Wildflowers / Tom Petty
ワイルド・フラワーズ / トム・ペティ 1994年
進藤むつみのおすすめCD (vol.62)
大好きなミュージシャンで、いつも期待に胸を膨らませて新譜を手にするのに、なんかちょっと外されちゃう人っていませんか?。もちろん曲が悪いわけでもない、演奏もいつも通りにドライヴ感がある。いえ、もっと単純にカッコ良さも変わらないんです。それなのに、あたしが聞きたかったサウンドとちょっと違う・・・。あたしにとって Tom Petty & the Heartbreakers は、そんなバンドでした。
初期のストレートなロックン・ロールが、印象的すぎたのでしょうか?。それとも大ヒットした "Damn the Torpedoes" の頃のサウンドを、忘れられないのか?。発売されてすぐに買うじゃないですか。だけど「あれっ?、ちょっと違うな」って思っちゃう。あたしの期待を分かっていて、かわされるような気がしちゃうんです。もっとも彼等は恐ろしく真剣に音楽に取り組んでいるバンドで、自分たちのサウンドを追い求めながら、しかも先達へのリスペクトを表現していたんです。だから、あたしの好みが単純で、音楽に対する知識も少なかったっていう事なんですけどね。
そんな彼等のサウンドが、あたしの期待と見事に一致したのが、93年の "Greatest Hits" に収録されたシングル "Mary Jane's Last Dance" でした。ハーモニカをフィーチャーした強烈に泥臭いサウンドで、あたしはその曲を聴いた瞬間、失礼ながら「なんだ、やれば出来るんじゃない」って思ったんですよね(笑)。そして、翌94年に発売されたこの "Wildflowers" は、強烈にルーツ色を出したアルバムで、あたしがもっとも好きな Tom Petty の作品になったんです。
1/4チェロキー・インディアンの血を引く Tom Petty は、フロリダはゲインズビルの生まれ。Mudcrutch の一員としてシェルター・レコードからデビューしますが、これは不発に終わります。その後、Leon Russell とレコーディングを進めるものの、これも Leon の契約上の関係から終わりに。その時に Mudcrutch のメンバーを中心に結成されたのが、Tom Petty & the Heartbreakers だったんです。
77年にアルバム "Tom Petty & the Heartbreakers" でデビュー。当時『the Byrds のギター、the Rolling Stones のリズム、Bob Dylan のヴォーカル』と言われたのも間違いはないでしょうけど、飾り気のないストレートなロックン・ロールで、強烈な吠えっぷりの裏に、繊細なハートを感じさせるあたりが、あたしが好きになった一番の要因だと思います。デビューシングルの "American Girl" が元 the Byrds の Roger McGuinn にカヴァーされるなどもあり、徐々に評価を高めていきました。
79年のサード・アルバム "Damn the Torpedoes" (全米2位) に収録の "Refugee" (15位)、"Don't Do Me Like That" (10位) がシングルヒットで、彼等は一躍メジャーな存在になりました。『3分間ポップスが最高』と Tom が言うように、彼等のポップ性が最も出たアルバムだと思います。だけど、81年の "Hard Promises" (2位) は逆に抑え気味に仕上げるあたりに、彼等の真面目さを感じるんですよね。そしてこのアルバムから、あたしはリアルタイムに彼等を追いかけていったんです。
82年の "Long after Dark" で、さっそくあたしは外されました(笑)。もっとストレートに行って欲しかったんですよね。そして85年の "Southern Accents" (7位) は、南部生まれの彼等のベースを描こうとしたのでしょう。だけど、Eurythmics の David A. Stewart が、共同プロデュースで3曲に参加してるんですよね。これがメッセージを薄くしたと同時に、あたしの期待を外しちゃうんです。後に Johnny Cash にカヴァーされる、名曲 "Southern Accents" も収録されてるんですけどね。
Bob Dylan とのツアーや覆面バンド Traveling Wilburys を経て、89年の初のソロ・アルバム "Full Moon Fever" (5位) では、ELO の Jeff Lynne が共同プロデュース。Jeff の力はスゴイんですよ。だけど、さすがにオーヴァー・プロデュースにはなってないものの、音の壁を作るウォール・オブ・サウンドは Tom の音楽には合わないとあたしは思うんですよね。で、アルバムとしては良いんだけど、あたし的にはまたも外された感じだったのでした。
この外され続けた歴史が終わったのが、前述の "Mary Jane's Last Dance" (14位) でした。ちょっとやり過ぎなくらいの泥臭さ・・・だけど、あたしはそういう音が好きですからね(笑)。そしてこの "Wildflowers" (8位) で、ついにアルバムを通してノックアウトされる事になりました。ソロ名義ですが、ほとんどの Heartbreakers のメンバーが参加しています。プロデューサーは Rick Rubin でした。
"Wildflowers" のイントロでアコースティック・ギターのストロークが聞こえてきた時、あたしはすごくホッとしたんです。妙な懲り方をしてないんですよね。ストレートな彼等の息づかいを感じました。そして Tom のチョット癖のあるヴォーカルが入って、そしてピアノの音も優しくって・・・。緊張してないわけじゃないんだけど、肩に力が入ってるわけじゃない。こんな風に素直にロックすればイイんですよね。そしてなにより、彼等が楽しんでいる事が分かるんです。
全米13位と大ヒットした "You Don't Know How It Feels" は、飄々とした 歌声を楽しみましょう♪。メロディーもリズムも淡々と進む中で、やっぱりこのバンドの実力って相当のものだと思うんです。しっかりと南部の香りが漂っていて、南部の景色を思い浮かべさせて、その上に人間の力強さを感じさせるんですよ。ここまで表現できる音楽ってすごいです。そして、彼等はやっぱり南部人なんだと思うんです。
"You Wreck Me" は、初期のストレートなロックン・ロールを思わせる曲。彼等のスタートって、ここだったんですよね。もっとも、レザーを着てフライングVなんか弾いてたから、誤解されちゃったんですけどね(笑)。もういちどあの頃の Tom の魅力に、クラッときちゃいそうな気がします。
"It's Good to Be King" (68位) は、マイナーなフォーク・ロックです。日本のフォークにも、こういう色合いの曲は多かったですよね。だけど、こんな曲調の彼等は初めてかな?。それとも彼等の歴史の中で、こんな感じをベースにした曲はあったかな?。まあ、この曲を初めて聴いた人は、彼等って分からないでしょうからね。やっぱり、彼等の中では異色の曲かも知れません。
他にも、クラシック・ハード・ロックにあるようなギター・リフを思わせる "Honey Bee" や "Cabin Down below"、"Damn the Torpedoes" の頃の彼等を思わせる "a Higher Place"、まさにアメリカン・ロックのアルバムのエンディングに相応しい余韻を楽しめる "Wake Up Time" など、バラエティに富んだ曲を一つのトーンで纏めあげているのがさすがです。Tom Petty & the Heartbreakers と Rick Rubin の実力が、相乗効果として出たんじゃないかと思います。
どの時代の Tom Petty が好きかにもよるんですけどね。あたしは "Wildflowers" が最高傑作だと言い切りたいと思います。ヴォーカルも演奏も、メロディーもアレンジも、全てにおいてハイ・クオリティな上に、彼等のアルバムの中で一番ルーツ色が強いですからね(笑)。ルーツ・ロックが好きな方にもお勧めしたいアルバムなんです。いえ、もちろん Tom Petty はカッコイイんですけどね♪。
この後、96年に全曲彼等の演奏によるサントラ "She's the One" を挟んで、99年にこれも大傑作 "Echo" を発表。このあたりのアルバムって、全部 Rick Rubin が絡んでるんですよね。Beastie Boys や Red Hot Chili Peppers のプロデュースで有名な人なんだけど、ルーツ音楽に対する造詣の深さは相当ですね。主宰する American Recordings が、注目を集めたのも当然だと思うんです。
ただし、彼等は2002年の "the Last DJ" で方向転換。the Black Crowes などを手掛けた George Drakoulias のプロデュースなんだけど、個人的にこのアルバムは the Beatles へのリスペクトが入ってるような気がするんですよね。うん、彼等は60年代に自分が影響を受けた全てのミュージシャンへのメッセージを、時代ごとに表してきたような気がします。それも、自分達の個性やルーツをしっかり分かっていてね。
だからこそ、今度は若いミュージシャン達からリスペクトを受ける存在になっているのでしょう。これからもいろんな形で、あたし達を楽しませてくれると思うんです。まあ、また外されちゃう事があるかもしれませんけどね。来春発売のソロは・・・、また Jeff Lynne と組むらしいんですよね。うーん、あたし的には止めてほしいんだけどなあ(笑)。
- Wildflowers
- 1. Wildflowers / 2. You Don't Know How It Feels / 3. Time to Move on / 4. You Wreck Me / 5. It's Good to Be King / 6. Only a Broken Heart / 7. Honey Bee / 8. Don't Fade on Me / 9. Hard on Me / 10. Cabin Down below / 11. to Find a Friend / 12. a Higher Place / 13. House in the Woods / 14. Crawling Back to You / 15. Wake Up Time
- produced by Rick Rubin with Tom Petty & Mike Campbell / recorded at Sound City, L.A., CA & Ocean Way Recording, L.A., CA
- Tom Petty (web site: http://www.tompetty.com/ )
- born on October 20, 1953 in Gainesville, FL; dead on October 2, 2017 (age 66).
こんばんわー。ご無沙汰です。
トム・ペティですねぇ。いいですねぇ。
80年代の彼らのアルバムに対する今一歩な感じ、、、それは僕もよく味わっていました。僕の中でトムペティがブレークするのは86年のライブ盤からですね。
ジェフリンとのコラボレートもわりと好きです。実は。。。
そして、"Wildflowers"。。。この作品が彼らの最高傑作というのには全く同感ですっ。
>onomichi1969さん、あはっ☆ホントにお久しぶりです♪。
やっぱりそう思いましたか。もしかしてあたしの期待が大きすぎるのか、それとも間違った方向を望んじゃってるのか・・・なんて考えちゃった事もあるんです。だって、どのアルバムを聴いても、良い事は良かったんですから。
"Pack Up the Plantation" か・・・。onomichiさんはレビューしてましたものね。あたしはどうしてもライヴ盤を低く見ちゃうクセがあるんだけど、この時期はこれが一番だったのかもしれなませんね。
それと、"Full Moon Fever" にしても、この時期のスタジオ盤ではベストだと思います。ただ、綺麗すぎっていうか、纏まりすぎっていうか、ワイルドな Tom Petty が聴けないと思うんです。そのあたりがイマイチな評価の要因なんですよね。
・・・ELOは、いつかレビューするつもりですけどね。
"Wildflowers" が最高傑作と意見があったトコで、乾杯したいですね♪