category: 音楽 > ロック (14)
シンクロニシティ / ポリス 1983年
進藤むつみのおすすめCD (vol.72)
ロック・トリオといえば Cream や Emerson, Lake & Palmer から Nirvana まで、数々の名バンドを思い浮かべる事ができると思います。それぞれに特徴があって個性的。たぶん3人って縛りの中だと、お互いに個性をぶつけ合うくらいじゃないと、バンドとして成り立たないからなのかもしれません。そんな個性的な名バンドの中でも、あたしは the Police こそ最高のロック・トリオだと思っているんです。
Copland の手数の多い独特なドラムス、複雑で誰も真似しないようなギターを弾く Summers、そして Sting のハイトーン・ヴォイス。その3つがぶつかり合って・・・っていうより、もう鬩ぎあうって言った方がいいかもしれないくらい。そうやって生み出されるサウンドは、だからこそ他にない独創的なものになったのだと思うし、あたしに一番だと思わせる要因なのかもしれません。
グッド・スタッフ / the B-52's 1992年
進藤むつみのおすすめCD (vol.61)
ベストアルバムに新録の曲はあるものの、the B-52's の最後のアルバムがこの "Good Stuff" になりました。生涯一ダンスバンドと宣言して、いつも奇想天外なアプローチで驚かせてくれた彼等が、これ程ポップで、しかも深い味のあるアルバムを届けれくれた事に、正直あたしは驚いてしまいました。あたしの中では彼等の最高、ホントにお勧めしたいアルバムなんです。
だけど、もし彼等のファースト・アルバム "the B-52's" を聴いてない方がいらっしゃれば、どうか先にそちらを聴いてもらいたいと思うんです。なにしろその衝撃といえば、全ての音楽ファンを仰天させたものでしょうから。だってね、ありえない音なんですよ。スカスカのパーティー・ビートは分かるんだけど、あんなにノッペリしたオルガンの音はないですよね。下手ウマというよりは下手くそ(笑)。騒ぎ立てるような二人の女性コーラスを聴いたら、『やかましい!』とさえ思ってしまうアルバムでした。
確かにニュー・ウェーヴ系のバンドって、今までになかったアプローチをしてくる事も多いんです。ニューウェーヴが注目され始めた時期、そういう意味でこの the B-52's と Devo は双璧だったと思います。でも、あたしはやっぱり the B-52's かな?。彼等のヘナチョコ・ビームは強力です。聴いた瞬間、異次元に引き込まれてしまうんです。だけど、『よそ見してたら足を取られて、異次元に突き落とされた』 って言い方のほうが、ピッタリ来るようなバンドだったんですよね(笑)。
パッションワークス / ハート 1983年
進藤むつみのおすすめCD (vol.59)
Heart のアルバムを1枚紹介するとしたら、普通はこの "Passionworks" ではないでしょう。傑作デビュー・アルバムの "Dramboat Annie" か、代表曲 "Barracuda" を収録した "Little Queen" か・・・。いえ、復活後の Heart を思い浮かべる人の方が多いかもしれませんね。そのものズバリのアルバム・タイトルを付けた "Heart" か、復活第2弾の "Bad Animals" か・・・。
ただ復活後の彼等は、完全に売る事を目的にしてしまったと思うんです。例えば80年代後半のヒット曲って、全て外部のライターが書いた曲なんですよね。いいえ、悪いなんて言いません。特に "Bad Animals" のズッシリと密度の濃いサウンドは、80年代後半のミュージック・シーンを代表するアルバムと言えるでしょう。だけど、Ann & Nancy Wilson 姉妹を中心に曲作りをしてきた Heart、ハードなスタイルに拘ってきた初期の彼等を知っていると、ちょっと悲しくなってしまうんです。
もっとも、低迷した時期の彼等にしてみれば、それどころじゃなかったのでしょうね。活動していくためと、完全に割り切ったのだと思います。だって、もっとも売れなかったこの "Passionworks" は、初期のサウンドとはまた違う独特な静けさを持つアルバムで、もっと高い評価を得て当然と思えるクオリティーがあったのですから。そして、この静けさこそがあたしが気に入ってるトコで、なにか復活前夜を思わせるような気がするんです。
ハイドラ / TOTO 1979年
進藤むつみのおすすめCD (vol.58)
恐るべき実力派ミュージシャン集団 TOTO。彼等のメンバーの中で一番好きなのは誰ですか?。跳ねるようなドラムスの Jeffrey Porcaro、ギターのお手本と言われ多くのフォロワーを生みだした Steve Lukather、ジャジーなピアノと美しいメロディーを作る David Paich、きらびやかなシンセサイザーを操る Steve Porcaro、ハイトーン・ヴォイスが魅力の Bobby Kimball・・・。実はあたしが一番好きだったのは、ベースの David Hungate でした。だって、彼が一番美形なんですもの♪。えっ、顔で音楽を聴くなって?。はい、気をつけます(笑)。
冗談はさておいて、TOTO の魅力のひとつには、独特なリズムがあったと思うんです。それは、Jeff のドラム・プレイによるところが大きいのはもちろんですが、David Hungate のファンキーなベースと一体になる事で、魅力が増幅されていたような気がするんですね。だから、冗談じゃなくても David Hungate が一番好きで、そうやって聴き始めると彼等のアルバムであたしが好きなのは、デビュー・アルバムから "IV" までになっちゃうんですよね。
ザ・ウォール / ピンク・フロイド 1979年
進藤むつみのおすすめCD (vol.57)
(the Dark Side of the Moon / Pink Floyd から続く)
どのバンドにも歴史があるように、Pink Floyd も幾つかの時代に分ける事ができます。まず最初は天才 Syd Barrett が在籍したデビュー当時。この時代のアルバムは "the Piper at the Gates of Dawn" だけなのですが、他の時代と一緒に考える事はできないでしょう。
そして第2期は、68年の "a Saucerful of Secrets" から72年の "Obscured by Clouds" まで(通常のスタジオ盤3枚とサントラ2枚、ライヴと実質ソロのカップリング1組)。第3期は "the Dark Side of the Moon" と "Wish You Were Here" の2枚。ここまでは、前回の "the Dark Side of the Moon" の中でお話してきました。
もちろん人によって見方は違うと思います。2期と3期を合わせて考えるのもアリだし、3期と今回お話する時代を合わせる考えもありでしょう。ただ、あたしはこれからお話しする、Roger Waters が強烈なリーダーシップをとった時代は分けて考えたいと思うんです。そして、その後にもう一つ訪れる時代も・・・。
狂気 / ピンク・フロイド 1973年
進藤むつみのおすすめCD (vol.56)
個人的な話になりますが、あたしが初めて聴いた洋楽のアルバムは、この "the Dark Side of the Moon" でした。もちろんラジオから流れてきたり、映画で使われたものなど耳にする曲は多かったものの、アルバムを通して楽しむという考えはその頃ありませんでした。そしてこのアルバムを聴いた感想は・・・、もう衝撃的の一言につきます。その当時でさえ古かったアルバムが、これほどの感動を与えてくれるなんて。あたしは邦楽を聴くのを止めてしまったくらいでした。
どっぷりと Pink Floyd にのめり込んだ後は、Yes, E,L&P, King Crimson、そして Led Zeppelin, the Who, Jeff Beck・・・。えっ、今と全然趣味が違うって?。まあ、だけどこの辺りは基本ですからね。それでもどのミュージシャンを聴くにしろ、アルバムとして意識して聴くようになったのは、この Pink Floyd の影響だったのかもしれません。
アンダー・ザ・テーブル・アンド・ドリーミング / デイヴ・マシューズ・バンド 1994年
進藤むつみのおすすめCD (vol.52)
この Dave Matthews Band が日本で受け入れられない理由は、いったい何なのでしょう。ライヴ活動を精力的にこなすジャムバンドだから?。確かに日本では、その手のバンドって売れ難いんですよね。だけど、今やアメリカで一番集客力のあるバンドなんですよね。あまりにも日本との落差が、大きすぎるような気がします。
ロック、ジャズ、ファンク、ブルースなど、多彩な音楽を飲み込んだ幅の広さや、ギター、ベース、ドラムス、サックス、ヴァイオリンといった独特の楽器編成・・・、この辺にあるのでしょうか?。しかも Dave Matthews の奏でるギターって、アコースティック・ギターなんですよね。エレキ・ギターの入らない、またキーボードの入らないサウンドが取っつき難いのでしょうか?。いいえ、初めて聞いた方でも、違和感を感じる事はないでしょう。それほど纏まりのあるサウンドだと思うんです。
メンバーの顔が悪いから?・・・(笑)。確かに Dave のおっさんぶりを含めて、いつまでも見飽きない個性的な顔が並んでますが、それはここでは置いておきましょう。
ライヴの集客力もそうだし、ローリング・ストーン誌の読者投票『20世紀のベスト・ソングライター』で、Lennon / McCartney を上回る6位にランクされるなど、圧倒的な人気を誇る彼等が、日本でだけ売れないのはホントに悲しく思います。そしてそんなバンドこそ、ここで紹介させてもらいたいと思うんです。
タンゴ・イン・ザ・ナイト / フリートウッド・マック 1987年
進藤むつみのおすすめCD (vol.48)
なんという、甘く美しいサウンドでしょうか。そして、恐ろしいほどのハイ・クオリティ。まったく5年間も解散状態にあったバンドが、こんな音を出せるものなのでしょうか。Lindsey Buckingham, Christine McVie, Stevie Nicks。強烈な個性を持った3人が、時にバックに回る事で、フロントに立つ歌手の魅力を更に引き立てています。そして、民主主義に従うように、交代で彼等らしい完璧なアルバムの流れを作っています。
もともと Fleetwood Mac は、フロントマンをチェンジする事で作品を作ってきたバンドでした。メンバーチェンジによる新鮮な風の呼び込み、そして新しい血肉による躍動。ひとつのアルバムの中でも当然、時代ごとに作風もまったく変わっています。メンバーチェンジの多いバンドといえるでしょう。そんな彼等の歴史の中で、黄金期と呼べるメンバーによる最後のアルバムが、この "Tango in the Night" なのです。
まぼろしの世界 / ドアーズ 1967年
進藤むつみのおすすめCD (vol.45)
強烈な個性を持つ Jim Morrison の詩とヴォーカル。そして、コンサート中に逮捕されるなどの、過激なパフォーマンスや発言。その当時はもちろんのこと、その後も長い間に渡ってフォロワーを生み出し、パンクやニューウェーヴのミュージシャンに与えた影響を考えると、彼の存在が神話扱いされたのも理解できると思います。まさに Morrison の持つカリスマ性こそが、the Doors の魅力の中心であることは間違いないでしょう。
しかし、それだけで彼等を語る事はできないと思うんです。ベースレスという特殊なバンド編成を感じさせないほど、キーボードの Ray Manzarek を中心とした彼等の演奏テクニックは素晴らしいものです。そして Robby Krieger のポップな作曲センスは、Morrison の曲作りが不調の時期でさえ、ヒット曲を生み出すだけの力を持っていました。だから、Morrison のカリスマ性が中心なのはもちろんですが、メンバーそれぞれの力が合わさって、バンドの魅力になっているのだと思います。
ガウチョ / スティーリー・ダン 1980年
進藤むつみのおすすめCD (vol.40)
美しいアルバムです。洗練された甘美なサウンドは、究極と言っても良いでしょう。一流ミュージシャンを贅沢なまでに配し、寸分の隙もないサウンドを作り上げました。更に、毒を含んだ抽象的な歌詞が、陰影に富んだ奥行きを感じさせます。
しかし、傑作と誉れ高い前作 "Aja" の躍動感や、2年後に発表される Donald Fagen のソロ、"the Nightfly" のような生っぽさがないのは何故なのでしょう。曲作りやスタッフに変わりはないのに、この "Gaucho" を聴くと息苦しい感じがします。デビュー以来進めてきた録音方法の限界、理想に到達してしまったが故の閉塞感が、漂っているのでしょうか。そのあたりを考えるには、「Steely Dan はどのようなコンセプトだったのか?」から、お話しなければなりません。
ホット・スペース / クイーン 1982年
進藤むつみのおすすめCD (vol.34)
それこそ、数ある Queen のアルバムから "Hot Space" を持ち出してくるだけで、あたしの趣味が疑われるのは分かっています。なにしろ彼等のアルバムの中で異色作なのはもちろん、「82年最も期待外れだったアルバム」と音楽誌で評されたくらいですから。どうしてこのアルバムは、そんな評価を受けたのでしょう。そのあたりを考えていくのに、まずは彼等のサウンドの特徴をお話してみたいと思います。
Queen は1971年に結成、73年にデビューを飾ります。当初イギリスでは受け入れられずに、日本から火がついたのは有名な話です。その頃からオペラ・ヴォイスと呼ばれた Freddie Mercury の歌声は特徴的ですが(あたしは、世界一美しい声を持つロック・ヴォーカリストだと思っています)、サウンドとしてはストレートなロックでした。意外にハードなね。少しずつサウンドを変えていく彼等ですが、最も Queen らしいアルバムといえば、75年の "a Night at the Opera" になるでしょう。
オートアメリカン / ブロンディ 1980年
進藤むつみのおすすめCD (vol.33)
Blondie は、この時代のニューヨーク・パンク出身の中で、最高の成功を収めたバンドでしょう。ただ、ポップス/ニューウェーヴへとサウンドを変換していく中、意外に低い評価を受けているような気がします。これは、ヴォーカルの Deborah Harry がセックス・シンボルとして注目され、唇に億単位の保険をかけるなどのエピソードも、軽く見られた一因に思えます。
だけど、Deborah にとって評価なんて、たいした問題ではないのかもしれません。順調に音楽キャリアを積み重ねてきたように見える彼女ですが、1968年に別のバンドで失敗した後、ウエイトレスやバニーガールをしながら、再デビューの道を探っていたそうです。ファースト・アルバムの発売時に、すでに31歳だった彼女にとって、Blondie は敗者復活戦だったんですから。