が入ると同時に最初からなっていたギターのパターンが変わり・・・ってキリがありませんが(笑)、45秒のイントロにひとつの無駄もないんですよ。それぞれの楽器の奏でる音色や、全てが合わさった時のバランス。何か少しでも足りない、又は余分なプレイがあったなら、究極から離れてしまうように思えるほどの完璧さです。


これは、ノリの良い "Hey Nineteen" (全米10位) を含め、全ての曲でそう思わせます。ただ「2年間スタジオの同じ部屋をずっと押さえてた」を言われるように、少し行き過ぎてしまったようです。相当に細かく、継ぎはぎを繰り返したんじゃないでしょうか。彼等の頭の中にあるサウンドに、少しでも近づけようとしてね。コンピューターに頼っている今とは違って、生身の人間が演奏している当時だから、それはとてつもない事だったのでしょう。そして、それがこのアルバムから、息苦しさを感じさせる原因なのだと思います。

まあ、そうは言っても楽しみの多いアルバムです。多くのミュージシャンが参加していながら、まるでバンドが演奏しているような纏め方も良し。Dire StraitsMark Knopfler のギターが楽しい "Time Out of Mind" (本人は楽しくなかったようですがw) や、Larry Carlton のギターが泣く "Third World Man" に耳を傾けるのも良し。また、Tom Scott のホーン・アレンジに酔いしれるのも良いでしょう。聴き所満載です。「捨て曲のないアルバム」というのはありますが、最初から最後まで「一音の無駄もないアルバム」というのは珍しいと思います。たとえ窮屈で息苦しくても、そのマイナス面を抑えてしまう程の魅力溢れたアルバムなんです。


ただ二人にとって、この息苦しさは限界だったようです。デビュー以来進めてきた録音スタイルは、もはやこれ以上の発展は望めませんでした。そして、セールス的にも(本作は全米9位)到達してしまったのでしょうか。FagenBecker はコンビの解消を宣言、この "Gaucho" をもって Steely Dan は活動を停止しました。


そして82年、Fagen はソロアルバム "the Nightfly" (11位) をリリース。「Becker は何をやってたの?」と言われるほど、Steely Dan そのものの音が飛び出してきました。その上で、彼好みの黒っぽさを前面に出したサウンドは、とても良質のもの。これ以上ない大成功のソロ活動に、ファンは胸を撫で下ろしました。Becker はプロデューサーとして活動してたし、このままそれぞれの活動が上手く行ったのなら、物語は終わるはずでした。

ところが Fagen は、曲が書けない程の大スランプに陥ります。ほとんど活動もしないまま、"Kamakiriad" (93年) までは10年以上の年月が必要になりました。しかもアルバムの製作にあたり、プロデューサーに迎えたのは、Walter Becker でした。

翌94年、今度は Becker のソロアルバム "11 Tracks of Whack" に、Fagen が共同プロデューサーとして参加。もう Steely Dan は、再結成に向かう方が自然だったのでしょう。まずは95年、全米ツアーからのライヴ "Alive in America" を発表。そして、"Two Against Nature" (2000年)、"Everything Must Go" (03年) の2枚のアルバムは、"Gaucho" の直後に発表されたとしても不思議ではない内容でした。


"Gaucho" 後に二人がコンビを解消したのは、仕方なかったと思います。そのままの形で、続けての活動はできなかったでしょう。だけど、一緒にいなければダメな人って、世の中にはいるんですよね。この Donald FagenWalter Becker って原点の「作曲チーム」でいくとしても、きっとそういうコンビだろうと思うんです。

Gaucho
1. Babylon Sisters / 2. Hey Nineteen / 3. Glamour Profession / 4. Gaucho / 5. Time Out of Mind / 6. My Rival / 7. Third World Man
produced by Gary Katz / recorded at Soundworks, NYC, A&R Studios, NYC, Sigma Sound Studios, NYC & Village Recorder, W. L.A., CA
Steely Dan (web site: http://www.steelydan.com/
Donald Fagen (born on January 10, 1948 in Passaic, NJ) & Walter Becker (born on February 20, 1950 in New York City)

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posted by 進藤むつみ on Spring, 2005 in 音楽, 1980年代, ロック

trackback (1)

» Steely Dan/Can't Buy A Thrill from "IN THE WOODS"

ぼくは半名古屋人であるから、一応パチンコはうまい。 池袋では負けなしである。

comments (8)

むつみさん、こんばんわ☆
またもや自分語りしてしまうのですが、私の大好きなキリンジが
よく『和製Steely Dan』みたいな感じで紹介されているので
聴いてみたいアーティストだったのですが、どのアルバムから
手をつけていいのかわからず、今まで聴けてませんでした。
まず、むつみさんオススメのこの一枚から始めてみます♪

『Gaucho / Steely Dan』とは!
これは直球でござるな。
でわでわ、我輩も後塵を拝しつつも、とっておきのSteely Danを我が城で公開するでごわす。
例によって音楽評にはなっておらぬのよって、
がっかりするでしょうが、ご勘弁。

「一緒にいなければダメな人って、世の中にはいるんですよね」これで全てを表現されてるな~と思いました。でも、だからこそ息苦しくもなっちゃうんだな~。ラストワルツみたいなもんだったのかもな~、このアルバム・・・なんて。

>まろさん♪
もう、どんどん語って下さい(笑)。だいたい、あたしからして勝手な事を言ってるんだから、ここでは何を語ろうが大丈夫です♪。
どのアルバムにも特徴があるんだけど、聴きやすさも考えると "Aja" か "Gaucho" なんじゃないかなあ。・・・か、Fagen のソロの "Nightfly" ね。うん、あたしはやっぱりこのアルバムですね。ぜひ、お試しください。そして、感想を聞かせてもらえたら嬉しいです♪。

>osaさん♪
今回は直球でいってみました(笑)。音楽を聴き込んできた人は、この辺りのミュージシャンには必ず一言あるでしょうから、恥ずかしいんですけどね。
えー、"Can't Buy a Thrill" できましたか。確かに、ロックバンドのモノですね。
思ったのですが、あたしなんか音楽関係の仕事をしてる訳じゃなし、しょせんは素人じゃないですか。だから妙なうんちくより、そのアルバムの思いでとか、「このアルバムが好きだあぁっっ!!!」って叫ぶだけとか、その方がブログらしいような気がするんですよ・・・と言いつつ、きっと又うんちくを語るあたし(笑)。

>kazooさん♪
このレビューって、きっと最後の4行だけよかったんですよね。だいたい他の全てが、前フリのような気がしますから(笑)。
"the Nightfly" を聴いた時、ホントに Becker の存在意義は何?って、あたしは思っちゃったんです。全然 Steely Dan と変わらないじゃないって。だけど、その後の長い沈黙が、全てを説明してくれました。
ただ、直前の最後の共同作業だっただけに、相当このアルバムは重かったですね。ラストワルツ・・・は、どうでしょう?。あれってあたしは、Robbie だけが勘違いしてたような気がするんですよ。

『Robie Robertson』ってアルバムはどうかな?
むつみさんはお好きですか?

>osaさん♪
久しぶりに引っ張り出してきて、今聴いていました。87年という時代を考えると、上手くできてますね。共同プロデューサーの Daniel Lanois の色が強いでしょうか。ただ・・・、あたしは熱くはなれないかな。
Robie Robertson の才能って、本当にスゴイと思います。あたしも、最初に the Band に入っていったのは、彼が作る曲の魅力やプレイからでしたから。ただ聴き込んでいくうちに、「Band が the Band たるのは、Levon Helm がいるから」と感じるようになったんです。
その辺も考えるとライヴ活動の停止って、Robie Robertson が走っちゃったような気がするんですよね。Steely Dan の活動停止と同じで、仕方なかったのかもしれませんけど。
・・・って、すみません、あたしのレスが走っちゃいました(笑)。

そう、この人器用貧乏って感じがしますね。
いいんだけど、『LAST WALTS』でクラプトンと弾いてるのなんか、魅力ねえなあ、うまいけど熱がないっていうか…。
冷めてないかって。

>osaさん♪
デビュー当時の南部音楽に対する情熱と憧憬は、the Band の中でも強かったと思うんですよ。もちろん上昇志向もね。だけど、いつの間にか向いてる方向が、違ってきちゃったような気がします。うーん、冷めちゃったのかなあ・・・。

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