いくらなんでもありえない

それは温泉に着いた時の出来事でした。靴を下駄箱に入れて販売機で料金を払って、カウンターでセットを貰うんですよね。それを確かめながら、あたしは脱衣所に向かっていたんです。ロッカーの鍵、使い捨ての歯ブラシ、黄色いフェイスタオルとバスタオル、赤いガウン・・・。赤いガウン！？。それは違うんじゃないですか？。回りを見ても、まだガウンで歩いてる人がいなくってね。脱衣所に行けばわかるんだけど、階段を上っちゃうのもイヤで、あたしはカウンターに引き返してきたんですよ。

「すみません、赤・・・なんですか？」って、あたし。
「えっ・・・？、女性の方じゃないんですか？」って、お姉さん。
「いえ、男です」（うん、残念ですけどね）
「申し訳ありません。女の人かと思った・・・」
「いえ、男です・・・」

そんな遣り取りがあって、セットの交換になりました。そうか、ロッカーの鍵も違うのか。今度は青いガウン・・・って、やっぱりそうですよね。それで、その後お風呂に浸かってからの経緯は、最初に書いた通りなんだけど、なんかあたし考えちゃったんですよ。ちょっとこれは違うかな・・・ってね。うん、いくらなんでもありえないと思ったんです。

変な格好してたか？・・・っていえば、そんなつもりはないんですよね。セーターは女物だけど、実家にも着て行くくらい地味なのでね。白いフリースだって男女兼用でしょう。ジーンズは・・・、最近あたし女性物のジーンズを穿くんだけど、脱衣所で変な目で見られるのがイヤで、今日はわざと男性物を穿いていったんですよね。あとは・・・髪の毛か。だけど、耳たぶやっと被るくらいですからね。胸？。・・・いえ、セーターでそんなの分かるくらいなら、あたしは嬉しくってたまりません。

自慢するわけじゃなくって、最近は女装してればそれなりのつもりなんですよね。結構、パスできてると思うんです。女性化はあります。女性ホルモン剤の効果はもちろんあるけれど、それ以上に慣れたっていうのが大きいと思うんです。考えてみれば、髪の毛の短くない人間が、スカートを穿いてメイクしてるわけで、そういう象徴を纏っているから、そう見えるんだと思うんですね。だから、逆に・・・普通に男の格好をしてる時は、あたし的には『そんなはずない！』って思っちゃうんです。

思えば２年前に薬を始めて、その年の秋から『奥さん』って呼ばれる事がでてきた。セールスマンだったり、スーパーの試食だったり、観光地のお土産屋さんだったり。スッピン男性モードでそう呼ばれるのって、素直に嬉しかったんですね。だけど去年の春、レディース料金で映画館に入れちゃった時に、おやっ？・・・ってね。やっぱり嬉しいんですよ。だけど、そんなに人って見ていないんだなって思ったんです。それまでずっとムリしていたのに、なんか気が抜けちゃったんですよね。逆に、だから女装して試着したり食事をしたり、平気でできるようになっちゃったんですけどね。

ただ、今回のはちょっと・・・と思いました。うん、それでもやっぱり嬉しいんだけど、『ヤバイ』って思いが強くなっちゃってるんです。

実は『奥さん』って呼ばれたり、レディース料金の時なんかに、あたしは穿った考え方もしてみたんですよね。逆だとマズイよねって。『ご主人』って呼んで女の人だったら、それは問題になっちゃうと思うんです。だけど、まあ『奥さん』な分には流せちゃうんですよね。レディース料金の時もね。だいたい、あたしレディースデイを狙って行ってるんだから、普通料金を請求して女の人だったら大変ですよね。

あと、もう一つ言っちゃえば、トランス系の方のサイトを拝見してると、レディース料金は当たり前なんです。みんな、どこかでそういう風に見られるようになってくる。まあ最低限、薬は服用してる人達ですけどね。だから、ビックリして気が抜けちゃったものの、あたしの身に起こってもあり得る事だと思ったんです。

だけど繰り返しちゃうけど、お風呂はどうなんだ？。やっぱり、世の中にありえない事じゃない。女性として生きようとしているGIDの人とか、仕事としてる人とかにとっては、当たり前の事でしょうね。だけど・・・問題は『あたし』なんですよね。

自分でも女性化が進んでる意識はあります。いつも控えめな表現をしてるけど、内服薬だけでしかも量も少なめなのに、相当な効果が出ています。ただ・・・あたしは、ここまでじゃないつもりだったんだ。友達に『おばさんみたいだな』とか言われても、そう見える事もあるくらいのつもりだったんですよね。

・・・うん、やっぱりヤバイです。

女装した時に女性に見えるのは、これはもう理想です。だけど、男でいる時には、女っぽい男でも十分なんじゃないかと思ったんですよ。実際には中側から変わってるんだから、あたしはたぶん自信を持っていい。一日考えてたんですけどね、明日、髪の毛を切っちゃおうと思うんです。きっと、この長さが一つの象徴なんですよね。耳を全部出しちゃうくらいにしちゃえば、男に留まれるような気がするんです。

わけわからない事を、言ってるように聞こえますか？。だけど、昼過ぎに帰ってきてから、あたしはずっと考えていたんですよね。そうしたら、ヤバイって思いが、あたしをペシャンコに押しつぶそうとしてるんです。もう、動悸が止まらなくて、気持ち悪くなっちゃって、吐き気がひどくって・・・。このままだと、あたしは壊れちゃいそうな気がするんですよね。
 

[追記の追記：2006.2.27　23:02]
あたしには、この記事を最終的に仕上げてアップした記憶がありません。それほどパニックになっていたんだと思います。
気持ちが落ち着いて読み返してみれば、何を言いたいのか分からない上に一貫もしていない。このままここに置いておくのがみっともなく思えて、あたしは一度この記事を下げてしまいました。
だけど、もう一日が過ぎて、また少し落ち着いてくると、これもまたアリなのかなと思いはじめました。この日の記録として、ここにあってもいいような気がしてきたんです。
最初の状態のままで、もう一度ここにアップします。おかしいと思えるところも、あえて直していません。だから・・・あたしは大丈夫です。たぶん、このままパンクしちゃうことはないと思います。