Cautionary Tale / Dylan LeBlanc

2016年
進藤むつみのおすすめCD (vol.77)

get "Cautionary Tale"'the new Neil Young' と評される事もあるのは、もちろん Neil YoungTodd Rundgren が好きだったという事から来るのでしょう。だけど、あたしはそれはチョット違うんじゃないかと思うんです。確かに1970年代には、素晴らしいシンガー・ソングライターがたくさんいた。でもね、 Dylan Leblanc はそれらの先人たちに負けないくらい、繊細でいてデリケートな、心の琴線に触れる歌を歌える、21世紀の新しいタイプのシンガー・ソングライターだと思っているんです。


Dylan Leblanc は Louisiana 州生まれ。幼い頃に両親は離婚したそうです。7歳の誕生日にギターを手にすると、10歳の時に、ミュージシャンである父親の住む Muscle Shoals に行き、その仕事をするスタジオを遊び場に育ったとの事。バンド活動を経た 2010年、20歳になる年に自らのプロデュースによるデビュー・アルバム、 "Paupers Field" を発表します。

なにしろ、独特の憂いのある歌声が耳を引く。そして暗くて重い。スチール・ギターが味付けをしている曲が多いんだけど、そのスチール・ギターの明るさが、かえって暗さを引き立たせたりしています。そして、前作を踏襲した内容のセカンド、"Cast the Same Old Shadow" を2012年に発表。ファーストとセカンドを発表後は、 Lucinda Williams, the Civil Wars, Bruce Springsteen, the Drive by Truckers, Alabama Shakes らの前座としてツアーを行いました。


順調・・・だったと思うんですけどね。彼は酒と自己不信に陥り、傷つき疲れ果ててしまったと言います。慢心もあったのかなあ。アルコールに溺れた彼は、そこからの脱却に時間を費やし、過剰飲酒による逮捕も乗り越える事になる。まさに本当の意味での再出発になったのがこの "Cautionary Tale" でした。そして、その経験とこのアルバムの録音は、彼をひと回り大きくさせたようです。

プロデュースは元 the Civil WarsJohn Paul White と、エンジニアでキーボーディストの Ben Tanner が行いました。Dylan は 『John Paul と一緒に曲を作ることから、多くを学んだ』と言います。そして『明確に規律があり、インスピレーションはもう期待していない』とも言います。さあ、どんな曲ができたのか聴いていきましょうか。


オープニングの "Cautionary Tale" を聞くだけで、その成果が分かります。基本、本人のギターを含めて4リズム +α というミニマムな編成で録音されているのに、その『+α』がヴァイオリンとチェロという独特な編成。でもね、それが彼のヴォーカルを引き立たせているんです。タイトなドラムスも気持ち良い。暗いんだけど、それだけじゃない。この曲を聴くだけで、かつて『暗さと同じくらい美しい』とレヴューされたのも分かるし、彼の自信に満ちたセリフの裏付けも理解できたりします。

2曲目からしばらくは、明るい曲と静かな曲が交互に演奏されます。"Roll the Dice" は、このアルバムで唯一スチールギターの入った曲。だけど、その使われ方が控え目で好感が持てます。ただ、明るいはずの曲なのに、切なく感じられるのは何故?。

"Easy Way Out" がこのアルバムのベスト・テイク。1拍目にズンズンとリズムを打ってからコードを弾くのは、かつてのフォーク・ソングでもよくあったパターン。あたしもこういったリズムは好きでよく弾いた。この曲などをドライヴしたかったから、ドラムスの Jeremy Gibson と ベースの Zac Cockrell (Alabama Shakes) をペアにしたと彼は言うけれど、その効果は見事に現れていると思います。

そしてもう1曲、"beyond the Veil"。この曲も彼の成長を感じさせる代表的な曲になるでしょう。静寂の中に漂うサウンドが非常に重い。幽玄だとか無常だとか、不条理や喪失感をも感じさせます。だから『暗いというよりは怖い』とか言われちゃうと思うんだけど、彼のヴォーカルの説得力は、これまでのアルバムとは段違いなんですよね。リズム隊のペアの他、ストリングスのペアも効果的です。

明るめの曲だと "I'm Moving On" があたしのおすすめ。この曲はアメリカン・クラシックの香りを感じさせます。この曲ね、トランペットとトロンボーンが参加しているんだけど、えっ、どこに?ってくらい細やかに使われている。これは、John Paul White のセンスかな。Dylan もさらっと歌い上げています。

ラストの "Paradise" は、70年代によくあったアルペジオ(スリーフィンガー)の弾き語り。こういう曲ってありましたよね。まさにその頃のフォークソングを聴いているみたい。70年代のシンガー・ソングライターへのオマージュのように聴こえてくるんです。


全編を通して、控えめな演奏とストリングスの響きが、彼のヴォーカルをよく惹き立たせています。ライターとしての成長も感じられる。このアルバムを傑作と言わずになんと言いましょうか。まあ根っからの南部人なんだから、アーシーさが加わると、あたし的にはもっと好みかも。それでも、あたしはこの "Cautionary Tale" にホントに嵌りまったんですよね。ここ10年のアルバムでは、一番繰り返し聴いたくらい。 次のアルバムの発表が、待ちきれなくなっていました。


で、2019年に発表された4枚目のアルバムが "Renegade"。現在の Nashville の最重要プロデューサーの一人 Dave Cobb のプロデュースなんだけど、ここで Dylan LeBlanc は、エレクトリックギターを前面に出したをロックに転向していました。いやあ、驚いた。ここまでリバーブを効かせた曲も久しぶりに聴いた。

そういえば "Cautionary Tale" の裏ジャケットに、'this record is enjoyed properly at maximum volume' と書いてある。あたしはこれは、アルバムの控えめなサウンドに対する洒落だと思っていたんだけど、もしかして本気だったのか?。いや、そんなはずはないと思ったり思わなかったり。それでも "Cautionary Tale" の続編になるサウンドは、彼の心変わりがない限り聴けそうもないのが、残念だったりするんです。

Cautionary Tale
1. Cautionary Tale / 2. Roll the Dice / 3. Look How Far We've Come / 4. Man Like Me / 5. Easy Way Out / 6. beyond the Veil / 7. Lightning and Thunder / 8. I'm Moving On / 9. Balance or Fall / 10. Paradise
produced by John Paul White & Ben Tanner / recorded at Single Lock Studios, Florence, AL
Dylan LeBlanc
born March 9, 1990 in Shreveport, LA.

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posted by 進藤むつみ on Winter, 2020 in 音楽, 2010年代, シンガー・ソングライター

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