Fever In Fever Out / Luscious Jackson

フィーヴァー・イン・フィーヴァー・アウト / ルシャス・ジャクソン 1996年
進藤むつみのおすすめCD (vol.64)

get "Fever In Fever Out"音楽が好きになって、聴き込んで、のめり込んでいくほどに、聴いているジャンルが狭くなるような気がします。だんだんと、自分の好みの音が分かってくるからだと思うんですけどね。あたしがのめり込んでいったのは、ルーツ系のロックでした。特にカントリー・フレーバー溢れるサウンド♪。

逆に言えば、ラップやヒップホップなんかは、最も苦手なジャンルに感じちゃうんです。この Luscious Jackson を初めて聴いた時も、単純にあたしの好きな音楽じゃないと思いました。Beastie Boys のグランド・ロイヤル第1号アーチストと言われても、ドラムスが Beasties のオリジナル・ドラマーだって言われても、あたしにとっては売り文句にならないんです。いえ、Beasite Boys はスゴイと思う。特に "Ill Communication" は、時代そのものを飲み込んだ大傑作だと思います・・・けど、苦手なんですよね(笑)。

リアルタイムで Luscious Jackson のファーストを聴いた後、あたしは彼女達に興味を示す事はありませんでした。セカンドを聴いたのは、発売されて5年以上たってから。それも中古で250円で売っていて、他に買うものがなかったからという後ろ向きな買い方(笑)。だけど、そこにあたしを虜にするサウンドがあったんです。もちろん、ルーツ系ロックなんかじゃないけど、『ヒップホップもイイかもしれない』って初めてあたしに思わせたアルバムが、この "Fever In Fever Out" だったんです。


ニューヨーク出身の女性4人組み、Luscious Jackson。その中心になる Jill CunniffGabrielle Glaser が出会ったのは、1980年の事といいます。当時13歳のパンク・キッズだった二人は、クラブに出入りするうちに様々な音楽を吸収し、自らもスタジオに籠もる毎日だったようです。しかし、正式にバンドとして活動を始めたのは、90年代に入って Vivian TrimbleBeasties オリジナル・ドラマーの Kate Schellenbach の二人が加わってからでした。

93年、グランド・ロイヤル第1号アーチストとして、"in Search of Moanny" でシングルデビュー。翌94年、ファースト・アルバム "Natural Ingredients" を発表。このアルバムを聴くと、ヒップホップというより、その要素を取り入れたガレージ・ロックという感じがします。その後に繋がるクールさ、マイナーさ、暗さはあるものの、ある意味スカスカのサウンドで、あたしに訴えかけるものはありませんでした。


そして、別プロジェクトでの活動や、各メンバーのセッション・レコーディングを挟んで96年に発表されたのが、この "Fever In Fever Out" でした。もう、全然音の深さが違うんですよね。2年でこれだけ違うサウンドを作り上げる事ができたのは、彼女達の才能が花開いた事や、時代そのものとクロス・オーヴァーした事もあるかもしれませんが、プロデューサーに Daniel Lanois を迎えた事が一番だと思うんです。

U2Peter Gabriel のプロデュースとして有名な Daniel Lanois は、彼女達のポップな要素を引き出しながら、キッチリとした音作りでアルバムを仕上げました。曲調そのものはマイナーなのに、熱を感じさせるサウンド。グルーヴがすごいんですよね。じわじわとあたしの脳の中で、麻薬が出てくるのが分かるんです。


唯一チャートイン (36位) した "Naked Eye" の、ポップでノリの良いイントロを初めて聴いた時、何か違和感を感じながらも、あたしは『軽いな』って思ったんです。だけど、一曲終わる前に、これは大変はものかもしれないと思い直しました。なんていうか、ボディーブローを受けてる感じがするんです。ボディーブローを受け続けているうちに、脳内麻薬が染み出して来るんです。

Jill の曲作りって、基本的にはポップだと思います。ただ、今まで以上にそれを引き出しているのは、Daniel Lanois の力でしょう。だけど、このボディーブローを感じさせるのも、きっとそうなんですよね。そして最初に感じた違和感、軽いを思わせた中にある独特の音使いや、ファーストのイメージを一新する骨太なサウンド。これって相当考えられたものだと思うんです。

あたしは、この計算もやっぱり Daneil Lanois のものだと思っています。そして Luscious Jackson のメンバーのベースにあるのは、そういう計算じゃないでしょう。感性の方が強いんじゃないかしら?。ただ、気持ち良いだけだってね。その両者の思いが交わったからこそ、この素晴らしいアルバムができたんだと思います。


続く "Don't Look Back"Gabrielle の曲。彼女の曲は、Jill の曲よりも熱を感じさせます。"Electric" なんかもそうですね。ジックリと聴かせるこの曲が続く事で、このアルバムのカラーが決定されたような気がします。Kate のドラムがバンドの要って言われたりもするけど、あたしはやっぱり4人の個性のぶつかり合い、特に JillGabrielle のせめぎ合いこそが、このバンドらしさだと思うんです。

ドアが開くだけの効果音を挟んで、"Mood Swing" が始まります。あたしの一番のお気に入り。ポップでヒップホップで、そしてアシッドな音も加わってきて、この懐の深さは大したものです。色んな要素が共存してるんですよね。この曲を聴く頃になると脳内麻薬は全開で、もう腰にも来ています(笑)。

ファンクっぽさでは、"One Thing" がアルバム一かもしれません。この曲には Emmylou Harristhe Brand New HeaviesN'Dea Davenport が参加していて、妙なノリのコーラスを聴かせてくれています。ピッタリって感じゃないんだけど、不思議に悪くないんですよね。これも Daniel Lanois の計算なのかなあ?。そういえば EmmylouDaniel のプロデュースで、大傑作アルバムを発表した事がありました。


オープニングの "Naked Eye" の明るさはありますが、アルバムを通して聴くと、地味っていうわけじゃないんだけど、暗いトーンで統一されています。クールって言い方が一番良いのかな?。この落ち着いた感じがあるからこそ、あたしは自然に聴く事ができたと思うんです。

そして、グルーヴが熱と麻薬を体の中に溢れさせる、とても不思議なアルバム。あたしが初めて、この手の音楽にのめり込んだアルバム。今まで『ヒップホップなんて・・・』って思ってた方にも、この "Fever In Fever Out" でその面白さを感じていただきたいと思うんです。


Luscious Jackson は、99年にサード・アルバム "Electric Honey" を発表。このアルバムでは、Vivian が抜けて3人編成になりました。能天気な彼女のキーボードこそ Luscious Jackson の音という話もありますが、密度のあるズッシリとした音作りはセカンド以上で、このアルバムを彼女達の最高傑作と推す声も高いようです。

あたしは、ちょっと違いますけどね。もちろんファーストと比べたら、サードの方がずっと良い。だけど、"Fever In Fever Out" ほどは、脳内麻薬が出てこないんですよ。細かい音まで楽しむのも同じ。だから、あたしにとっては2>3>1の順なんですよね。


2000年になって、Luscious Jackson の解散が発表されました。『それぞれにやりたい事があって、この結果に辿り着いた』という声明があったようです。

思うんだけど、Beastie Boys が時代そのものを飲み込んだとして、Luscious Jackson はその時代のニューヨークを飲み込んでるような気がするんです。もしかしたら、彼女達は90年代の女性ニューヨーカーそのものなのかもしれません。とても感覚的なんです。すごく自由を感じさせるんです。

逆にその時代を過ぎてしまった時に、続けていく事は難しかったのかな?。4人の感性が一番高まる時期に、時代が求めるものとちょうど合致したから、これだけのサウンドを作る事ができたような気がするんですよね。だから・・・、あたしのように過ぎてからじゃなくリアルタイムで聴かないと、彼女達の本当の良さを感じる事はできないようにも思うんです。

Fever In Fever Out
1. Naked Eye / 2. Don't Look Back / 3. Door / 4. Mood Swing / 5. under Your Skin / 6. Electric / 7. Take a Ride / 8. Water Your Garden / 9. Soothe Yourself / 10. Why Do I Lie? / 11. One Thing / 12. Parade / 13. Faith / 14. Stardust
produced by Danel Lanois, Tony Mangurian & Jill Cunniff (1,5,8,10,13,14), Danel Lanois, Tony Mangurian & Gabrielle Glaser (2,6,11), Danel Lanois, Tony Mangurian & Luscious Jackson (4,7,9)
Luscious Jackson (web site: http://www.lusciousjackson.us/
Jill Cunniff, Gabrielle Glaser, Kate Schellenbach & Vivian Trimble

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posted by 進藤むつみ on Winter, 2006 in 音楽, 1990年代, オルタナ

comments (5)

なるほど。
おいしそうですね。
また、アマゾンがおれを呼んでるぜ!

>osaさん♪
ま、まさか、このミュージシャンに反応があるとは思いませんでした・・・って、ダメですか?、そんなの紹介しちゃ(笑)。
ボリュームを少し上げてですね、それで低音をグッ!っと効かせると、かなり気持ち良くなれます♪。ヴォーカルは意外に線が細いんだけど、太いサウンドとの違和感を感じさせないし、なかなか面白いアルバムだと思うんですよね。
で、呼んでるんですか?(笑)。確かに、アマゾンでも中古だとイイ値段ですね。

amazonのバナーでも貼ってくれるとめんどうがないんですけど…
どんなもんでしょうね。

むつみさん、こんにちわ〜☆
Luscious Jackson・・・ななななななつかしい〜!!!
グランドロイヤル!私の青春時代の音って感じです。
10年前かあ・・・(遠い目)。のめり込んでいくほどに、
聴いているジャンルが狭くなるような気がするっていうの
わかります。あ、私はそんなにマニアックではないですが。
たまにいつも聴かないジャンルですごく良い音楽をみつけると
いろいろ聴かない人生は損してるような気がしてきてしまいます。
もっと貪欲に!良い音楽を探し求めて生きたいです☆

>osaさん♪
実は、あたしはAmazonとアフィリエイト契約してまして、ジャケット写真がAmazonの該当商品にリンクしているんです。
なるべく著作権の問題なくジャケット写真を使いたかったからで、商売したくはないんですけどね。っていうか、あまりにも商売っ気がないもので、1年半の累計が最低支払い基準に届かないという、情けない有り様なんですけど。

>まろさん♪
うん、絶対まろさんは真っ只中にいたはずですよね。
あたしみたいに後から聴くんじゃなくて、真ん中でどっぷりと浸からないと、このバンドの本当の良さは分からないような気がするんですよ。どうなんでしょうか。あたしは、相当気持ちいい音だと思うんですけどね。
強引に色んな音楽を聴く時期ってあって、色んなジャンルに触れる時期がある事は絶対大切だと思うんだけど、それってムリもあると思うんです。もちろんお金の余裕もだけど、物理的に全部聴く事ってできないんですよね。仕事にしてるわけじゃないんですから。そうすると、優先順位が出てきちゃうのも、仕方ないと思うんです。聴きたいバンドを、後回しにするわけいかないしね。
ただ、アンテナは張っていたいと思うんですよね。それと、偏見なく聴けるようでいたいかな。そうしないと、触れる機会があるのに気がつかなくて、それこそが損なんだと思ったりするんです。

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