Strange Days / the Doors

まぼろしの世界 / ドアーズ 1967年
進藤むつみのおすすめCD (vol.45)

get "Strange Days"強烈な個性を持つ Jim Morrison の詩とヴォーカル。そして、コンサート中に逮捕されるなどの、過激なパフォーマンスや発言。その当時はもちろんのこと、その後も長い間に渡ってフォロワーを生み出し、パンクやニューウェーヴのミュージシャンに与えた影響を考えると、彼の存在が神話扱いされたのも理解できると思います。まさに Morrison の持つカリスマ性こそが、the Doors の魅力の中心であることは間違いないでしょう。

しかし、それだけで彼等を語る事はできないと思うんです。ベースレスという特殊なバンド編成を感じさせないほど、キーボードの Ray Manzarek を中心とした彼等の演奏テクニックは素晴らしいものです。そして Robby Krieger のポップな作曲センスは、Morrison の曲作りが不調の時期でさえ、ヒット曲を生み出すだけの力を持っていました。だから、Morrison のカリスマ性が中心なのはもちろんですが、メンバーそれぞれの力が合わさって、バンドの魅力になっているのだと思います。


UCLA 演劇学科で Jim MorrisonRay Manzarek の出会いから、the Doors の歴史は始まりました。既にレコードも出していた Manzarek は、"Moonlight Drive" の詩を読む Morrison に、とてつもない可能性を感じたそうです。John Densmore, Robby Krieger とメンバーが固まりますが、息の合うベースだけは見つかりませんでした。しかし彼等は、それぞれがリズムをフォローする事で、サウンド的にはカバーできると考えたと言います。

このことは、ある意味正解だったかもしれません。ライヴ録音を聴いても不自然さを感じさせないし、逆にキーボードによるベースラインは、独特で彼等の個性のひとつにもなっています。そして、様々なジャンルを飲み込んだサイケデリックなサウンドは、強烈な色彩を発します。そしてその色彩感覚は、個性的な Morrison のヴォーカルを、更にもり立てていたような気がするんです。


1967年1月、彼等はアルバム "the Doors" でデビューを飾りました。プロデューサーは Paul A. Rothchild。ライヴ感をそのままスタジオに持ち込んだような魅力のこのアルバムは、また独特な存在感も特別なモノだと思います。そして多彩なジャンル、ロック、ジャズ、ブルース等をシェイクして投げ込んだようなサウンドは、それまでなかった程のサイケデリックさと相まり、強烈な個性を発揮しました。

更に、セカンド・シングルの "Light My Fire" が全米1位を記録するなど、彼等はポップ感覚も優れていました。アルバムも最終的には全米2位まで上昇。たった1枚のアルバムだけで、60年代後半のアメリカ西海岸の音楽界で最大の注目を浴び、最重要バンドとして捉えられるようになりました。


そして同年10月、この "Strange Days" (3位) が発表されました。プロデュースは同じく Rothchild。これは大正解でしょう。前作での信頼感を生かすように、ひとつひとつの音を昇華して見直したような、丁寧な作業をしている事が分かります。


"Strange Days" の文学サイケともいえるような世界は、時代に特有というわけではなく、やはり the Doors ならではでしょう。そして、このアルバムがファーストよりも完成度が高い事は、この1曲だけで理解できると思います。ホントにじっくり作られたと思うんですよね。そして、バンドとしての纏まりも高まっています。Morrison の詩とヴォーカル、Manzarek のキーボード、Krieger の曲作り、そして Densmore のドラミングもこのアルバムから伸びていますね。まさに全てにおいて、彼等の最大の魅力が発揮されたようです。

"Love Me Two Times" (25位) は、アルバム中最もポップな曲でしょうか。各楽器のバランス、アレンジ、ノリなども、絶妙なバランスの成り立っているような気がします。しかし、この曲でさえ Morrison のヴォーカルは異様な盛り上がりを見せるのですから、彼の持つ個性って、相当強烈なんだなと思います。

"Moonlight Drive"MorrisonManzarek を繋ぐ、彼等の原点ともいえる曲。Let's swim to the moon ですか?。スゴイ感性ですね。そしてサウンドも、サイケなアルバムの中で最もサイケかもしれません。Morrison の詩を聞いた Manzarek は、最初からこういうイメージで捉えたという事なんでしょうか。

シングルヒットした "People Are Strange" (12位) は、とてもシンプルな曲です。ギターのアルペジオから歌い出したトコロまでは、無彩色の世界を感じさせるようです。しかし各楽器が入ってくると、たくさんの色合いが見えてきます。そして間奏のキーボードソロ・・・、あたしこういう哀しいのに弱いんですよね。

"When the Music's Over" はファーストの "the End" と対をなす大曲。しかし10分以上にわたる演奏のこの曲で、緊張感が切れる事がありません。これね・・・、別に薬とかじゃなくて、アルコールでもいいし、精神的にハイになってる時でも、もうスッと引っ張り込まれちゃいますね。しかも、ふわふわとした世界に漂わせてくれるんです。演奏時間が長いなんて感じる人は、1人もいないんじゃないかと思います。


ファーストの生々しい魅力に対して、この "Strange Days" は密度の濃い、完成されたサウンドが魅力でしょう。どちらかが彼等の the Doors の最高傑作には、間違いないと思います。だけど、あたしはやっぱりセカンドかな。前作で試した事を踏まえてのプレイだけど、こじんまり纏まってはいないんですよね。逆にサイケなサウンドの煌めきは、高まってるような気がするんですから。


さて the Doors は、68年 "Waiting for the Sun" (1位) とシングル "Hello, I Love You" (1位)。69年 "the Soft Parade" (6位) とシングル "Touch Me" (3位)。70年 "Morrison Hotel" (4位) と "Absolutely Live" (8位)。71年に "L.A. Woman" (9位) とヒット作・ヒット曲を連発しています。

このうち例えば "the Soft Parade" などは、Morrison の不調をカバーするように Krieger が半分の曲を書くなど、バンド内での強調や結束は上手く行っていたと思います。サウンド自体も Manzarek が引っ張っていたし、Morrison あってと言えど、やはりソロではなくバンド・ワークだったと言えると思うんです。

ところが Morrison は71年7月、心臓発作を起こし亡くなります。バンドの核を失った the Doors は、新ヴォーカリストに Iggy Pop を迎えようと画策しますが結局は断念、最終的には残された3人で再スタートを切りました。だけど、やけに明るいバンドになっちゃったんですよね。メンバーそれぞれの力はありながら、やはり Morrison こそ the Doors だったと証明するように、73年に解散してしまいます。デビューから6年、Morrison 在籍はわずか4年半。時代をリードし疾走した彼等は、しかし、その後も多くのミュージシャンに、影響を与え続けていくのです。


ちなみに Morrison は、騒ぎを避けるため秘密裏に埋葬されたそうです。彼の死を確認した Pamela 夫人も、3年後にドラッグで死亡。そのため熱狂的なファンは、いつまでも「実は Morrison は生きている」と信じていたそうです。

Strange Days
1. Strange Days / 2. You're Lost Little Girl (迷子の少女) / 3. Love Me Two Times / 4. Unhappy Girl / 5. Horse Latitudes (放牧地帯) / 6. Moonlight Drive (月光のドライヴ) / 7. People Are Strange (まぼろしの世界) / 8. My Eyes Have Seen You / 9. I Can't See Your Face in My Mind (おぼろな顔) / 10. When the Music's Over (音楽が終わったら)
produced by Paul A. Rothchild / recorded at Sunset Sound Recorders, Hollywood, CA.
the Doors (web site: http://www.thedoors.com/
Jim Morrison, John Densmore, Robby Krieger & Ray Manzarek
Jim Morrison
born on December 8, 1943 in Melbourne, FL; dead on July 3, 1971, Paris (age 27).

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posted by 進藤むつみ on Spring, 2005 in 音楽, 1960年代, ロック

comments (8)

Doorsって聞くとどうしてもやっぱ、Jim Morrisonと思ってしまいます。27ってのは、いかにも早いですよね~~。私は映画が強烈な印象で、(視覚から入っていくタイプなんです。)その時にね、より多く得た者はより多く喪失するのかね~~なんて事を思った記憶があります。それはフレデイマーキュリーや、マークボランなんかにも繋がる意識だったりもするんだけど。ミュージシャンって、舞台上でやっぱ命のやりとりしてる部分があるのかもしれない。私は凡人だから、推測するだけだけれども・・・。

>kazooさん♪
確かに Bolan も早かった(30直前でしたよね?)けど、27は早すぎですね。
音楽に限らないのでしょうけど、何かを創造する、生み出す作業をする人の追い込まれた精神状態って、想像を超えたものなんだと思います。そりゃあアマチュアでもあるのは当然だけど、それよりもプロ、更に天才と呼ばれる人達は相当苦しいんでしょうね。「命をすり減らして」って言葉は、大袈裟じゃないと思います。
まあ、あたしも遊びレベルでしか実感がないから、推測するだけですけど・・・。

Jim Morrisonはときどき聴きます。
原点って感じがします。
自分を見失ったときなんか(いつだって見失ってるようなものですが)。
Doorsを聴くと、自分が落ち込んでいたって、まだまだ大したこと無いなあと思えるんですよ。

>osaさん♪
そうですか、原点ですか。
『自分が落ち込んでいたって、まだまだ大したこと無いなあと思える・・・』
これって、すごくよく分かります。そうすると Jim Morrison の苦悩は、どれほどのモノだったのかと考えてしまいますね。

僕はDoorsを余り知りません。
今までBest版などは買いました。
かっこいいと思います。
1991年オリバーストーンの映画The Doorsも見て、とても疲れました。
疲れる割に繰り返し映画を観ました。
Janis Joplinの音楽や映像やドキュメンタリーを見たり聴いたりするのと同じ位疲れます。
僕はBreak on Through 、The End、Back Door Manなどが好きでした。
これをきっかけにこのAlbumをきちんと聴いてみようと思います。
Album全体の良さがあるのでBest自体が僕は余り好きではないのですが、このバンドに関してはこういう聴き方をしました。
Doorsの一部だけ知っているよりも絶対良いと思うので、このAlbumを聴いてみて感想を書きたいと思います。

>うえださん♪ すみません、レス遅れました。
この記事には過去に『原点って感じがします。』っていう貴重なコメントをいただきました。この一言で、当時、思春期にリアルタイムで聴いた人の衝撃が分かるような気がするんです。
まあ、リアルタイムじゃないけど、あたしも十分ショックを受けましたけどね。疲れるのは、Jim Morrison の全力を受け止めなければいけないからだと思います。ファーストとこのアルバムは、特に自信を持ってお勧めいたしますです。

『 STRANGE DAYS 【まぼろしの世界】』
アルバムを通して聴きいた、あくまでも僕個人の感想です。
うまく伝えられると思いません。
リアルタイムで聴いていた方などにとって、今僕が受けた印象も大きく違っていると思います。
僕の感じた事は、アルバム全体の空気感は音楽=アートだという事。
視覚的にも見えて来る様な感覚、空気を感じる様です。
1曲目 STRANGE DAYS から聴こえてくるオルガンが始まり、ベースやドラムが入り、一気に幻想的な世界が広がります。
視覚で感じる事とは、誰もいない冷んやりした月明りの春の夜、肌寒く薄い霧がかかった中で、桜の花びらが舞い落ちる様子を眺める感覚です。
エフェクトの掛かったボーカルも幻想的でより雰囲気を高めます。
最後まで非現実的世界感が壊れる事なく描かれていると思いました。

>うえださん♪
>空気感は音楽=アートっていうのは、その通りだと思います。視覚的よりも、あたしにとっては文学に近い感覚。ただ、やっぱりアルバムに閉じ込められた空気があるんだろうなあ。それが幻想的な世界を視覚的に見せてくるんじゃないでしょうか。
「冷んやりした月明りの春の夜、肌寒く薄い霧がかかった中で、桜の花びらが舞い落ちる様子を眺める」っていうのは、見事な言い方ですね。こういう、芸術的な表現はあたしにはできない。その世界がアルバムを通してあるっていうのが、この "Strange Days" の特徴であって、他のアルバムにはないトコだと思う。ファーストも確かに傑作なんだけど、統一感にはかけるような気がしますから。
リアルタイムで聞いていた人っていうのは、今となっては少数派なんですよね。敵わないなと思う事もあるけど、時間が経って聴いたから負けとは、あたしは思ってないんですよね。
見事なレビュー、ありがとうございました。

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