Revival / Gillian Welch

リヴァイヴァル / ギリアン・ウェルチ 1996年
進藤むつみのおすすめCD (vol.36)

get "Revival"初めて Gillian Welch の歌を耳にする時、きっと誰もがこのアルバムの発売日を確かめてしまうでしょう。「ネオ・フォーク・リヴァイヴァルの旗手」というレコード会社の売り文句。ブルーグラス系フォーク調や、カントリー・タッチのサウンド。確かに聴いたその一瞬は、懐かしい時代を感じさせてくれるんです。更に、ジャケット写真の姿も見てしまえば、少なくても50年、素直な感覚でいえば戦前まで時代を遡ってしまうと思います。

だけど、やっぱり彼女は90年代のアーチストです。この "Revival" を聴き終わる頃、「ネオ・フォーク・リヴァイヴァル?、オルタナ・カントリーでしょ!」、ほとんどの人はそう口にしたくなるじゃないでしょうか。ギター弾き語りベースのサウンドにして、このオルタナ感覚。これは彼女の感性はもちろんのこと、パートナーの David Rawlings の才能と、プロデューサーの T Bone Burnett の力など、色んな要素が合わさった結果であり、どれかひとつでも欠けてしまったら、このアルバムから流れてくる空気は違うものだったと思います。


大学を卒業するまでカリフォルニア州で育った Gillian Welch。音楽関係の仕事をしていた両親の影響もあり、子供の頃から音楽に親しむ環境にあったそうです。卒業後ボストン在住時に、その後行動を常に共にする David Rawlings と出会い、今まで以上の音楽活動にのめり込んでいったようです。後で詳しくお話しますが、この出会いは本当に大きかったでしょう。そして活動拠点をナッシュビルに移した後に、デビューを飾りました。

そして、大切なもう一人の登場人物は、プロデューサーの T Bone Burnett です。Sam Phillips の紹介の時にもお話しましたが、ベテラン・プロデューサーながら90年代にも the Wallflowers, Counting Crows といった大ヒットを飛ばし、オルタナ・カントリー・シーンになくてはならない立て役者の一人です。・・・というより、気になると思ったら彼が絡んでいたって、そんな事も多いんですよね。


さて、アルバムのサウンドに目を向けると、David Rawlings の存在が非常に大きい事が分かります。10曲中3曲は Gillian 単独の作品ですが、残り7曲は二人の共作なんですよね。そして演奏面でも、コーラス、ギター、ベース、キーボードと大活躍。ソロ名義のアルバムですが、実質的には二人のデュオ・アルバムなんだと思います。

それに加えて、T Bone のプロデュースが光ります。アーチストの個性を生かしながら、さらに高い所へと持っていくんですよね。しかも Jim KeltnerJames Burton などのベテラン・ミュージシャンがバックから支えてるんですからね。このアルバムが、悪いはずないじゃないですか(笑)。


オープニングの "Orphan Girl" での、アコースティック・ギターの絡み合い。そして穏やかな、懐かしさを感じさせるヴォーカル。これって、文句なしにフォーク・ソングです。それなのに、後半に進んでいくに従って滲み出てくるオルタナ色。この辺りが、3人の才能のぶつかり合いの面白さだと思います。懐かしいフォークのつもりで聴いていたのに、終わる時には90年代の曲にしか思えませんからね。

この曲は、Emmylou Harris"Wrecking Ball" (95年) でカヴァーしました。さすがに大御所というところをみせてくれます。ただ、作曲者本人の歌って特別なんですよね。二人のヴァージョンを聴き比べるのも、面白いかもしれませんね。


Gillian 本人の一番のお気に入りという、"Annabelle""by the Mark""Acony Bell" もそうですけど、なんと GillianDavid 二人のアコースティック・ギター(+コーラス)しか入っていません。ホントに地味です、地味なんですけどね。本来の彼女のスタイルは、この形で出来上がってるように思えます。そして、あたしがこのアルバムを二人のデュオと呼びたいのも、こんな曲があるからなんです。

ブルース・タッチの "Pass You By"。バックのギターは相当騒々しく鳴っているのに、不思議に静かな曲です。これって、「午前3時の音楽を目指してる」と言われた Cowboy Junkies に通じるものがあるかもしれません。

"Paper Wings" が、一番カントリー調に聴こえるのは、スティール・ギターやアップライト・ベースの音色のせいでしょう。だけど、全然正当なカントリーじゃないんです。オルタナティヴなんですよね。結局は、一番カントリーから遠い曲なのかも(笑)。この曲を Eddi Reader がカバーしたのは、興味深いことかもしれません。


表面的に聴いていただけなら、淡々と流れてしまうでしょう。だけど Gillian の感性の鋭さに気が付いたなら、David の才能を感じることができたなら、感動できるアルバムに変わると思います。そしてもうひとつ、一見ブルーグラス/フォーク風なサウンドなら、過去の名曲のカヴァーでも面白いですよね。いえ、その方が無難に纏まるかもしれません。だけど、全曲新曲なんですよ。それでこれだけのクオリティをもてるんだから、やっぱり彼等の力ってスゴイんだと思います。


Gillian Welch は、"Hell among the Yearlings" (98年)、"Time (the Revelator)" (01年) と、更に David Rawlings とだけのサウンドを展開することになります。"Time" に至っては、完全に全曲二人だけの世界。ここまで極端だと、この先どうなるか心配するほどでしたが、"Soul Journey" (03年) でバンド・スタイルに戻ってきました。うん、これで安心。そして、これからの彼等の活動も、あたしは楽しみになってきました。

Revival
1. Orphan Girl / 2. Annabelle / 3. Pass You By / 4. Barroom Girls / 5. One More Dollar / 6. by the Mark / 7. Paper Wings / 8. Tear My Stillhouse Down / 9. Acony Bell / 10. Only One And Only
produced by T Bone Burnett / recorded at Sunset Sound, Hollywood, CA. (add. Ocean Way Recording, Hollywood, CA, Sound Factory, Hollywood, CA & Woodland Digital, Nashville, TN)
Gillian Welch (web site: http://www.gillianwelch.com/
born on October 2, 1967 in NYC.

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posted by 進藤むつみ on Winter, 2005 in 音楽, 1990年代, シンガー・ソングライター

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