Gazer / Minako Yoshida
ゲイザー / 吉田美奈子 1990年
進藤むつみのおすすめCD (vol.10)
吉田美奈子の古くからのファンの人は、"夢で逢えたら" (1976年) のように、ポップで爽やかなイメージがあるかもしれません。だけどこの "Gazer" は、物凄く強烈なファンクなんです。覚悟して聞かないと、吹き飛ばされちゃうくらいのね。
あたしが彼女の事を最初に知ったのは、山下達郎のアルバムへの、コーラスでの参加でした。作詞もずいぶんしてると思ったけど、調べてみれば30曲以上の提供。印象が強いはずだわ。ただ、バックミュージシャンとしての参加と、自身の作品として発表する音楽とは、全く異質なものになります。もちろん、透き通った美しい声は、変る事はありませんけど。
このアルバムを、サウンド面だけでお話しすれば、淡々とした無機質な音と言えるでしょう。"友達" などは、バックのギターさえもが、機械的に刻まれた演奏です。ところが吉田美奈子の歌声が入った時点(曲によってはギターやサックスが入った時点)で、そこにうねりが生まれ、命が吹き込まれるような気がするんだから不思議です。
例えば "Gazer" は、密度の濃い、重量感のあるサウンド・強烈なグルーヴへ。続く "Starlet" は、彼女の声とサックスが相乗して、彩りときらめきを付いていく・・・。七色に変化する吉田美奈子の歌声は、ホントに絶品です。これだけ歌える人って、そうはいません。逆に、だからこそ無機質な音が、丁度良く思えるくらいなんです。
しっとりと歌い上げるバラード "時間を見つめて" が、このアルバムのポイント、頂点と言えるでしょう。あたしが今までに聞いてきた、すべての曲の中でも、ベスト3に入る名曲です。あたしはこの曲を聞くだけで、恥ずかしい事に、涙が溢れちゃうのね。暗い曲調や演奏ではないのに、何でなんだろう?。だけど、そんな曲に巡り合えた時こそ、音楽を聞いてきて良かったと思えるんです。
それと、軽快な "午後の恋人" が次に来る事で、救われる気がする曲の流れ。このアルバムに限りませんけど、曲順ってホントに大切。ベスト盤だとこういう流れを、楽しむ事はできません。
吉田美奈子の音楽は、この "Gazer" で突然変異したのではありません。1980年頃からこういったサウンド、自身のファンクを追求してきました。それでも、ここまで自分を表に出し、こだわって製作されたアルバムは初めてだったような気がします。
ジャケット写真が Amazon になく、表示出来ないのは残念ですが、実はジャケットよりも、歌詞カードを見てほしいんですよ。透明のセルに、様々な色やスタイルで印刷されていて (オリジナル盤のみ)、こんなトコにお金をかけてて良いの?ってくらい。リイシュー盤で変わってしまいましたが、普通の歌詞カードの方が讀みやすいのは、御愛嬌ですね。
- Gazer
- 1. Warning / 2. Gazer / 3. 友達 / 4. Starlet / 5. 愛してる? / 6. Silencer / 7. 時間をみつめて / 8. 午後の恋人 / 9. Corona
- produced by Minako Yoshida / recorded at Unique Recording, NYC, Sorcerer Sound, NYC & Greenpoint, NYC
- Minako Yoshida (web site: http://www.la-la-bells.com/ )
- born on April 7, 1953 in Saitama, Japan.
trackback (1)
私にとっての吉田美奈子とは、この「<b>gazer</b>」を指す。それくらいこのアルバムは何度も聴いてきたし、また逆に、このアルバム...
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