Hydra / Toto

ハイドラ / TOTO 1979年
進藤むつみのおすすめCD (vol.58)

get "Hydra"恐るべき実力派ミュージシャン集団 TOTO。彼等のメンバーの中で一番好きなのは誰ですか?。跳ねるようなドラムスの Jeffrey Porcaro、ギターのお手本と言われ多くのフォロワーを生みだした Steve Lukather、ジャジーなピアノと美しいメロディーを作る David Paich、きらびやかなシンセサイザーを操る Steve Porcaro、ハイトーン・ヴォイスが魅力の Bobby Kimball・・・。実はあたしが一番好きだったのは、ベースの David Hungate でした。だって、彼が一番美形なんですもの♪。えっ、顔で音楽を聴くなって?。はい、気をつけます(笑)。

冗談はさておいて、TOTO の魅力のひとつには、独特なリズムがあったと思うんです。それは、Jeff のドラム・プレイによるところが大きいのはもちろんですが、David Hungate のファンキーなベースと一体になる事で、魅力が増幅されていたような気がするんですね。だから、冗談じゃなくても David Hungate が一番好きで、そうやって聴き始めると彼等のアルバムであたしが好きなのは、デビュー・アルバムから "IV" までになっちゃうんですよね。


TOTOBoz Scaggs"Silk Degrees" (76年) の録音で、Jeff Porcaro, David Hungate, David Paich が意気投合。それをキッカケに結成に向かいます・・・が、ProcaroPaich はそれぞれ音楽家の父を持つ幼なじみで、ハイスクール時代にバンドを組んでいた事もあるし、さらに PorcaroHungate の紹介でセッションの幅を広げていったトコロもあり、交流はもっと古くからという事になるようです。だから、これってキッカケのひとつなのでしょうね。その後 Steve LukatherJeff の弟 Steve PorcaroBobby Kimball も加わり、バンドの形態が整いました。

78年、アルバム "TOTO" でデビュー。メンバー全員が一流セッション・ミュージシャンという事、幅広い音楽性、完成したサウンド。彼等は大きな衝撃をもって迎えられ、デビュー・シングル "Hold the Line" は全米5位、アルバムも全米9位まで上がる大ヒットに。そして "I'll Supply the Love", "Georgy Porgy" の2曲もチャートに送り込み、新人バンドとしては最高のスタートを切ったと言えるでしょう。

確かに今聴き返してみても、ファーストとは思えない完成度の高さです。演奏はもちろん問題ありません。しかもそれだけに収まらず、ポップなアプローチが自然なんですよね。プログレッシヴっぽさと同居したポップス性。これって楽曲の良さからきてると思うんです。これは10曲中8曲でペンをとった David Paich の力でしょうか。ただ・・・あたしが惜しいと思うのは、アルバムのトータル性が薄いんですよね。ひとつのトーンはあるものの、楽曲がそれぞれ主張をし合っちゃって、流れるようなサウンド・・・という感じにはなっていないんです。


そして翌79年に発表されたのが、この "Hydra" でした。前作を更に押し進めたサウンド・アプローチ。このアルバムで彼等の成長を褒めなければいけないのは、1枚を通して流れるようなサウンドが表現されている事です。ひとつのトーンに統一された上に、それぞれの曲の魅力が邪魔し合ってないんです。ここに収録されている8曲は、当然このアルバムに入るべき曲で、しかもこの曲順で、このアレンジでないといけないと思わせるほどなんです。


オープニングの "Hydra" から、壮大なスケールで迫ってきます。そして、この曲のトーンがアルバムを決めたといって良いでしょう。少し湿った空気が、そこにあるようです。そして演奏レベルが高いのは当たり前、曲構成も相当に複雑なんだけど、それを聞き手に感じさせないんですよね。もちろん音楽好きな人にはアピールしながらも、あたしのような素人にも楽しめる曲になってるのが不思議です。

そして、次の "St. George and the Dragon" は軽快なポップス。"Hydra" とこの曲が、何の違和感もなく続いているんです。これって実は凄い事ですよ。だから、軽快な中にも微妙に湿った空気を折り込んでるんだと思うんですよね(笑)。この2曲を聴くだけで、アルバムを通しての流れがひとつだと証明できるでしょう。そして、あたしはこんな風に自然に流れていくアルバムって大好きなんです♪。

"99" (26位) は珠玉のバラードです。美しいメロディーと印象的なピアノのアルペジオは、繰り返しずっと聴いていたいと思うほどです。だけどね、この曲のあたし的な一押しは終奏なんですよね。Lukather の心の奥から搾り出すようなギター・ソロ ・・・の後に、短いけれどベース・ソロがあるんです。これがエレキ・ベースとは思えないほどのスピード感!。ウッド・ベースじゃなくてもこんな演奏ができるのかと、あたしは感動してしまったのでした。

もっともベースを、真剣にリズム隊を楽しみたいと思うならば、ソウルフルな "Mama" に尽きるでしょう。このリズムのノリこそ、Porcaro / Hungate のコンビでなければ出せないと思います。こんなベースを聴かされちゃうから、あたしにとっては David Hungate が一番なんですよね。プレイ上のテクニックはもちろんですが、単純にノリを楽しんでもらいたいと思う曲なんです。

"White Sister" は一番のロック・チューン。そして "Lorraine""All Us Boys" のような明るくノリの良い曲がある事が、彼等がロックン・ロール・バンドだという証明でしょう。テクニックがある事だけに終わらずに、躍動感溢れるロックをプレイし、またライヴでも観客を引きつけられるバンドなんだと思います。そして、しっとりとしたバラードの "a Secret Love" で、アルバムは幕を降ろします。


アルバムを通しての一つのトーン、流れるような曲進行がこの "Hydra" の一番の魅力でしょう。だけど、それ以上に生っぽさって感じられますか?。次作 "Turn Buck" がラフなロックだから、そっちの方がと思う人もいらっしゃるかもしれませんが、あたしは TOTO のアルバムの中で "Hydra" が一番生っぽい、ライヴ感溢れるアルバムだと思っているんです。そう、こんな魅力もあるんですよね。


だけどこのアルバムは、セールス的に成功とは言えませんでした。シングルでチャート・インしたのも "99" の1曲、アルバムの最高位も37位と、前作と比べると低迷してしまいます。これはアルバムのトータル性を重んじたが故に、個々の曲のアピールが弱まっちゃったんじゃないかと思うんです。

そこで TOTO はサウンドを一転しました。次作 "Turn Back" (81年) では Steve Lukather のギターを前面に押し出し、乾いたストレートなロック・アルバムを作り上げました・・・が、これも最高位41位と失敗。しかも、チャート・インしたシングルも無しという有り様。再びサウンド・スタイルを変えた彼等は、アルバム "IV" (82年) でようやく成功をつかむ事になります。"Rosanna" (2位), "Africa" (1位) など5曲をシングル・チャートに送り込み、アルバムも最高位4位。83年のグラミー賞で主要6部門を独占するなど、彼等のキャリアのピークを迎えるのでした。


しかし、この栄光の日々も長くは続きませんでした。まずは家族のためという事で David Hungate が脱退(Mike Porcaro が加入)。次作の録音中にヴォーカルの Bobby Kimball が脱退。ここから彼等の迷走が始まったのでした。

ヴォーカルは Fergie Frederiksen, Joseph Williams, Jean-Michel Byronと目まぐるしく変わった後に Steve Lukather が兼任。Steve Porcaro も脱退。そして、なんと TOTO サウンドの要ともいうべき Jeff Porcaro が心不全で死亡!。"IV" 以降まったく TOTO らしさを感じる事が出来ないまま、バンドは終わりを迎える・・・と誰しも思いましたが、そこは Simon Phillips の加入により乗り切ります。その後も Bobby Kimball の復帰や、Greg Phillinganes の加入で現在を迎えています。


でもね、何でこんな風になっちゃったのかと思うんです。ヴォーカルを固定出来なかった事が、敗因のひとつには間違いないでしょう。もともと TOTO は専任のヴォーカルがいながら、曲の半数は他のメンバーがリード・ヴォーカルをとっていたんですよね。だから Bobby がやめても大丈夫・・・と、たぶん誰もが思っていました。例えば Joseph Williams のヴォーカルって、今聴いても面白いんですよね。だけど、予想以上に Bobby の影響は大きかったのでしょう。

それともう一つ、どんなスタイルにも対応できるテクニックを持っていた事も、逆に問題だったのだと思います。確かに同じトコにずっと留まっていたら、自分達の成長もないし、ファンの方にも飽きられてしまうでしょう。だけど、"Hydra" で失敗した後 "Trun Buck" に方向転換できるバンドは、そうはないと思います。しかも、更にスタイルを変え続けてますしね。 セールス的に失敗だったとしても、"IV" 以降のアルバムの内容ってスゴク高いんですよ。だからこそもう少し不器用で、前のスタイルを引きずる彼等だったら良かったなと思うんです。


個人的にはファーストから "Hydra" にステップ・アップした後、もう一歩それを膨らましたサウンドを聴きたかったと思っています。"Hydra" を更に押し進めた内容を。・・・だけど、それだと "Turn Buck""IV" は聴けなかったのかも。うーん、それも困るんだよなあ(笑)。

Hydra
1.Hydra / 2. St. George and the Dragon / 3. 99 / 4. Lorraine / 5. All Us Boys / 6. Mama / 7. White Sister / 8. a Secret Love
produced by Toto & Tom Knox / recorded at Sunset Sound, L.A., CA
Toto (web site: http://www.toto99.com/
David Paich, Steve Porcaro, Bobby Kimball, Steve Lukather, Jeffrey Porcaro & David Hungate
Jeff Porcaro
born Jeffrey Thomas Porcaro on April 1, 1954 in Hartford, CT; dead of heart attack on August 5, 1992 (age 38).

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posted by 進藤むつみ on Autumn, 2005 in 音楽, 1970年代, ロック

comments (11)

  わ~お!  『ハイドラ』大好きぃ~♪  今日はもうわくわくして3回くらいこっちへ来ては読み返しておりました。  わし、ずっとTOTOが好きだったんですけどつい最近になってAORに分類されてる事を知りまして、『えぇ~?!』だったんですよね。  他のアルバムも聴いてるんですけど、もうずっとハードロックだと思ってました。  やっぱ『ハイドラ』の印象が強かったんですね。  何聴いてもハードロックにしか聴こえんかった(汗)  言われてみればAORですわ。  CDDBのデータバンクなんて『クラシックロック』に分類してるんだもん。失礼な!

  それにしても商業的にはイマイチだったなんてはじめて知りました。  やっぱ出した時期が悪かったんですかね?  メンバーが器用過ぎたために“迷走”したと言うのはありがちですがやっぱ皮肉ですよねぇ。  にしてもずっと好きだったくせにメンバーの事何にも知らなかったんですよねぇ~(汗) 

  やっぱわしは『99』ですかねぇ♪  人の記号化により番号が名前になった近未来のラヴソングという薄ら寒い設定が実は更に曲の透明感を際立たせている、と思うのですよ。  珠玉のバラードですわ♪

>usagi3さん♪
実はこのアルバムの紹介って、1年近く前にするつもりでいたんです。その時は参考資料として他のアルバムを聴いているうちに、Airplay のレビューに化けちゃったんですけど(笑)。その後 usagi3 が前から好きなアルバムだって知って、そうすると紹介し難くなっちゃって、ずっと後回しになってしまっていました。あたしの書いた事に反対意見もあるかもしれませんけど、喧嘩を売ってる訳じゃないので許してくださいね(笑)。
ハードロックの要素は確かにありますよね。"Hydra" だけ聴けば、AORの要素よりも強いかもしれない。だけど、プログレやポップスやR&Bや、色んな要素が混ざってのTOTOの魅力だと思うんです。だからジャンル分けする意味はないのかもしれないけれど、あたし的にはポップなアメリカン・ハードかなって思っています。
商業的な話にしても、全米37位まで上がって失敗って言うのも変なんですよね。もちろん評価は高かったし、次作の "Turn Buck" はセールス以上にギター・キッズにに与えた影響は多きかったし、アメリカに比べると日本では売れていたしね。ただ、ファーストと "IV" の間で、伸び悩んだ時期かとは思うんです。まあ、ホントに迷走を始めたのは、5枚目の "Isolation" 以降ですよね。
"99"、美しいですよね。今回、何度も聴き返してしまいました。だけど・・・、ぜひ終奏のベースに注目してみてください(笑)。

えーと。すごーくお暇でしたらコレ見てやってください。
うちのサイトに載せた時は、上からちょっとずつ文章をアップしていって、答えがわかった時点でメールで回答をもらうというかたちにしていました。
色んなかたちの音楽クイズをやっていたのですよー。
http://bunny.incoming.jp/bestsong1a.html

>Screaming Bunnyさん♪
面白〜い☆。みなさん、どの辺りで分かったんでしょうか?。歌詞かしら?。ヒントなしだと、あたしはきっと分からないですね。今日はTOTOがらみの話と思って読んだから、チャート1位で分かりましたけども。Screaming Bunnyさんのお気に入り100曲にも入っていたしね♪。そうでなければ、打楽器の話まできても考えちゃってるかもしれません(笑)。
あたしもやってみたいけど、あたしの筆力だとムリですね。それよりも、うちは読者さんが少ないからクイズとして成立しないのか(笑)。
失礼ながら、Q2も見ちゃいました(汗)。これは『言葉が出ません。泣いちまいました』でピンときたのでした♪。

>Q2も見ちゃいました
えー! URLの数字を変えたんですか?
でしたら3、4もありますよー。

うちのサイトは音楽マニアの読者が多いので、クイズはかなり早いうちから正解者が出てましたね。・・・私だってココじゃわかんないよ、と思っちゃいましたw 正解者は発表してたので、一番乗り争いが凄かったです。

以前に一番人気があったクイズが、バンド名を当てるシリーズで、コレは問題を全く保存していないのが、今となっては悔やまれます。そのシリーズは毎回出題方法を変えていまして、基本的には月曜から毎日ヒントがひとつずつ増え、木~金にはヒントが全部出揃い、翌月曜に正解発表でした。
例えばピンク・フロイドの時の問題はこうです。
(月) 大工
(火) 石工
(水) 水+No.19
(木) ヘアクリップ-No.5
わかりますか?

>Screaming Bunnyさん♪
はい、あまりの面白さに数字を変えてしまいました。実は4まで見させていただいたのですが、分かったのは2だけだったんです。
音楽マニアの人って、たくさん知ってる(聴いてる)事が良い事じゃないですか。だから、もう必死で考えるでしょうね。特に正解者を発表していたのなら、サイト内での誇りにもなるでしょうしね。
で、バンド名当てですよね。これも面白いですよね。えーと、これは Pink Floyd なんですよね。・・・何故だ!?(笑)。意味を聞いちゃうと、きっと『なーんだ』って思うような事なんでしょうね。うーん、答えを教えてもらってるのに悔しいなあ。
・・・・・・・・明日の朝まで猶予をください☆。

>Screaming Bunnyさんへ追記♪
ちょっと分かりませんでした。ひとつ閃けば繋がりそうなんだけどなあ。どうか答えを教えてください・・・って言いながら、きっと昼間も考えてるあたし(笑)。

この問題は、特に難しいと評判でした。ヒントが全部出るまでは正解者が出なかった、珍しい問題。
では、重ねてヒントを。ギルモアはいませんよ。1stで考えてくださいw

>Screaming Bunnyさん♪
・・・・・・わ、わからない、答えもヒントも聞いてるのに(汗)。勉強不足でしょうか?。で、出直してきます・・・。

いえいえ。こんなの、私だってわかりませんよw
では解説です。

大工=wright
石工=mason
水+No.19=water+s=waters
ヘアクリップ-No.5=barrette-e=barrett

コレで正解するヒトもいたんだから。マニアってスゴイわあ。

>Screaming Bunnyさん♪
そんな、『私だってわからない』って出題者が(笑)。
うーん、『No.』の意味に気がついたら、答えまで辿り着けるのかしら?。『水』か『ヘアクリップ』との組み合わせかな?。・・・いや、やっぱり、だけど、これで正解するんですか?。ホントにマニアの恐ろしさですね。

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