Uncle Charlie & His Dog Teddy / the Nitty Gritty Dirt Band
アンクル・チャーリーと愛犬テディ / ニッティー・グリッティー・ダート・バンド 1970年
進藤むつみのおすすめCD (vol.44)
カントリー・ロック黎明期に、重要なアルバムを発表してきたミュージシャンといえば、 Gram Parsons と彼が在籍した the Byrds や the Flying Burrito Brothers。Jim Messina と Richie Furay らが結成した Poco。元 Monkees の Michael Nesmith。そして、極め付けは Eagles でしょうか。ホントに名前を挙げるとキリがありませんが、それぞれに個性溢れるサウンドが魅力です。
その中でこの the Nitty Gritty Dirt Band は、カントリー・ロックというジャンルには収まらない音楽スタイルを展開しました。ロック、カントリー、ブルーグラス、フォーク、ブルース、R&B・・・。おそらく白人も黒人も関係ない、アメリカのルーツ系ミュージックの全てを飲み込んだサウンド。そんな独特のスタイルがこのバンドの特徴であり、他のバンドに比べて一回り大きく感じさせる要因なんだと思います。
1966年、カリフォルニア州のロング・ビーチで結成された the Nitty Gritty Dirt Band。デビュー前に Jackson Browne が在籍していたのは有名な話ですが、その後任として参加した John McEuen が多くの楽器を操れた事で、Jeff Hanna をはじめ各メンバーが、曲ごとに楽器を持ち替えるスタイルが定着したようです。ただ、初期のサウンドにはカントリー・ロックへのアプローチを感じさせるものの、ジャグ・バンドのイメージが強かったように思えます。そのせいか、セールス的には不発。69年には、一度バンドは解散することになります。
だから心機一転を計った、この "Uncle Charlie & His Dog Teddy" が、これほどの反響を呼び、そして他のカントリー・ロックのバンドに影響を与えるとは、本人達でさえ考えなかったのではないでしょうか。その成功はこのアルバムの独特のスタイル、サウンドの完成度によるところが大きいのはもちろんですが、それ以上にルーツ・ミュージック、伝統音楽に対する敬愛を感じさせる事が、大きな要因だったとあたしは思うんです。
この後はアルバムを聴きながら、お話していきたいと思います。
オープニングの "Some of Shelly's Blues" (全米64位) は Michael Nesmith の曲。バンジョーとハーモニカが効果的に使われながら、カントリー・ロックなんです。カントリーじゃないんですよね。もちろん Nesmith の作風もありますが、それを料理するバンド側の意識なんだと思います。新しい音、古い音、そして様々なジャンルを融合した新しいカントリー・ロック。この曲は、まさに彼等の新しいスタートに相応しい、そしてこの後の彼等のサウンドを決定づけた曲だと思います。
そして、このアルバムにはバラエティ豊かな曲が、バランスよく並んでいます。
"the Cure" はメンバーの Jeff Hanna の作。ロック色の強い、新しいカントリー・ロックを感じさせます。"Travelin' Mood" は彼等が元々持っていた、ジャグ・バンド風の作品と言えるでしょうか。ストレートなカントリーの小曲 "Chicken Reel"。Randy Newman による "Livin' without You" はフォーク。これだけのタイプの曲を並べながら、通して聴かせる事ができるのは、彼等の実力の高さだと思います。
そして、あたしがアルバム最大のヤマだと思うのは、次のメドレーなんですよ。
チャーリー伯父さんの弾き語り "Jesse James"、愛犬テディに向かって『フォーク・ソングを歌ってくれ。それ、それ。』と語る "Uncle Charlie Interview"。そこからね、 Jerry Jeff Walker の "Mr. Bojangles" へと繋がるアルバムの流れは、まさに鳥肌物です。お遊びのように感じさせる導入部から、彼等最大のヒット曲(全米9位)を最大の効果で盛り上げたような気がするんです。これだけ美しい流れって、そうはありません。
また、ピアノの練習曲をバンジョーで演奏する "Opus 36, Clementi" のように、一見お遊びに感じる曲もありますが、これも楽器に対する愛情だと思うんですよね。それも、その後に続く Kenny Loggins 作の "Santa Rosa" で、しっかり本道に戻されてるから、アルバムを通して聴いた時には、散漫な感じがしないのでしょう。
ちなみに Kenny Loggins は競作を含めて4曲を提供、前述の Michael Nesmith が2曲。Randy Newman が1曲。同世代のシンガー・ソングライターの曲を積極的に取り上げ、伝統曲とのバランスが上手く取れていると思います。えーと、お遊びの曲とのバランスもね♪。
さて、その Loggins 作の "House at Pooh Corner" (53位) が、このアルバム最後の盛り上がりでしょうか。この曲は翌年本人が、 Kenny Loggins with Jim Messina のデュオで取り上げましたが、こちらはしっかりフォークなんですよね。Dirt Band の強烈なカントリー・ロック・バージョンと、聴き比べてみても面白いかもしれませんね。どちらの料理の仕方も、名曲を生かしたものになっています。
そしてこのアルバムの象徴として用いた、チャーリー伯父さんの言葉が染みるんです。"Uncle Charlie Interview #2" の中の一節を、そのままお話しさせて下さい。『Bフラットを押さえるのは苦手でな、わしは心で弾いてきた。お前さんらもそうじゃろ?・・・』。音楽って、ホントにそういうモノだと思うんですよね。
この作品後の72年に the Nitty Gritty Dirt Band は、アメリカン・ルーツ系の大御所総出演といえる名盤 "Will the Circle Be Unbroken" を発表。そして76年からは名前を the Dirt Band と変え、ポップ・ロックなアプローチを開始。80年代以降は元のバンド名で、ポップ・カントリー的なスタンスで活動。時代の要求に応えながら、今なお現役のバンドです。
だけど彼等のベストは、70年から72年までの3年間じゃないかしら。その中でも、やっぱりこのアルバム。強烈な個性と楽しめ、ルーツ・ミュージックへの敬愛を感じる事ができる "Uncle Charlie & His Dog Teddy" こそ、まず一番に聞いてもらいたいし、ルーツミュージックのファンにとっては必聴のアルバムだと思うんです。
- Uncle Charlie & His Dog Teddy
- 1. Some of Shelly's Blues / 2. Prodigal's Return (放蕩息子の帰郷) / 3. the Cure (治療) / 4. Travelin' Mood / 5. Chicken Reel / 6. Yukon Railroad (ユーコン鉄道) / 7. Livin' without You / 8. Clinch Mountain Back Step / 9. Rave On / 10. Billy in the Low Ground / 11. Jesse James / 12. Uncle Charlie Interview / 13. Mr. Bojangles / 14. Opus 36, Clementi (John) (作品36番・クレメンティ) / 15. Santa Rosa / 16. Propinquity (近親) / 17. Uncle Charlie / 18. Randy Lynn Rag / 19. House at Pooh Corner (プー横丁の家) / 20. Swanee River / 21. Uncle Charlie Interview #2 / the End / Spanish Fandango
- produced by William E. McEuen
- the Nitty Gritty Dirt Band (web site: http://www.nittygritty.com/ )
- Jimmie Fadden, Jeff Hanna, John McEuen, Les Thompson & Jim Ibbotson
- Jeff Hanna
- born on July 11, 1947 in Detroit, MI.
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