Red Dirt Girl / Emmylou Harris

レット・ダート・ガール / エミルー・ハリス 2000年
進藤むつみのおすすめCD (vol.14)

get "Red Dirt Girl"Emmylou Harris は、カントリー・シンガーの大御所です。だけど、常に新しい事に挑戦してきた彼女の姿勢は、この "Red Dirt Girl" でも変わりません。それどころか、近年オルタナ・カントリー(彼女は自分ではアメリカーナと言ってます)に接近した彼女は、シーンを引っ張るほどのパワーを見せているんですよ。そしてこのアルバムでは、まさに前人未到、誰も歩いた事のない道を歩いているんです。


Emmylou はアルバム "Gliding Bird" で、フォーク・シンガーとしてデビューしました。1970年の事ですが、このアルバムは完全に不発に終わります。彼女が注目されたのは、以前 the Byrds"Sweetheart of the Rodeo" でご紹介した、 Gram Parsons に出会ってからでしょう。彼のバックアップ・シンガーとして "GP" (73年), "Grievous Angel" (74年) の2枚のアルバムへの参加。見事なほど、息の合ったハーモニー。特に後者は、Gram Parsons & Emmylou Harris のデュオ・アルバムと言えるくらいに、フィーチャーされました。しかし Gram の死のショックで、彼女は音楽を捨てる決意をしていたそうです。

彼女を音楽の世界に呼び戻したのは、友人の Linda Ronstadt だったと言います。そしてここから、本当の意味での快進撃が始まります。

Gram の音楽性をそのまま継承した、"Pieces of the Sky" (75年) で再デビュー。同年発売された "Elite Hotel" では、早くもカントリー・チャートの1位にランクされました。不思議ですよね。Gram Parsons のアルバムは、カントリー界からは目も向けてもらえなかったのに、同じカントリー・ロック・スタイルの彼女が認められるなんて。

全てが新鮮だったのかもしれません。本来のカントリーの発声法ではない、ステージで自由奔放に動き回る、独特でありながら透き通った歌声・・・(歌声は多くのアーチストにも望まれますが、特に Bob Dylan"Desire" は必聴!)。カントリーへの敬意は表しながらも、ブルーグラスへ接近したり、フォーク的なアプローチを見せたり。バック・バンドに恵まれた事もありますが、カントリーのトップ・スターの座に安住せず、常に挑戦する姿勢には頭が下がります。

さて、この "Red Dirt Girl" のお話をしなければなりません。いえ、本当に誰も歩いた事のない道を、切り開いているんですよ。確かに Daniel Lanois のプロデュースで、グラミー賞を受賞した前作 "Wrecking Ball" (95年) でもその予兆はありましたが、このアルバムほどではありませんでした。予告編に過ぎなかったは、言い過ぎかしら?。

1曲目の "the Pearl" からその異空間は始まり、ラストの "Boy from Tupelo" まで淡々と続きます。前作にもエンジニアとして参加した、プロデューサー Malcolm Burn の独特のサウンド、音世界です。

一見抑揚のない、平坦なアルバムに感じるかもしれません。わざと盛り上がりを抑えているように。特に奇をてらったアレンジや、変わった楽器を使う事も避けています。だけど、その陰で大胆な音が作られているんです。この "Red Dirt Girl" は、カントリーではありません。間違いなくオルタナ・カントリー、ロックの音作りです。

それなのに、懐かしさを感じてしまうのは、何故なのでしょう。彼女の歩んできた道程、カントリー・ミュージックを通してアプローチしてきた経験が伝ってくるのでしょうか。それとも彼女の声質、繊細な歌声がそう思わせるのか。不思議に新しいアプローチ、特異なサウンドの中にも、ホッとできる世界があるんです。

Dave Matthews とデュエットした "My Antonia" など、注目される曲もあります。だけど、そういう個別の曲よりも、アルバム全体を通して感じられる独特の空気こそを、楽しんでもらいたいと思います。また、一部の競作もありますが、"One Big Love" 以外の全ての曲が、Emmylou の作品で構成というのは、これまでの彼女のアルバムの中では特別かもしれません。それも新しい事に挑戦する、彼女の気持ちの現れなんじゃないかしら。


確かに、古くからのファンの人には、馴染めないアルバムかもしれません。もちろんカントリーを期待していた人にもね。だけどデビュー30年を迎えた Emmylou が、オルタナ・カントリー・シーンをリードしているサウンドですからね。新しいミュージシャンへの影響も感じながら、彼女の最高傑作を聴いてもらいたいと思うんです。

Red Dirt Girl
1. the Pearl / 2. Michaelangelo / 3. I Don't Wanna Talk about It Now (今は話したくない) / 4. Tragedy / 5. Red Dirt Girl (赤土の少女) / 6. My Baby Needs a Shepherd / 7. Bang the Drum Slowly / 8. J'ai fait tout / 9. One Big Love / 10. Hour of Gold (黄金色の永遠) / 11. My Antonia / 12. Boy from Tupelo
produced by Malcolm Burn / recorded at Clouet Street Studio, New Orleans, LA
Emmylou Harris (web site: http://www.emmylou.net/
born on April 2, 1947 in Birmingham, AL

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posted by 進藤むつみ on Autumn, 2004 in 音楽, 2000年代, アメリカン・ルーツ

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