Amorica / the Black Crowes

アモリカ / ブラック・クロウズ 1994年
進藤むつみのおすすめCD (vol.65)

get "Amorica"『濃ゆい』アルバムです。もうね、『濃い』なんて言い方なんかじゃ、このアルバムの特徴を伝えられないくらい『濃ゆい』んですよね。音作りの密度の濃さというよりも、ねっとりとしたサウンド。ヴォーカルもギターも、これ以上ないくらいの『濃さ』を醸し出しているんです。

えっ、意味がわからない?。仕方ないな、言い方を変えてみましょうか(笑)。

『熱い』アルバムです。サザン・スタイルのロックやブルージーなサウンドは、熱を感じさせる事が多いと思うんです。曲によっては『乾いたの太陽』の暑さとかね。だけど、このアルバムはそれ以上に、人間の体温の高さを感じさせるような気がします。その熱の高さが、このねっとりとしたサウンドに表れているような気がするんです。


the Black CrowesChrisRich Robinson 兄弟を中心にアトランタで結成されました。ジョージア州アトランタ・・・。もう、サザンロックのど真ん中の生まれなんですよね。ブルーズを感じさせるのも同じ。Chris の強烈にソウルフルなヴォーカルもそう。シンプルで懐かしさを感じさせるサウンドにしても、彼等のスタイルが自然体であったからだと思います。

彼等はデビュー後に the Rolling Stones っぽさを指摘されたりしたけれど、きっと逆だと思うんですよ。Stones は南部のサウンドに憧れて、意識的にそれを求めたんですよね。だけど、the Black Crowes はその真っ只中で生まれ育ってきたんだから、彼等のサウンドがそういう感じになる事の方があたしは自然だと思うんです。

後に Primal Scream の南部化にも手を貸した George Drakoulias のプロデュースで、90年に "Shake Your Money Maker" でデビュー。難しい事を狙わないストレートな R&R は、この時代のルーツミュージック好きな人間にとってはまったく救いでした。こういうサウンドの再評価が高まるのは、もう少し後になるんですよね。デビュー盤が400万枚のセールス、全米4位と上々のスタートになったのです。

92年、"the Southern Harmony and Musical Companion" (1位) を発表。このアルバムは、彼等の代表作と呼ぶに相応しい内容でした。Chris & Rich 共作による曲作りのレベルも上がったし、ソウルフルな Chris のヴォーカルは更に迫力を増している。だけど、それ以上にあたしが嬉しいのは、このアルバムから、サウンドのねっとり感が出てきた事なんです。新加入の Marc Ford のギターの影響はもちろん大きかったと思いますが、それに触発された Rich の成長も目を見張るものがあります。


そして94年、完成しかけた新アルバムの音源を没にして、前年 Jellyfish を手掛けた Jack Joseph Puig のプロデュースでこの "Amorica" は録音されました。このアルバムから感じられる熱は、前作のもの以上・・・というより、ちょっと他に例がないほどになったと思うんです。

"Gone" のオープニングのパーカッションから、それを予感させます。うん、パーカッションの Eric Bobo のゲスト参加は、このアルバムのサウンドに重要な味付けをしてるんです。だけどね、ギターの1発目のカッティング。そしてオブリガート。ここで、このアルバムのトーンや方向性が固まったような気がするんです。

ねっとりとして熱のある濃いサウンド・・・。これが Chris のソウルフルなヴォーカルをもり立てます。今まで以上に、その特徴を際立たせているんですよね。そうなるとギターのフィードバック音にしても、時折浮かび上がるピアノにしても、全てが渾然一体となった独特のサウンドとなって、あたしの体に絡みついてきます。そう、ねっとりとね。こういう感覚を感じる事って、きっとそんなに多くありませんよね。


"High Head Blues" のイントロで、ああ、またパーカッションが・・・(笑)。このパーカッションとギターのユニゾン (?) が、またまたあたしの熱を高めてくれます。オールド・ロックにあるリズムの取り方なんですよね。それなのに古さは感じさせないし、軽いポップスにはなってない。そう、ギロやカウベルがフィーチャーされたとしても、the Black Crowes のサウンドになっているのが面白いと思うんです。

それに、"Cursed Diamond" で聴かせるしっとりとしたルーツさは、やっぱり彼等のベースになる音は変わってないと確認させてくれます。ルーズ感と適度なハードさがイイんですよね。やっぱりこういうのって、体に染みついちゃってるんでしょうね。自然体でプレイしたら、きっと自然に出てくる事なのでしょう。

そして、"Wiser Time" があたしの一番のお気に入り。カントリーっぽさも感じさせるこの曲は、昔からのサザン・ロックそのもの。ファースト・アルバムにゲストで参加した the Allman Brothers BandChuck Leavell は彼等を絶賛したけれど、だって、そのものですものね(笑)。この曲と次の "Downtown Money Waster" のルーズさは、特にそんな風に思わせるんです。


ラストの "Descending" まで全部を通して、そして落ち着いて聴いてみれば、本来の the Black Crowes らしいアーシーな曲が多い事に気付きます。ファースト、セカンド、サードと、ひとつずつ階段を上っている事もわかります。特にファーストの無鉄砲さと比べて、彼等は格段に成長しているんです。

だから、特徴的な数曲だけを聴いて、このアルバムを判断しちゃいけないのかもしれません・・・けどね、あたしはやっぱりこの『熱』を楽しみたいんですよね。彼等のアルバムの中で・・・というよりも、他のバンドにも例が少ないサウンドを、 "Amorica" 独特な『濃さ』を楽しんで感じてもらいたいと思うんです。


この後 the Black Crowes は、96年に "Three Snakes and One Charm" を発表。サイケっぽさもあるアルバムだけど、そんな中にもバンドの本質を覗き見れるのが面白い。だけど、あたしはちょっと散漫さを感じちゃうんですよね。それよりも、メンバーチェンジをした次作 "by Your Side" (99年) で、彼等のサウンドが完成したような気がするんです。アーシーさと纏まりのよさ、相反するように思える事を見事に表現している傑作アルバムだと思います。うん、大人になったって思うんですよね。

だけど、01年の "Lions" を最後に彼等は活動を停止し、それぞれがソロ活動に入りました。Don Was がプロデュースのこのアルバムは、前作に加えてあたしが好きなねっとり感が復活して、面白いと思ってたんですけどね。少し前に Jimmy Page とコラボレーションをしたのも、良い方向に生かしてるような気がしてね。兄弟喧嘩って話もあるんですよね。うーん、大人になってなかったって事なのかなあ・・・。

それでも去年 (05年)、彼等はまた活動を再開したんです。ライヴ活動には定評があるし、初期のメンバーも復帰したりして、これからどんなアルバムを作ってくれるのか、ちょっと楽しみにしてるあたしなんです。

Amorica
1. Gone / 2. a Conspiracy (陰謀) / 3. High Head Blues / 4. Cursed Diamond (呪われたダイアモンド) / 5. Non-Fiction / 6. She Gave Good Sunflower / 7. P.25 London / 8. Ballad in Urgency / 9. Wiser Time / 10. Downtown Money Waster / 11. Descender
produced by Jack Joseph Puig & the Black Crows / recorded at Sound City
the Black Crowes (web site: http://www.blackcrowes.com/
Chris Robinson, Rich Robinson, Marc Ford, Steve Gorman, Johnny Colt & Eddie Harsch
Chris Robinson
born Christopher Mark Robinson on December 20, 1966 in Marietta, GA

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posted by 進藤むつみ on Winter, 2006 in 音楽, 1990年代, アメリカン・ルーツ

comments (12)

「奇妙なことに、ローリング・ストーンズがプレイすると『ロックンロール』と呼ばれ、ブラック・クロウズが同じタイプの音楽を演奏すると『レトロ』と呼ばれる」
これはあるレビューにあった文章ですが、なかなか気にいっています。クロウズの本質をついていると思う。

「a Conspiracy」は、クロウズをそれと意識して聴いた初めての曲でした。思い出すなあ。

しかし。アモリカだけは買ってません。買えるかー!!
いくら何でもこのジャケはひど過ぎます。ネット販売のなかった頃は、乙女はどうやってコレを入手すれば良かったというんだあっ!!

>Screaming Bunnyさん♪。
あはっ☆、怒ってる。一度見ただけで、忘れられないジャケットのひとつなんですけどね。確かにセンスが良いとは言えないな。あたしは買えましたけどね・・・って、当然ですか?(笑)。
なるほど、ロックンロールとレトロか。いいトコついてますね。特に初期の彼等って、レトロとかコピーとか、そんな言い方がついて回りましたものね。ただ、全く新しいモノを取り入れなかったわけじゃないんだけど、何て言われてもストレートな表現をしてきた事が結局は評価されるわけで、なかなか大したバンドだったんじゃないかと思うんです。

The Black Crowesに関するコメント読みました。
的確に上手く表現しますね。
1st Album"Shake Your Money Maker"が発売された時、僕は高校生でした。
"Sister Luck" と"She Talks to Angels" が好きでずっとAlbumが出る度に聞いています。
僕は2nd Album "The Southern Harmony and Musical Companion"が一番好きです。
おっしゃる通りMarc Fordの加入は大きいですね。
Led Zeppelinも好きなのでLive at the Greekは今も頻繁に聞きます。
2006年のライヴ"Freak 'n' Roll...Into the Fog"が最高です。
一時的ですが2nd Albumのメンバーが集まりMarc Fordもかっこいいですね。

>うえださん♪、妙な言い方しててすみません(汗)。
今 "the Southern Harmony and Musical Companion" と "Amorica" を聴き比べてたんですけど、本来の the Black Crowes らしさから言えば・・・断然 "Southern Harmony..." ですよね。で、あたしの音楽の趣味から言っても同じになるはずなんだ。でも、それは分かっているけど、どうにも "Amorica" に取り憑かれちゃったような感じです。ああ、ねっとりとしたサウンドがあたしを呼んでいる(笑)。
"Live at the Greek" は面白い上に、彼等にとっても大きかったと思っています。問題はただ、兄弟仲がねえ。まあ、もっと丸くなったら魅力あるサウンドが作れないのかもしれませんけども・・・。

僕も"Amorica"は好きです。
8."Ballad in Urgency" 〜11."Descending" 迄の流れは特にいいですね。
このAlbumには入っていませんが、"Disc one: The Tall Sessions"にも収録されている"Sunday Night Buttermilk Waltz"も好きです。
いい感じに乾いて枯れた雰囲気もあり後半は優しくBlack Crowesのなかでも頻繁に聞くAlbumです。

>うえださん♪
うえださんはエンディングにかけての曲の繋がりが特に気になるみたいですね。まあ、あたしは出だしの3連発にやられたって感じはありますけども(笑)。
評価されてなくても好きなアルバムとか、そのアーティストにとって重要とは呼ばれてないけど好きな曲だとか、そんな拘りこそが実は大切なんだと思います。そういうトコが、その人らしさになってくような気がするんですよね。

むつみさん
"Amorica"リリースは確か1994年です。
このレビューを書いたのは2006年ですね。
むつみさん、2006年リリースのThe Lost Crowesは聴きましたか?
Disc one: The Tall Sessionsが"Amorica"リリース前の未発表曲ですが、かなり曲も重複しています。
これがそのまま3rd Albumとして発表されていれば評価もかなり違ったでしょうね。
アレンジも若干異なり、2nd Albumの流れに近いと思いました。

>うえださん♪
あたし、コンピレーションは聴かないんですよね。完成されたアルバムだけで評価するタイプで、ボーナストラックさえも、iPhoneとかに入れる時には外してたりします。
"Amorica" は録り直しされて今の形っていいうから、その頃の音源は面白いかもしれませんね。確かに "Southern Harmony..." の流れになるのかもしれないし、ファンの評価も高かったかもしれない。でも、そうすると "Amorica" は存在できない事になる。面白いよなあ、 the Black Crows はそっちを選んだって事なんですよね。

むつみさんがコンピレーションは聴かないって、なんとなく予想出来ました。
当時彼らがこのAlbumを出していたら、むつみさんのおっしゃる通り、ファンの評価は高かったと思います。
僕もAlbumの流れを損なうボーナストラックが好きではなくて、日本版はほとんど買いません。
“幻のアルバム”『BAND』&『TALL』2枚のリリース(2016)彼らがこのタイミングで世に出す判断をした事。
同じく(2016)マークフォードが戻りライブを行った事。
このAlbumからもライブで演奏された曲もありました。
製作された時系列を見ると面白く、デビュー当時から応援していたファンとしては聴くのが楽しみでした。
マークフォードが加入して、また一緒にライブをする。
僕にとってバンドが一番良いメンバーが集まった所がまた見れるというのがが嬉しかったです。
むつみさんのおっしゃるように、バンドはこの時Amoricaを選択したんですよね。
僕はそういう所も含めてAmoricaが再び好きになりました。
・Shake Your Money Maker(1990)
・Southern Harmony And Musical Companion(1992)
・Tall
・Amorica.(1994)
・Three Snakes And One Charm(1996)
・Band
・By Your Side(1999)

>うえださん♪
まあ、自分のブログだと思って、勝手な事言ってるわけですけどね(笑)。
例えば、"Shake Your Money Maker" は『新人バンド』が『あの内容』で『1990年』にリリースしたわけです。どれも違ったらダメなんですよね。あのアルバムのリリースが後3年早かったり3年遅かったりしたら、全然意味合いが変わってくる。評価も衝撃も。まさにあの時しかなかったんだと思うんです。同じ事が "Amorica" にも言えるし、"Three Snakes and One Charm" 以降のアルバムにも言える。
バンドによっては残念な結果になっちゃう事もあるけれど、それがそのバンドの歴史だと思うんですよね。the Black Crows は悪い歴史は送ってないと、あたしは思うんです。

そうですね。
タイミングは大事ですよね。
思えばタイミングでチャンスを逃した勿体無いバンドって結構いますよね。
逆に全てがぴったり合った時、その時だから作れた曲を聴いや音などもありますね。
このAlbumの様に。
Albumはそういった記録的な一面もありますね。

>うえださん♪
あたしは "America" こそ、このタイミングだからこの音が出た代表的にアルバムだと思ってます。

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