Cure for Pain / Morphine

キュアー・フォー・ペイン / モーフィーン 1993年
進藤むつみのおすすめCD (vol.37)

get "Cure for Pain"3人でロック・バンドを組むとしたら、どんな楽器編成を思い浮かべますか?。ドラム、ベース、ギター?。もっともポピュラーな編成ですね。幅広いスタイルのロックに対応できるでしょう。えっ?、ドラム、ベース、キーボード?。うん、あたしもそれはアリだと思います。面白いサウンドが期待できますよね。まあ、ドラムとベースは必須、もうひとつの楽器を何にするかじゃないでしょうか。それも突飛な楽器じゃムリだしね。

だけど、この Morphine はドラム、ベース、バリトンサックスの3人編成。ロック・バンドでは、過去に例を見ない楽器編成じゃないでしょうか。しかも、ドラムのチューニングも低いし、2弦のベースを全てスライドで弾いてるし。曲によってはテナーサックスに持ち替えてますが、そのくらいじゃフォローできないほど、重心の低い独特のサウンドが広がります。


ボストンをベースに飛びだしてきた Morphine は、Treat Her Right (88〜90年に3枚のアルバムを発表) のメンバーだった Mark Sandman が、サイド・プロジェクト的に始めたバンドです。スタート時点から3人編成でした。Mark はファースト・アルバムの "Good" (92年) では、なんと「1弦スライド・ベース」をプレイ。1弦スライド・ベース!・・・そんなものはありません(笑)。1本だけ弦を張ったベースを、ボトル・ネックで弾いていました。このアルバムからは弦を2本に増やしましたが、この独特なベースの音色が、バンドのサウンドの特徴のひとつです。

特徴・・・、やはり最大の特徴は、Dana Colley が吹くバリトンでしょう。普通は主役になれない楽器が、ここではもう吹きまくり。前に出まくっています。不思議なことに、Mark のベースの音と妙に合います。いや、ベースだけじゃないですね。やけに低く歌う、ヴォーカルとの相性もピッタリだと思います。まあ、上手なのはもちろんなんですけどね。

ドラムスはこのアルバムの完成直後に、Jerome Deupree から Billy Conway に変わりました。ドラムは彼の方がいいのかな。しかし Treat Her Right でも一緒にプレイしていた Billy は、この Cure for Pain でも3曲でプレイしています。

さて、そんな楽器の音色が合わさり、他では聴くことができないサウンドが広がります。重い・・・より、重心が低いという言い方がピッタリ。もし引き返すならば、静かに響く、サックスのオープニングの "Dawna" が鳴ってる40秒のうちですよ。


シングルカットもされた "Buena"。この曲で Morphine の魅力がわからなければ、決して相容れはしないでしょう。スライドで演奏するベースのリフ。それを支えるドラムス。そして Mark Sandman のヴォーカルが、また低い声で歌うんですよ。その後に得意とした、囁きとまではいきませんけどね。そんなグルーヴに身をまかせていると、ボワ〜っとしたサックスが入ってきます。これが、気持ちいいんです!。

実際には Mark が演奏する、オルガンやギターの音も入っています。ただ、基本はトリオ編成ということから、音量も小さく控えめです。後年、この時期のライヴ・アルバムが発売されましたが ("Bootleg Detroit" = 2000年)、その演奏とあまり違うように聞こえませんからね。だから、何度も言うように「重心が低い音楽」なんです。


実はこの "Cure for Pain" って、彼等の中では一番ポップなアルバムなんだと思います。その中でも、"Candy" が一番ポップな曲かもしれません。明るいしね。まあ、それは独特の低い世界の中での話ですけど(笑)。ただこの曲に限らず、独特なサウンドを展開しながらも、難解なことはしていないと思うんですよ。

このトリオ編成ってジャズならあります。だから、ジャズの要素は当然入っています。他にもブルースやカントリーを、感じさせる部分もあります。だけど、様々な要素を取り入れて、またそれを超越た独特な世界ながら、決して入り難い音楽ではないと思うんです。この辺りが、彼等の魅力のひとつなのかもしれません。


"in Spite of Me" のような60年代フォーク・ロック調の曲があったり、ところどころにフッと気を抜ける瞬間もあるんですよね。だけど、必ずルーズで退廃的な世界に、引き戻されてしまいます。そうして行ったり来たりしてるうちに、いつのまにか彼等のサウンドに取り憑かれて、昼間の世界には戻れなくなるような気がします。

まさに、唯一無二のサウンド。男臭さがプンプンと匂ってきます。スタジオ録音なのに生っぽいです。Morphine のサウンドって、真夜中に聴くハード・ボイルドなロック、大人のためのロックなんだと思います。まあ、Low Rock と呼ばれた売り文句は、「そのままじゃん!」って突っ込んでしまいますけど(笑)。


インディーズからの発売ながら、"Cure for Pain" は30万枚を売り上げました。その後も Morphine は、95年にはサード・アルバム "Yes"、97年にはメジャーに移籍しての "Like Swimming" と順調に活動を進めます。ところが、99年のステージで Mark Sandman は、心臓発作に倒れ帰らぬ人となりました。享年46歳。録音が終わっていた "Night" (2000年) が、遺作となってしまいました。

とても残念なことです。彼ならば・・・、この先も本物の大人のためのロックを、創ってくれそうでしたから。

Cure for Pain
1. Dawna / 2. Buena / 3. I'm Free Now / 4. All Wrong / 5. Candy / 6. a Head with Wings / 7. in Spite of Me / 8. Thursday / 9. Cure for Pain / 10. Mary Won't You Call My Name? / 11. Let's Take a Trip Together / 12. Sheila / 13. Miles Davis' Funeral (マイルス・デイヴィスの葬式)
produced by Paul Q. Kolderie (1-6,8-10,12) & Mark Sandman (7,11,13) / recorded at Fort Apache & Hi-N-Dry
Morphine
Mark Sandman, Dana Colley & Jerome Deupree
Mark Sandman
born on September 24, 1952 in Newton, MA; dead of heart attack on July 3, 1999 (age 46).

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posted by 進藤むつみ on Winter, 2005 in 音楽, 1990年代, オルタナ

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