Yankee Hotel Foxtrot / Wilco

ヤンキー・ホテル・フォックストロット / ウィルコ 2002年
進藤むつみのおすすめCD (vol.69)

get "Yankee Hotel Foxtrot"Anodyne / Uncle Tupelo から続く)

オルタナティヴ・カントリーの源流ともいえる Uncle Tupelo は、双頭バンドと呼ばれながらも実質 Jay Farrar のバンドだったと思います。詩もメロディーも歌もギターも、全てにおいて彼がリードしていて、Jeff Tweedy の個性やポップ感は面白いものの、どれをとっても少しずつ力不足。デビュー後3年間の成長は大きかったものの、2人を比べてしまえば、やっぱり Jeff が負けてるんですよね。

そして、Jay Farrar は解散後に組んだバンド Son Volt でも、Uncle Tupelo 時代に得意としたルーツ色を押し進め、強烈な煌めきを見せてきました。もう、オルタナ・カントリーの本流にどっしりと構えて、貫録を感じさせるほどのサウンドを聴かせてくれています。それは強いカントリーへの敬愛を感じさせると共に、彼のハートに嘘がなかった事をも証明したような気がするんです。

対する Jeff Tweedy は・・・、やはり彼が得意としてきたポップ感やパンク的な要素を出してきながらも、最初は自分の求めるサウンドが何なのか分かっていなかったんじゃないかしら。だから、ストレートなオルタナ・カントリー・タッチの曲もありながら、暴力的といえるほどの大音量やノイズで攻めてきたりしたような気がする。だけど、この時の試行錯誤が、そして Jay Farrar がいない事による解放感と焦燥感が、大きく彼を成長させたような気がするんです。

Uncle Tupelo 解散後に Jeff Tweedy が組んだバンドを Wilco といいます。


Uncle Tupelo は、そのサウンドを先導してきた Jay Farrar が脱退する事により解散を迎えます。そして JaySon Volt を結成。Uncle Tupelo のカントリー色を更に押し進めたサウンドは、彼の個性を100%まで生かしたものであるといえるでしょう。今までも自分でバンドを引っ張ってきたわけだから、何も違うバンドを組まなくても・・・って、あたしは思っちゃうんですけどね。彼の不器用さも影響してなのか、100%までの拘りは新しいスタートでなければ切れなかったのかもしれません。

そして、もう一人の Uncle Tupelo である Jeff Tweedy は、ドラムスの Ken Coomer やラスト・アルバム "Anodyne" に参加した John Stirratt, Max Johnston らと共に Wilco を結成します。これも、Jay が抜けた Uncle Tupelo として活動してもよかったと思うんです。だけど Jay の陰を振り切るためには、やっぱり違う形をとる必要があったのかもしれません。

この Son VoltWilco・・・。同じオルタナ・カントリーに分類され、しかも前作のプロデューサー Brian Paulson をそれぞれ起用していながら、全然違うサウンドになっちゃったのが面白い。Son VoltJay のルーツ色を、WilcoJeff のポップ感やパンク色を前面に出したものになりました。


Wilco のファースト・アルバムになる "A.M." (95年) は、彼等のアルバムの中で最もオルタナ・カントリーらしいサウンドといえるでしょう。Uncle Tupelo 時代から彼の個性と言われていたものの、Jeff のメロディーがこれ程ポップだったと気が付かなかった方も多いんじゃないかと思います。あたしは自分のやりたい事を進めていく自由さと、自分がバンドを引っ張っていかなければいけないという責任感が、良い形で表れたアルバムのような気がするんです。当時にしては斬新なサウンドだったのはもちろんですけどね。

ただ、迷いや焦りがなかったわけじゃないと思います。それまでの彼は2番手でしたからね。翌96年に傑作と呼ばれる事になるセカンド "Being There" を発表するものの、そこにはただ明るい Jeff ではなく、陰りのある彼がいました。いえ、ポップなんですよ。それでも、時に暴力的に思えるほどにノイジーなギターや爆音で攻めてくるようなサウンドは、彼のもう一つの特徴であるパンク色が出てるだけなのかもしれないけれど、あたしは迷いもそこに出てしまったような気がするんです。

だけど、そこで全部出したのが良かったのかもしれない。そして、マルチ・プレイヤーの Jay Bennett を得た事も大きかったかもしれない。99年の "Summerteeth" では、一歩突き抜けたサウンドを聴かせてくれました。セカンドよりもファーストに近いポップさを持ちながら、曲の完成度では更に上をいく。いえ、それよりもこのサードを聴くと、無理をしてないように思えるんですね。だから、自然体で聴ける感じがする。まあ、ファンの間で問題作と言われる事があるのは、カントリー色が相当薄まってきたからだと思います。あたしもオルタナ・カントリーというジャンルには収まらない、良質のロック・アルバムだと思いましたからね。


そして、そのスタイルをもう一歩進めたのが、この "Yankee Hotel Foxtrot" (2002年) になるのでしょう。オルタナ・カントリーというよりは、オルタナティヴ・ロック。しかし、発売までの道程は簡単ではなかったようです。なにしろ、それまで契約していたレコード会社からリリースを拒否されてネット上で配信、そして Nonesuch へ移籍してやっと日の目を見たアルバムなんですから。

その理由を考えれば、ひとつにはレコード会社は前作の安定したサウンドを望んだんじゃないかと思います。セカンドの暴力的とまでではいかないものの、実験的でもあるノイジーなサウンドが復活してきているんですね。これはもちろんバンドが望んだものであると思うけど、ミキシング・エンジニアの Jim O'Rourke の影響は相当大きかったと思うんです。

それはオープニングの "I Am Trying to Break Your Heart" のイントロから、すでに感じる事ができるでしょう。あたしは一瞬戸惑ったくらいです。ただ、過激なわけじゃないんですよね。音には隙間もあるし、ピアノやドラムスがホッとさせてもくれる。Jeff のヴォーカルも、彼らしくある種投げ遣りでもあるけれど、語りかけてくるような穏やかさがある。だけど、静かにノイズが攻めてくるんですよね。そして、ノイズの中にあたしの体が完全に浸透した時、彼の心の叫びに気が付くんです。もう、取り憑かれちゃったようなものですけどね(笑)。


ただ、Wilco のポップさが失われたわけではありません。例えば、"Kamera"。なんというポップさでしょうか。そして "Heavy Metal Drummer"。それまでのアルバムの曲よりも、あたしは解り易いと思うんですよね。いい曲であるのはもちろんだけど、単純に乗れる部分がある。それは Jeff の成長?。うん、それはあるけれど、バンドのメンバーに恵まれた事もあると思います。

まずは、この曲を含め殆どの曲で共作している Jay Bennett。曲の作り方にしても、馴染んできたんじゃないかしら?。そして、このアルバムから参加した Leroy BachGlenn Kotche。この2人は前述の Jim O'Rourke 絡みでの加入だと思うけど、特に Glenn の動きのあるドラムスが彩りを添えたと思います。それまでの Wilco にはなかった色気でね。この軽さってチョット特殊だと思うくらいですから。


だけど、アルバム中ポイントになる曲といえば、"Poor Places" かなと思うんです。やっぱり、静かに穏やかに語りかけるように始まるんですね。だけど、だんだん飲み込まれてくる。一瞬明るくなったりもするけれど、それはその先の重さのためにある事が解ります。いつものように Jeff のヴォーカルはボソボソって感じなんだけど、実は彼自身トリップしてる部分があるんじゃないかしら?。だから、あたしも入っていっちゃうのかな?と。そして、アルバム中一番激しいノイズに包まれて曲が終わると、突き放されて呆然としているあたしがいるんです。

他にも、"Radio Cure" での緊張感、"Jesus, etc." の哀愁、"Ashes of American Flags" の切なさ・・・。どの曲も、あたしの心に直接訴えてくるものがあります。ファースト、セカンド、サードと、時に迷いながらも成長を見せてくれた Jeff Tweedy だけど、失礼ながらここまでの表現ができるようになるとはあたしは思っていなかった。ホントに彼の才能に、心から脱帽します。


それともう一つ、ベースにあるポップさとノイジーで実験的なサウンドの裏に、9.11以降のアメリカを見つめ、そしてサウンドに反映した彼の眼も忘れてはいけないと思うんです。レコード会社との関係から発売が延び延びになりながら、それでも2002年の4月に発売されたアルバムなんですね。まさにその時の空気を詰め込んだ事が、一般音楽ファンから受け入れられる要因になったと思います。

そう、この "Yankee Hotel Foxtrot" は、なんとビルボード初登場13位というほど売れたんですね。前作の "Summerteeth" から、すでにオルタナ・カントリーという枠には収まらなくなっていたけれど、まさに全ロックファンに認められた、新しい時代を切り開くサウンドがここにあると思うんです。


その後 Wilco は、2004年に "a Ghost Is Born" を発表。このアルバムも Jim O'Rourke が絡んでいる事からわかるように、 "Yankee Hotel Foxtrot" の延長にあるといえると思います。うん、やっぱり面白いし、こっちの方がチョット過激かな?。だけど、あたしは少し散漫な感じもしちゃうんですね。で、マイナス1点と。また、翌2005年には2枚組みのライヴ・アルバム "Kicking Television" をリリース。ペースを落とさずに、非常に精力的に活動を続けています。


Wilco の歴史は Jeff Tweedy の歴史。アルバムを順に聴き進めていくと、Uncle Tupelo では2番手だった彼が圧倒的なフロントマンになる様子が、一歩ずつ成長していく様子がよくわかります。そして、彼はこのままこの先10年のロックを引っ張っていくと、あたしは思っているんです。

Yankee Hotel Foxtrot
1. I Am Trying to Break Your Heart / 2. Kamera / 3. Radio Cure / 4. War on War / 5. Jesus, etc. / 6. Ashes of the American Flags (アメリカ国旗の灰) / 7. Heavy Metal Drummer / 8. I'm the Man Who Loves You / 9. Pot Kettle Black / 10. Poor Places / 11. Reservations
produced by Wilco / recorded at the Loft, Chicago, IL & (CRC, Chicago, IL, Soma E.M.S., Chicago, IL)
Wilco (web site: http://www.wilcoweb.com/
Jeff Tweedy, John Stirratt, Leroy Bach, Glenn Kotche & Jay Bennett
Jeff Tweedy
born on August 25, 1967 in Belleville, IL

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posted by 進藤むつみ on Autumn, 2006 in 音楽, 2000年代, オルタナ

comments (10)

ふんふん。
なるほど。
オルタナ・カントリーってカテゴリがあるんですねえ。
曲名が面白い。
聴いてみたいです。

>osaさん♪
あたしはオルタナ・カントリーに巡り合ってから、90年代以降の音楽を聴くのが楽しくなったんですよね。
友達には『そんな言葉を作るな!』とか言われるけど(笑)、そんなにマイナーなジャンルじゃないと思う。一部 Emmylou Harris のようにカントリー側からのアプローチもあるけれど、殆どのバンドがパンクを始めとしたロックをベースにして、カントリーにアプローチしてるんですね。それが今の時代の音になってるから、なお面白い。機会があればお聴き下さいませ♪。
・・・まあ、このアルバムはオルタナ・カントリーを卒業しちゃって、普通のロックかオルタナティヴ・ロックになっちゃってますけども。

アメリカのホワイトは基本的にカントリーすきですよねえ。
日本のロッカー(自称)も、みんな演歌入ってるし。
ブラックなんかブルーズなんかぜってえ聴かねえって若いのも、酔っ払うとブルーズしちゃうらしい。
もう出自は隠せないみたい。

>osaさん♪
もう、それは絶対『血』なんでしょう。パンクや超オルタナでもない限り、自然とカントリーになっちゃうんだと思います。だって、それを聴いて育ってきたわけですからね。
だから、osaさんの言われるように日本人は演歌になって、ブラックはブルーズになるのも仕方ない。フランス人はシャンソンになるし、南米だとラテンになって、イギリス人はスコットランド民謡になっちゃうんだと思います。
だけど、悪口を言うつもりじゃなくて、あたしはそれでいいと思うんですよね。それこそがその人のルーツになるわけだし、ソウルが溢れる音楽になるんだと思う。うん、カッコだけつけたってしょうがないですものね。

そうそう。
無理しない音楽が好き。
サンタナが難しい顔してギター弾いてたころのってあんまりすきじゃない。
今じゃ歌って踊ってマラカス鳴らしてるんだもの。
もうちょっとガチンコに弾いたらって気もするんだけど、しょうがないか、ラテンの血だものね。

>osaさん♪
確かに、サンタナは楽しそうですよね。もう思いきり逆らわずにストレートだし、あたしはこれでいいんだよね☆って思うんです。まあ、難しい顔してギター弾いてたサンタナも嫌いじゃないんですけども。
『血』としては違うけど無理しないって意味で言えば、アンプラグド辺りからだから、ここ10年くらいかなあ。Eric Claptonがホントに自由になりましたよね。この人って昔は、何で自分がブラックじゃないのかとまで悩んでて、だから辛そうに見える事もあったと思うんですよね。それが肩の力が抜けたら、無理なくストレートでいながらもいいプレイが聴けるようになって、やっぱり彼も楽しそうだなって思うんです♪。

素晴らしい文章でした。ありがとう。

>niniさん♪
お読みいただいて、ありがとうございます。こういう古い記事にコメントをいただけるのは、ありがたいなあ。

やはりwilcoはシカゴのバンドでかのシカゴセブンの影響もあり政治色が強い!そこが魅力なんだくどアメリカの心ノウタであるカントリーに乗っけて体制批判をかますカッコいいなケイティ・ペリーとはえ大違いたな

>澤原啓介❗さん、初めまして♪。返信、遅くなりました。
なんていうか最近、もっと単純に考えて良いような気がしてるんですよね。かっこいいから好き・・・って。音楽を聴き始めた頃は、そうだったような気もしてるんですけども。

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