category: 音楽 > シンガー・ソングライター (21)
2018年
進藤むつみのおすすめCD (vol.79)
なんか妙な事をやっているな・・・と、いうのが第一印象。 Shakey Graves の "Late July" のプロモーションビデオを見た時の事なんですけどね。スーツケースにバスドラのキックペダルを2つ付けて、一つはパッドに当たるように、そして、もう一つは袋に包んだタンバリンに当たるようにして、スーツケースに腰掛けて、そのキックペダルを踵で踏みながらギターを弾いていた。
気持ちはわかるんですよね。ギター弾き語りをしていて最初に物足りなくなるのは、前奏はともかく間奏の間が持たない事。多くのシンガーがホルダーを付けてハーモニカを吹いたのはそう言う事だったろうし、彼の場合は、それは巧みなギターピッキングで乗り越えた。そして、次に悩むのは音の厚みがない事なんだと思います。ただ、それをこういう形でカバーした彼の発想力に加えて、それを実際に行ったその実行力に脱帽。まさに唯一無二のスタイルが誕生したのでした。
ただ、それが活かせたのは、曲の魅力、歌の魅力あってこそだと思うんですけどね。最初は際物のように思えた彼のスタイルだったのに、どんどんあたしが取り込まれて行ったのは、彼自身に魅力あってこそだったと思うんです。
2017年
進藤むつみのおすすめCD (vol.78)
俳優の方が演技をする場合、テレビと舞台では少し違ってくると思うんです。テレビの方がナチュラルっていうのかな。舞台の方が過剰な大きな演技になるんだと思う。その方が、舞台では伝わりやすいからだと思うんですよね。
対して、シンガーの場合もやっぱり演技をしていると思うんです。ロック・スターを演じるっていうんじゃなくて、例えば彼女の場合だと Nicole Atkins って歌手を演じているんじゃないかと思う。そして、その演じ方がね、彼女の場合、少し過剰なような気がするんです。思えば『Roy Orbison が父』と、自らのベースを語る彼女なんですよね。確かに Roy Orbison は過剰に自身を演じ切っている。その影響が、彼女の特徴的なヴォーカル・スタイルに現れているような気がするんです。
2016年
進藤むつみのおすすめCD (vol.77)
'the new Neil Young' と評される事もあるのは、もちろん Neil Young や Todd Rundgren が好きだったという事から来るのでしょう。だけど、あたしはそれはチョット違うんじゃないかと思うんです。確かに1970年代には、素晴らしいシンガー・ソングライターがたくさんいた。でもね、 Dylan Leblanc はそれらの先人たちに負けないくらい、繊細でいてデリケートな、心の琴線に触れる歌を歌える、21世紀の新しいタイプのシンガー・ソングライターだと思っているんです。
Dylan Leblanc は Louisiana 州生まれ。幼い頃に両親は離婚したそうです。7歳の誕生日にギターを手にすると、10歳の時に、ミュージシャンである父親の住む Muscle Shoals に行き、その仕事をするスタジオを遊び場に育ったとの事。バンド活動を経た 2010年、20歳になる年に自らのプロデュースによるデビュー・アルバム、 "Paupers Field" を発表します。
なにしろ、独特の憂いのある歌声が耳を引く。そして暗くて重い。スチール・ギターが味付けをしている曲が多いんだけど、そのスチール・ギターの明るさが、かえって暗さを引き立たせたりしています。そして、前作を踏襲した内容のセカンド、"Cast the Same Old Shadow" を2012年に発表。ファーストとセカンドを発表後は、 Lucinda Williams, the Civil Wars, Bruce Springsteen, the Drive by Truckers, Alabama Shakes らの前座としてツアーを行いました。
ドンファンのじゃじゃ馬娘 / ジョニ・ミッチェル 1977年
進藤むつみのおすすめCD (vol.74)
とりあえず、恋愛関係の話は置いておきましょうか。もちろん Joni は『私の人生は、愛と音楽を探し求めることだけで費やされてきた』と歌ったくらいだし、彼女の詩からはその時々の恋愛の影響が色濃く読み取れたりもする。感性を刺激されてる事はもちろん、自分になかったものを相手から受け取っている事も分かる・・・けど、まあ、キリがありませんから(笑)。
ただ『音楽を探し求める』っていうのは、すごく彼女らしいよなと思うんです。実際、デビュー当時から圧倒的な個性や存在感を持ちながら、少しずつ音楽のスタイルを変えているんですよね。初期の弾き語りを中心をしたサウンドから、だんだんとジャズに傾倒していったのは、まさに自分が求めている音楽を追っていった結果のように思えます。
だけど、逆に全く変わってない部分もあると思いませんか?。もちろん詩もメロディーも一聴して彼女だって分かったりするわけだけど、実は音の響きそのものが同じだなって感じたりもする。もしかしたら、どの時代のどのアルバムでも彼女の頭の中では同じ音が鳴っていて、ただそれを表現する方法だけを探し求めていたんじゃないかな・・・って、あたしは思うんです。
ヒューマン・ヴォイス / ケニー・ロギンス 1985年
進藤むつみのおすすめCD (vol.73)
あたしの中に何人かの自分がいると思う事があります。いえ、音楽の好みの話でね。基本的にカントリー・ロックが好きといっても、音楽に入り込んだのはフォーク・ソングからでした。日によってはしっとりとしたブルー・アイド・ソウルが聴きたい事もあるし、ロックンロールのリズムに身を任せたい時もある。どのあたしも嘘じゃない、本当の自分だと思うんです。
まあ、あたしの場合はその日の気分で聴く音楽を変えればいいだけだし、例えプレイするにしても『今回は』ですむ事でしょう。だけど、プロのミュージシャンにとってはそうはいかないと思うんです。ファンの人を唸らせるだけの内容も必要だし、レコード会社を納得させるだけのセールスも求められると思う。だけど、だからといってもう一人の自分を抑えてしまったら、それはそれで嘘になってしまうと思うんです。
自分を、ファンの人を、スタッフを、全てを納得させながら音楽のスタイルを変えていくなんて、それは同じサウンドを続けていく以上に難しい事なのかもしれません。
心のかけら / ジュエル 1995年
進藤むつみのおすすめCD (vol.68)
素朴・・・と言えばいいのでしょうか。繊細と言った方がいいのでしょうか?。それとも純粋と言うべきなのでしょうか。Jewel のこのデビュー・アルバムを聴いた瞬間、逆にこっちの方がどぎまぎしてしまったような気がします。それ程ストレートに、彼女の心が出ているように思えました。心の中にあるものを何ひとつ隠す事なく、あたしに見せてくれたように感じたんです。
だって、もうそのまんまなんですよね。考えている事が、真っ直ぐこっちに伝わってくる。それって、良いところも悪いところもね。例えば、瑞々しくて触れただけで壊れちゃいそうな素朴さを感じられる代わりに、自信のなさや不安さえもわかっちゃうんです。おいおい、もう少しガードした方がいいんじゃないの?。悪い人に付け込まれちゃうよ・・・なんて、あたしも余計な心配してみたりして(笑)。
だけど、このアルバムをレコーディングした時には、彼女はホントに自信がなかったのかもしれません。デビューする事はできたけど、このまま活動を続けていけるのかわからなかったんじゃないかしら?。そんな自信のなさが、そのままこのアルバムには録音されちゃったのかもしれません。でもね、この "Pieces of You" を一度でも聴いたならば、将来 Jewel という宝石の原石がどれほどの輝きをみせてくれるのか、誰もが気が付いたと思うんです。
妖しき夜 / マジー・スター 1993年
進藤むつみのおすすめCD (vol.51)
Mazzy Star のサウンドは不思議です。奇妙といっても良いかもしれません。サイケ色強いサウンドは、リーダーの David Roback のものでしょう。彼は80年代初頭から「ペイズリー・アンダーグランド」と呼ばれた、サイケデリック・リバイバル・ムーヴメントの中心にいましたから。ただし、淡々と繰り返すコード進行に余韻を残すサウンド作りは、この Mazzy Star の活動の中で研ぎ澄まされていったような気がします。
しかし、そんな独特のサウンドを飲み込んでしまうほど、Hope Sandoval のヴォーカルの魅力が占める割合が高いんです。幽玄といえばいいのでしょうか。霞がかかった闇の中から響いてくる細い声。それは幽体離脱した魂の叫びのようにも思えます。「午前3時の音楽を目指している」といわれたのは Cowboy Junkies ですが、もしかしたら Mazzy Star の音楽の方が、真夜中に相応しいのかもしれません。
アンジャニュウ / k.d. ラング 1992年
進藤むつみのおすすめCD (vol.49)
もちろんこの "Ingénue" を含めての話になりますが、90年以降の k.d. lang を知る人には、元々彼女がカントリー・シンガーだったとは信じられないでしょう。単純に音楽のスタイルを変え、カントリーから離れていったから言うのではありません。幅の広いサウンド・アプローチといい、クオリティの高い楽曲といい、ひとつの、それも保守的なカントリーの枠に収めておくのは無理だよなと、あたしは思うんです。
実際彼女は、ちょっとしたカントリー・シンガーだったわけじゃないんですよね。インディからデビューした当時から、地元カナダでは「最も期待される女性シンガー」と注目され、メジャーデビュー後はグラミー賞の「最優秀カントリー女性ヴォーカル賞」を受賞する程の歌手だったんです。そんな k.d. が保守的なカントリー界から脱皮するには、大きな決心が必要だったでしょう。しかし、そこから開放された事で、大きく成長する彼女の姿を見る事ができたのだと思います。
出逢いのときめき / ブレンダ・ラッセル 1983年
進藤むつみのおすすめCD (vol.47)
47回目になるこのCD紹介ですが、黒人アーティストの紹介は、今回が実は初めてになります。ルーツ・ミュージック好きのあたしにとって、R&B やブルースは重要な音楽だし、スワンプ感のあるサウンドも好きなんです。だけど、黒人アーティストがストレートにシャウトすると、ちょっとあたしには濃すぎちゃうんですよね。
もちろん黒人・白人という事で、聴く音楽を変えてるつもりはありません。実際、ロックやポップスの中心にいる黒人ミュージシャンも多いし、白人でもソウル・フィーリング溢れるヴォーカルを聴かせる人もいます。例えば以前紹介した Joan Osborne みたいにね。だけど、歌が上手で強烈に黒っぽい彼女にしても、やはり白人が歌ったソウル、ブルー・アイド・ソウルなんだと思います。そのくらいが、あたしにはちょうど良いんですよね。こんな話をすると、ブラック好きの人には笑われそうですけども。
さて、そんなあたしが紹介する黒人アーティストは、だから逆に黒っぽくない人になります。この Brenda Russell は、AOR を歌うシンガー・ソング・ライターで、ブルー・アイド・ソウルの感覚で聴けるかもしれません。事実、彼女が最も影響を受けたアーティストとして名前を挙げるのは、 Laura Nyro と Carole King だそうですから。まあ Laura の歌声は、黒人にしか聞こえませんけどね。
愛はすぐそばに / ヴァレリー・カーター 1977年
進藤むつみのおすすめCD (vol.41)
Valerie Carter の一番の魅力は何なのでしょう。透明感のある瑞々しさや、可憐で愛らしいさまなのでしょうか。確かにこのソロ・デビュー作を初めて聴いた時には、そんな第一印象を持たれるかもしれません。
だけど、当時親交のあった、多くの実力派ミュージシャンのバックアップを受けて製作された、この "Just a Stone's Throw Away"。ルーズなロックから、フォーク、ファンクまで、様々なエッセンスを含んだこのアルバムを聴き込んでいくにつれ、彼女の可能性の高さと力強さを感じるのではないでしょうか。可憐さと力強さ。そんなアンバランスさこそ、彼女の、そしてこのアルバムの魅力なんじゃないかと思います。
リヴァイヴァル / ギリアン・ウェルチ 1996年
進藤むつみのおすすめCD (vol.36)
初めて Gillian Welch の歌を耳にする時、きっと誰もがこのアルバムの発売日を確かめてしまうでしょう。「ネオ・フォーク・リヴァイヴァルの旗手」というレコード会社の売り文句。ブルーグラス系フォーク調や、カントリー・タッチのサウンド。確かに聴いたその一瞬は、懐かしい時代を感じさせてくれるんです。更に、ジャケット写真の姿も見てしまえば、少なくても50年、素直な感覚でいえば戦前まで時代を遡ってしまうと思います。
だけど、やっぱり彼女は90年代のアーチストです。この "Revival" を聴き終わる頃、「ネオ・フォーク・リヴァイヴァル?、オルタナ・カントリーでしょ!」、ほとんどの人はそう口にしたくなるじゃないでしょうか。ギター弾き語りベースのサウンドにして、このオルタナ感覚。これは彼女の感性はもちろんのこと、パートナーの David Rawlings の才能と、プロデューサーの T Bone Burnett の力など、色んな要素が合わさった結果であり、どれかひとつでも欠けてしまったら、このアルバムから流れてくる空気は違うものだったと思います。
レヴェリング - レコニング / アーニー・ディフランコ 2001年
進藤むつみのおすすめCD (vol.27)
Ani Difranco の音楽を、ひと言で言い表すのは難しい事です。元々はフォークをベースにした、アコースティック・パンクになるのでしょう。あたしは彼女の歯切れの良いギター・カッティングをはじめて聴いた時、とても驚きました。しかしその後バンド・スタイルになり、更に様々なエッセンスを取り入れるにつれて、簡単に説明できるジャンルではなくなってしまいました。これはデビュー以来全てのアルバムを、自身が経営するインディ・レーベルのライチャス・ベイブから発売するというスタイルが、彼女の音楽性の自由さへと繋がったのかもしれません。
ホリー・パーマー / ホリー・パーマー 1996年
進藤むつみのおすすめCD (vol.20)
Rickie Lee Jones meets Al Green。Holly Palmer がデビューする時、レコード会社が用意したコピーです。うーん、そう言ってもいいのかな?。彼女は影響を受けたミュージシャンに、二人の名前を上げていますしね。だけど、彼女のこのデビュー・アルバムからは、誰の音楽とも比較できない、個性的で独特のグルーヴを持ったサウンドを聴く事ができます。
バークリー音楽院で特待生だったというのですから、この人相当の才女なんですね。しかも美しい!。いえ、顔を見て音楽を聞く訳ではないのですが、天は二物を与える事もあるんだと、嫉妬したくもなります。プロデューサーは Kenny White と本人。共同名義とはいえ、デビュー作からセルフ・プロデュースなのは、彼女の実力の高さの表れでしょう。
チューズデイ・ナイト・ミュージック・クラブ / シェリル・クロウ 1993年
進藤むつみのおすすめCD (vol.18)
Sheryl Crow のセカンド・シングル "All I Wanna Do" は、文字通り時代をリードした曲でした。お洒落で垢抜けたサウンド、そして何気ない日常を巧みに描いた歌詞。90年代に登場した多くの女性シンガー・ソング・ライター、そのブームの先陣を切ったと言っても、異議を唱える人は少ないと思います。しかし、このデビュー・アルバムの他の曲はどうでしょうか。曲自体はオーソドックスなポップス、クラシックなロックの流れを汲んでるような気がします。
いえ、悪く言うつもりはありません。あたしが今まで聴いてきたアルバムの中で、もっともはまった1枚なんですから。だけど、セルフ・タイトルのセカンド (96年)、"the Globe Sessions" (98年)、そして "C'mon C'mon" (2002年) といった、その後の高レベルなアルバムとは、違う聴き方をしなければいけないと思うんです。時代の先進性を求めるのではなくてね。なにしろこの "Tuesday Night Music Club" は、彼女のルーツやベースにある音楽が、もっともストレートに出ているアルバムなんです。
カム・オン・オーヴァー / シャナイア・トゥエイン 1997年
進藤むつみのおすすめCD (vol.2)
今回ご紹介するのは Shania Twain の "Come on Over" です。これは「聴くと元気が出てくるアルバム」って言っちゃおうかな♪。
本当に綺麗な女性です。もの凄くスタイルも良いし・・・なんて、ビジュアル的な話はおいといて、Shania Twain は声が魅力ですね。媚びがなくてイヤらしくない。ちょっとハスキーで、変な言い方だけど「竹を割ったような性格だろう」と思えるような声。
そんな彼女が、夫でもある名プロデューサー Robert John "Mutt" Lange (AC/DC, Foreigner や Def Leppard のプロデューサー)の元で、爽やかなバラードから弾けるような軽快な曲まで、しかもカントリーとポップスを合わせたようなゴキゲンなサウンドに乗せて歌うんだから、元気が出ないはずはありません。