So Tonight That I Might See / Mazzy Star
妖しき夜 / マジー・スター 1993年
進藤むつみのおすすめCD (vol.51)
Mazzy Star のサウンドは不思議です。奇妙といっても良いかもしれません。サイケ色強いサウンドは、リーダーの David Roback のものでしょう。彼は80年代初頭から「ペイズリー・アンダーグランド」と呼ばれた、サイケデリック・リバイバル・ムーヴメントの中心にいましたから。ただし、淡々と繰り返すコード進行に余韻を残すサウンド作りは、この Mazzy Star の活動の中で研ぎ澄まされていったような気がします。
しかし、そんな独特のサウンドを飲み込んでしまうほど、Hope Sandoval のヴォーカルの魅力が占める割合が高いんです。幽玄といえばいいのでしょうか。霞がかかった闇の中から響いてくる細い声。それは幽体離脱した魂の叫びのようにも思えます。「午前3時の音楽を目指している」といわれたのは Cowboy Junkies ですが、もしかしたら Mazzy Star の音楽の方が、真夜中に相応しいのかもしれません。
Mazzy Star のバンドの要、サウンド作りの中心は David Roback です。彼は Rain Parade の一員として1983年にデビュー。アルバム1枚でバンドは辞めたものの、その後もムーヴメントの中心で活動し、87年には Dream Syndicate の Kendra Smith と二人で Opal を結成します。Kendra の脱退により消滅してしまうユニットが、 Mazzy Star の前身になるんです。そう、Hope Sandoval は Kendra Smith の後釜として、Mazzy Star に参加したようなものでした。
Mazzy Star は90年、名盤の誉れ高い "She Hangs Brightly" でデビューします。NMEやローリング・ストーン誌など、多くの音楽誌が年間ベストアルバムにあげる程高い評価を受けながら、セールス的にはレコード会社の倒産もあり散々なものでした。そして、このアルバムは非常に David Roback 色が強いものでした。彼を一心に信頼していたという Hope Sandoval のヴォーカルは、魅力的でありながらも David の掌の中にあったような気がするんです。
そして93年、この "So Tonight That I Might See" が発売されますが、ここで Mazzy Star サウンドが完成したといっていいでしょう。前作ほどのポップさはないものの、バンドの音作りも深みが増しています。Hope のヴォーカルも、自由に空に漂っているようです。そしてなによりも・・・Hope が完璧に David を飲み込んでしまってるんです。
オープニングの "Fade into You" は、アコースティック・ギターのストロークと生ピアノがバックの優しい曲。しかしこの1曲を聴いただけで、前作のレベルを遥かに上回っている事が分かります。彼等のサウンドが完成したのが分かるんです。
そして、やはり Hope Sandoval のヴォーカルです。なにしろ線が細いんですよね。触れてしまったら壊れてしまいそうに思えるくらい。ホントは声が出ていないのに、無理やり録音してるような気さえするんです。ギリギリの彼女の叫び・・・。
だけどね、それは第一印象で、じっくりと聴いていくともっと深いんですよね。静かなサウンドに乗った彼女の歌声は、さらに静寂を深めていきます。霧の中から響いている声・・・。妖精の歌声というのはこういう感じなのでしょうか。それがいつの間にかあたしの中に入り込んで、しっかりと心を抑えられてるような気がするんです。
続く "Bells Ring" は、歪んだギターのバッキングから入ります。だけど、決してうるさくないんですよね。漂うような気怠いヴォーカルも絶品。全てが良い形に合わさって、歪んだ音さえも真夜中に似合う音に変えてしまっています。
アルペジオが美しい "Five String Serenade" は唯一のカヴァー曲。Arthur Lee の曲なんですよね。繰り返すギターに乗せて Hope のヴォーカルは、今度は語りかけるだけです。やっぱりこの人、ロリヴォイスなんですよね。だけど、厭らしく感じないのは、それ以上の魅力を感じさせてくれるからでしょうか。
タイトル曲 "So Tonight That I Might See" は、広大な世界を感じさせてくれる曲。延々と繰り返すギター・リフは印象的です。彼等って、同じコード進行を最後まで続ける曲が多いんですよね。だけど、淡々とした印象で終わりはせずに、限りなくイメージが広がっていくのが素敵なんです。
他の曲にも、捨て曲は1曲たりともありません。そして、どの曲も彼等の色に統一されているんですよね。ただ繰り返し語りかけるだけの "Mary of Silence" も Mazzy Star 風R&R系の "Wasted" も、アコースティック・ギターが美しい "into Dust" にしても、どの曲も深い闇が似合うような気がするんです。
この "So Tonight That I Might See" は、まず Hope Sandoval のヴォーカルを楽しんでください。そして、前作とは逆に、ヴォーカルを最も生かす形でアレンジされた、David のサウンドを楽しんでください。そして、一色に統一された空気、独特の気配を楽しんでもらいたいと思うんです。
さて、彼等は96年にサード・アルバム "Among My Swan" を発表。このアルバムは "So Tonight That I Might See" の延長にあるといって良いでしょう。Hope が David を飲み込んじゃってるのは相変わらずですが、アルバムを通しての統一感はこちらの方が高いと思います。それは90年のデビューから6年、バンドとして纏まってきた結果かもしれません。しかし Mazzy Star は、このアルバムを最後に沈黙してしまうのです。
そして2001年、Hope Sandoval & the Warm Inventions 名義で、"Bavarian Fruit" というアルバムがリリースされました。うーん、5年も待って Mazzy Star は解散か?と思いましたが、インタビューによると解散したつもりはないようですね。分かりました、ゆっくりと David & Hope の次作を待つ事にしましょうか。なにしろ彼等のファンとしてあたし達は、もう待つ事に慣れてしまっていますからね。
- So Tonight That I Might See
- 1. Fade into You / 2. Bells Ring / 3. Mary of Silence / 4. Five String Serenade / 5. Blue Light / 6. She's My Baby / 7. Unreflected / 8. Wasted / 9. into Dust / 10. So Tonight That I Might See (妖しき夜)
- produced by David Roback
- Mazzy Star (web site: http://www.mazzystar.nu/ )
- Hope Sandoval, David Roback, Keith Mitchell, William Cooper & Jason Yates
- Hope Sandoval
- born on June 24, 1966 in L.A., CA
こんばんは。これ買いましたよー、少し前に。自分の想像とだいぶ違ったので(音的に)放ったらかし状態です、どうしよう・・て感じ(笑) いや、むつみさんを責めてるわけではなく、期待一発買いはホントにやめておこうと思いました、たまにやっちゃうんです。・・あと、またかと思われるでしょうが、歌詞カード等で内容を知る(背景までという意味ではなく)ことにより曲を更に輝かしく感じさせてくれることはあっても音を堪能する妨げには絶対にならないと確信します。
>キャリーさん♪
うう、すみません(汗)。アコギよりピアノと言われてたキャリーさんの好みを思えば、たぶん1曲目のイントロのギター・ストロークが聴こえてきた時点で『違う!』って感じだったんでしょうね。むずかしいなあ。もうチョット書き方を勉強してレビューするようにしますね☆・・・って言っても、昔書いた記事はどうしたらいいんだろう?。
歌詞カードは、あたしも2回目以降は見ますよ。ただ、またか・・・って話になっちゃうけど、最初に聴く時だけは音にだけ集中したいんですよね。第一印象ってスゴく大きいから、ラーナーを見てる間に一音でも聴き逃したら、やっぱりそれは妨げだとあたしは思ってしまうんです。
おはようございます。いやいや気になさらないで下さい。ただ私がロクに考えもせず、誇大妄想というか自分に良いように捉えたがるところがありまして(汗) むつみさんのレビューは完璧だと思いますよ。私の期待としては更に題材を増やして頂けないのかな・・というのはありますが。
>キャリーさん♪
文章の上手い人だと、聴いた事がない人にも確かな内容を伝えられるのかもしれません。だけど、あたしのレビューだと、聴いた事がある人に補足の情報を伝えるのが関の山かも。もう少し上手に書きたいなあ・・・。
と、題材は・・・うーん、最後に書いたのが今年の2月かあ。書き上げるだけの集中力が、どうにもないんですよね。まあ、この前、日記自体も2ヶ月ぶりに更新した事だし、徐々に・・・と言うことで、あまり期待せずにお待ちくださいませ♪。