Maria Muldaur / Maria Muldaur
オールド・タイム・レイディ / マリア・マルダー 1973年
進藤むつみのおすすめCD (vol.43)
数多くのグッド・タイム・ミュージック(オールド・タイム・ミュージック)の中で、この Maria Muldaur のソロ・デビュー作は、最も成功したアルバムでしょう。そして時代を越えて、今でも多くのファンに愛され続けているアルバムだと思います。
グッド・タイム・ミュージックとは、古き良き時代の音楽・・・、1920〜30年代のサウンドを、現代の目で見て再評価した音楽といえるでしょうか。例えば90年代に入ってからも Squirrel Nut Zippers の活躍などがありますが、70年代に注目されたジャンルのひとつです。そしてその中で、このアルバムが頂点にあるような気がするんです。
ニュー・ヨークに生まれ、フォーク・クラブで歌っていた Maria Muldaur (当時は Maria D'Amato) のデビューは、1963年 the Even Dozen Jug Band の一員としてでした。そして、後に夫婦となる Geoff Muldaur と出会い、Jim Kweskin Jug Band に移籍します。
ジャグ・バンド・・・。ギター、バンジョー、フィドルなどの他に、カズー、ジャグ(広口の瓶)、そして洗濯板のウォッシュボードや洗濯桶を使ったベース・・・。生活品を利用した、1900年代初期の黒人音楽の演奏スタイルで活動していた事は、その後の彼女の音楽活動に、大きな影響を与えたと思います。
バンド解散後は Geoff & Maria Muldaur 名義で、Pottery Pie、Sweet Potatoes の2枚のアルバムを発表。これもオールド・タイミーなサウンドですが、Geoff の音楽に対する知識や情熱、そして Maria のヴォーカルの魅力が見事に溶け合った傑作アルバムです。(離婚後 Geoff は、Paul Butterfield's Better Days に参加)
そして、このソロ・デビュー作 "Maria Muldaur" につながります。全米3位とセールスとしても大成功したアルバム。だけど、それよりこのクオリティの高さを、懐かしい気持ちにさせるサウンドを楽しんでもらいたいと思います。
オープニングの "Any Old Time" で、Ry Cooder の抓み弾くアコースティック・ギターに乗せて Maria の歌声が聞こえてくると、もう彼女の世界に釘付けになります。本当に魅力的なサウンド、魅力的な歌声です。
蝶が舞うように歌うんです。官能的で艶のある声に、ドキっとさせられるんです。そして暖かく包み込まれ、懐かしい世界に導かれてしまう。きっと上手なんでしょう。上手なんでしょうけど、それよりも彼女の声の魅力を感じさせてくれます。
それをサポートする演奏・・・、これがまた、この時代の最高のモノと言いたくなるくらい。ミュージシャンの力量もそうなのですが、彼等も又こういった音楽が好きだと、証明しているように思えます。
"Midnight at the Oasis" (6位) は、この傑作アルバムの更に頂点に位置する曲です。 ・・・と言う事は、グッド・タイム・ミュージックの頂点かもしれませんけどね(笑)。まさに「オールド・タイム・レディ」の称号に、相応しい歌いっぷりには脱帽です。
ホントは、懐かしいって言うのはおかしいんですよね。20〜30年代のアメリカの音楽に、直接触れてるわけじゃないんですから。だけどね、やっぱり懐かしいんです。あたしって音楽が好きなんだって、再確認させてくれるようなサウンドなんです。
それと、Geoff & Maria の "Pottery Pie" からの付き合いの、Amos Garrett を一躍有名にしたギター・ソロは聴き逃す事はできません。ホントに見事の一言。舞うように歌う Maria に 舞うようなソロで答える Amos。良いプレイって、それぞれを高め合って、更に良いモノになっていくような気がします。
Maria 節が冴え渡る "I Never Did Sing You a Love Song" が、このアルバム一番のお気に入り。あたし、こういう曲に弱いんです。こういう歌い方に弱いんですよ。もう、胸が締めつけられるような気がしてね。涙が零れそう・・・。
他にも、ストレートにカントリー・タッチで歌い上げる "My Tennessee Mountain Home"、スイングが気持ちいい "Walkin' One & Only"。またはロック調にニヤリ、懐かしさにしんみり・・・。さまざまなスタイルを取り入れながらも、全て良質のグッド・タイム・ミュージックになっているのは、このアルバムの完成度の高さを感じさせます。
これは、プロデューサーの Lenny Waronker、Joe Boyd のコンビをはじめとして、バックで支えたミュージシャンの力量も大きかったのでしょう。前述の Ry Cooder や Amos Garrett の他に、Jim Keltner, Chris Ethridge, Mac Rebennack, Clarence White, Andrew Gold・・・。 "My Tennessee Mountain Home" を聞けば「うん、なるほどこの演奏は Clarence White」と思ったり、"Vaudeville Man" なら「このギターは Andrew Gold で決まり!」とかね。トータルとしてまとまりがあり、なおかつ、それぞれの演奏も楽しめるのが、このアルバムのひとつの魅力なんだと思います。
Maria Muldaur は、この後もコンスタントに活動を続けています。だけど、個人的には74年に発表された次作 "Waitress in a Donut Shop"(これも傑作)、そして76年の "Sweet Harmony" までかな?。90年以降、再評価されるなどもあるんですけどね。
うん、この "Maria Muldaur" と比べちゃうから、いけないのかもしれません。ホントに名盤なんですよ。なにしろ30年以上前に発表されたアルバムが、現在でも古びないどころか、新鮮なサウンドに感じてしまうのですから。
- Maria Muldaur
- 1. Any Old Time / 2. Midnight at the Oasis (真夜中のオアシス) / 3. My Tennessee Mountain Home / 4. I Never Did Sing You a Love Song (ラヴ・ソングは歌わない) / 5. the Work Song / 6. Don't You Feel My Leg (Don't You Get Me High) / 7. Walkin' One and Only / 8. Long Hard Climb / 9. Three Dollar Bill / 10. Vaudeville Man / 11. Mad Mad Me
- produced by Lenny Waronker & Joe Boyd (except 4), David Nichtern (4)
- Maria Muldaur (web site: http://www.mariamuldaur.com/ )
- born Maria Grazia Rosa Domenica D'Amato on September 12, 1943 in Greenwich Village, New York City.
TBさせていただきました!soulmanというものです。
>Maria 節が冴え渡る "I Never Did Sing You a Love Song" が、このアルバム一番のお気に入り。
1番好きな曲は人それぞれですけど(ぼくは"The Work Song"かなぁ)、彼女の声って、聴く人の心に沁みこむような強いパワーを持ってますよね。ぼくは彼女のそんな声が好きで、90年代以降の音源も、結構聴いてます。確かに、このデビュー作と比べてしまうと…ですが^^;
>soulmanさん
"the Work Song" もいいですね。歌い出しとコーラスの対比は、アルバム中一番際立っているんじゃないでしょうか・・・って、記事中で触れてないし(笑)。
やっぱり声なんでしょうね。官能的でいて優しさがあって・・・。だけど、あたしも90年代以降もいくつか聴いてるのですが、良いとは思ってもそこまでかなあと。残念ながら、グッと引っ張り込まれるまでいかないんですよね。