Can't Wake Up / Shakey Graves
2018年
進藤むつみのおすすめCD (vol.79)
なんか妙な事をやっているな・・・と、いうのが第一印象。 Shakey Graves の "Late July" のプロモーションビデオを見た時の事なんですけどね。スーツケースにバスドラのキックペダルを2つ付けて、一つはパッドに当たるように、そして、もう一つは袋に包んだタンバリンに当たるようにして、スーツケースに腰掛けて、そのキックペダルを踵で踏みながらギターを弾いていた。
気持ちはわかるんですよね。ギター弾き語りをしていて最初に物足りなくなるのは、前奏はともかく間奏の間が持たない事。多くのシンガーがホルダーを付けてハーモニカを吹いたのはそう言う事だったろうし、彼の場合は、それは巧みなギターピッキングで乗り越えた。そして、次に悩むのは音の厚みがない事なんだと思います。ただ、それをこういう形でカバーした彼の発想力に加えて、それを実際に行ったその実行力に脱帽。まさに唯一無二のスタイルが誕生したのでした。
ただ、それが活かせたのは、曲の魅力、歌の魅力あってこそだと思うんですけどね。最初は際物のように思えた彼のスタイルだったのに、どんどんあたしが取り込まれて行ったのは、彼自身に魅力あってこそだったと思うんです。
Shakey Graves こと Alejandro Rose-Garcia は 1987年 Texas 州は Austin 生まれ。フォークやカントリー、そしてブルースやロックンロールなどの要素も混在した彼の音楽は、幼い頃から馴染んできた音楽全てなのだと思います。そして、 Shakey Graves (揺れる墓石?)という不気味なステージネームは、2007年の Old Settler's Music Festival で、どうやら LSD をキメたその時に出会った仲間たちと、冗談で付け合った名前を引き継いで使っているようです。
2011年にアルバム "Roll the Bones" をセルフ・リリース(2021年に Dualtone からリイシュー)。このアルバムを聴くと、ほとんど一人で演奏したフォーク・アルバムなんだけど、既にオーラが感じられるんですよね。個性的である事が悪い印象にはならずに、魅力として光ってる。ウェブサイトから相当数ダウンロードされたというのも、納得できる話だと思います。
2014年、Dualtone Records から "and the War Came" でメジャー・デビュー。オープニングの "Only Son" が聴こえてきた瞬間、あたしは耳を離せなくなりました。 New York Times が『ワンマンバンドのアプローチを無理なく見せてくれる』と評したように、フォークがベースなのはセルフ・リリースの時と変わらない。だけど、曲も演奏もレベルアップされている。
そして Esmé Patterson とのデュエット曲 "Dearly Departed" が AAAチャートで5位の大ヒット。なんて言うか、普段一緒に活動しているわけじゃない二人でも、こんなに息の合ったデュエットになるんだなと感心します。まあ、ちょっとアレンジが過剰なのが残念ですけどね。この曲を含め3曲の Esmé とのデュエットの印象もあるんだけど、このアルバムが陰か陽かと問われれば、明らかに『陽』。メジャー・デビュー作にして全米第44位と大成功を収めます。
2015年には Americana Music Awards で the Best Emerging Artist を受賞し評価を高め、バンドをバックにライヴを行う事で、新たな手応えを掴んでいたようです。
そして満を侍して、2018年にセカンド・アルバム "Can't Wake Up" がリリースされました。Shakey Graves 本人が『聴きたいものを作った』と言うこのアルバムがね、驚いた。物凄い大傑作だったのでした。
オープニングの "Counting Sheep" を始め、エレクトリック・ギターに持ち替えたバンド・サウンドが基本になるんだけど、ギターの音色がとても甘い。そしてマイナー・キーに映える。だから、こんな夢か現か曖昧な世界が、うまく表現されているのかと思います。フォークと言うよりは、ソフト・ロックと呼んだ方が当てはまるような気がするけれど、これこそがアメリカーナというジャンルなのでしょう。
そして、これはどうなんだろう?。ライヴで鍛えたバンド・サウンドなのかしら?。サイトにもジャケットにもクレジットがないから分からないんだけど(プロデューサー名さえ記載がない)、無駄もなければ物足りなさも感じさせない完璧なサウンド。一夜にしてこの一体感は出せないような気が、あたしはするんです。
2曲目の "Kids These Days" は、ディストーション・ギターが響くアップ・テンポの曲で、AAAチャートで40位のスマッシュ・ヒット。それでも煩いとは思わせない程度の響きなんですよね。私は最初、目覚めちゃったのかな?と思ったんだけど、これは夢の中の世界なんだと思います。ちなみに彼は、だんだんとソロ・ライヴでもエレクトリック・ギターを持つことが増えてきていて、結構歪んだギターで凄む場面も見るけれど、このアルバムではそういう音はないのでした。
で、派手なサウンドを聴かせといて、次の "Climb on the Cross" からまた、夢か現か ・・・って世界が来る。この辺りの曲の並べ方も見事だと思います。この曲が、あたしの1番のお気に入りかな?。何ていうか、琴線に触れるというか、心が締め付けられてくるような気がするんですよね。いや、そうじゃないな。この曲を筆頭に、このアルバムはどの曲もそんな風に思わせてくるような気がするんです。
"Dining Alone" は、アコースティックなフォーク・サウンドから、途中でリズム・インしてくる転換が楽しい。虚無的な曲が多いかと思うと "Aibohphobia" はコミカルなサウンドだし、"Foot of Your Bed" みたいにアメリカン・クラシックを思わせる曲もあったりする。インタールード的な語りや、電話の音も効果的に入ったり、馬の蹄の音を思わせるパーカッションも懐かしい響きだし、最後まで気を抜けず、しかし目覚める事なくこのアルバムは幕を降ろします。
陰か陽かと問われれば、明らかに『陰』。そのせいかセールス的には全米154位と前作を大きく下回ったものの、評価としては逆に高めたと言って良いと思う。本人が『聴きたいものを作った』と言うアルバムですからね。次作もまた、このアルバムの延長線になると思うんです。そろそろ発売され得る頃かしら?。楽しみに待っております。
最後に、プレスのレビューをいくつか紹介しましょうか。
『ルーツロックの雰囲気を捨てて、もっと奇妙な世界に進化した』(Brooklyn Vegan)
『崇高で不気味な、過激なドリームポップ。内なるファンタジーライフの肖像』(UNCUT - UK)
『Rose-Garciaはリスナーを彼の精神の中の旅に深く連れて行きます』(CBC Radio - Canada)
- Can't Wake Up
- 1. Counting Sheep / 2. Kids These Days / 3. Climb on the Cross / 4. Dining Alone / 5.My Neighbor / 6. Excuses / 7. Cops and Robbers / 8. Mansion Door / 9. Aibohphobia / 10. Big Bad Wolf / 11. Backseat Driver / 12. Foot of Your Bed / 13. Tin Man
- Alejandro Rose-Garcia
- born on June 4, 1987 in Atlanta, Texas.
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